H30司法試験 民訴 答案例
H30司法試験民訴の答案例です。
例によって、自己責任でお願いします。
構成時間は15分。8枚書く前提です。
個人的には、民訴は問題を読み終えた時点でルートが思い浮かんでなければダメです。そこから、論理矛盾がないか検算をし、小見出しを考えます。そこまでで15分です。民訴は丁寧に論理を積み上げなくてはならないので、意外と必要不可欠な論述量は多いです。ルートが思い浮かばないのであれば、時間をかけて頭をひねってみても結果は多分同じです。つまり時間の無駄です。
本問は設問1がどうしてもボリューミーになってしまいます。
なので適宜三段論法を端折っています。
8枚前提でもそうなんだから、構成が長引けばどうなるかは言うまでもないですね。
第1 設問1課題(1)について
1 民事訴訟法(以下略)142条による却下の可能性
142条は①既判力ある判断が矛盾抵触するおそれの発生、及び②審理の重複等の弊害、を回避するために重複訴訟を禁止している。ここに「継続する事件」とは、両訴訟の当事者及び訴訟物が同一である場合を包含する。
自認部分ある債務不存在確認請求は明示の一部請求の反対形相である。したがって、訴訟物の分断が認められ、その訴訟物は当該債権(債務)から自認部分を控除した一部である。Bの訴えは自認部分ある債務不存在確認請求であり、その訴訟物は、AのBに対する不法行為に基づく損害賠償請求権の内、自認部分を控除した一部である。Aの訴えの訴訟物は同請求権の全部である。両訴えの訴訟物間には量的相違が存在するけれども、①同一事故に基づく人身損害が主張され、②損害の大部分である250万円において重なる関係にあるので、訴訟物の同一性を肯定してよい。両訴えの当事者は同一であるから、Aの訴えは142条で却下されうる。
2 反訴による却下回避
当事者と訴訟物が同一であっても、反訴提起であれば「更に」(142条)訴えを提起するわけではない。反訴は訴訟内の訴えだからである。Aの訴えは給付請求であり、債務不存在確認請求であるBの訴えの反対形相とも言うべきものなので、「本訴の目的である請求……と関連する請求」(136条1項柱書)にあたり、同項各号にも該当しない。したがって、Aの訴えを反訴として提起することで142条による却下を回避し適法に訴えを提起できる。
この場合、Bの訴えは訴えの利益を欠き却下される。なぜなら、給付訴訟は確認訴訟に執行力ないし給付命令を加えたものであり、紛争解決能力が確認訴訟より大きい。Aの訴えが反訴として提起されれば、Bの訴えも実質的にその中で審理判断されることになり、これを存続させる実益がないからである。
3 Cをも共同被告とすることの可否
AはBとCを同一事故に基づく共同不法行為として各人に損害賠償請求をするのであるから、「同一の事実及び法律上の原因に基づく」(38条前段)と言え、通常共同訴訟の要件を充足する。
よって、Cをも共同被告とすることができる。
第2 設問1課題(2)について
1 142条による却下の可能性
Aが甲地裁に訴えを提起する場合、反訴による却下回避は不可能である。Aの訴えとBの訴えは当事者及び訴訟物が同一なので、時的に遅れるAの訴えは142条で却下されうる。
2 併合により反訴と同視できること
反訴も単純反訴であれば弁論の分離(152条1項)が可能であり、既判力ある判断が矛盾抵触するおそれや審理の重複が生じうる。この点では訴えが併合された場合と違いはない。また、先述したように給付訴訟の紛争解決能力は確認訴訟よりも大きいので、時的に先行する訴えを残すよりも給付訴訟を残した方が当事者間の紛争を一挙に解決するのに便宜である。以上の理由から、訴えが併合された場合には反訴の場合と同様に扱い、142条による却下を否定すべきであり、その前提として裁判所は弁論を併合するよう裁量権を行使すべきである。
3 17条移送の検討
併合ができるのは同一裁判所に係属する事件に限られる。併合の前提としてBの訴えを甲地裁に移送しなくてはならない。
B・Cは治療費が適正か、後遺症の認定が適正かを争っており、領収書や診断書を証拠調べするだけでなく医師を証人として尋問することになる可能性が高い。甲市はD病院の所在地であり医師の出廷に便宜な地であるので「訴訟の著しい遅延を避け」るのに移送が必要である(17条)。また甲市はA・Cの住所地であり両名に便宜な地であり、他方で事業者であるBは自己の住所地以外の地での応訴を覚悟すべきであるから、A・Cの便宜のため甲地裁に移送するのは「当事者間の衡平を図るため必要」である(同条)。
4 以上から、裁判所はBの訴えを甲地裁に移送した上で、これをAの訴えと併合すべきである。これによりBの訴えは訴えの利益を欠くに至り却下され、AはAの訴えを適法に甲地裁に提起することができる。
第3 設問2
1 予想されるDの反論
Dは「第197条第1項第2号に規定する事実」で「黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書」に該当するので提出を拒否すると反論することが予想される(220条4号ハ)。220条4号は一般的文書提出義務を規定しており、同条1ないし3号との関係上、4号イないしホに該当しないことについては挙証者側に主張立証責任があると解される。
2 220条4号ハの解釈
形式的には4号ハに該当するものであっても、医師等が黙秘義務を負う相手方(以下「秘密の主体」という)が訴訟当事者となっており、かつ提出命令の申立てがされた文書を秘密の主体が所持しているとすれば、提出を拒めないような場合には、医師等が黙秘義務以外の特段の利益を有していない限り、4号ハにはあたらないと解すべきである。秘密の主体が提出を拒めない以上、黙秘することが正当な利益とは認められないからである。
3 本件の検討
秘密の主体であるAはAの訴えの原告である。診療記録をAが所持していたとすれば、220条4号イないしホにあたらず文書提出を拒むことはできない。Dは黙秘義務以外に提出を拒む正当な利益を有しない。
よって、同号ハには該当せずDは提出を拒むことはできない。
第4 設問3
1 主張(ア)の当否
本件では補助参加に対してCが異議を述べているので、「裁判所は、補助参加の許否について、決定で、裁判をする」ことになる(44条1項前段)。
補助参加は独自の請求を定立するものではないので、上告審係属中でも可能である。したがって本件では時的制限は問題とならない。
補助参加は「補助参加人……訴訟行為とともにすることができる」(43条2項)。補助参加人は上訴の提起ができる(45条1項本文)。被参加人が上訴しないというだけでは同条2項の抵触行為として補助参加人の上訴を妨げることはできない。かく解さないと同条1項本文による上訴提起が一切できなくなるからである。
よって主張(ア)は妥当でない。
2 主張(イ)の当否
同主張は補助参加の利益を否定するものと解されるので以下検討する。
(1) 「訴訟の結果」(43条)とは、訴訟物の存否に関する判断に限らず理由中の判断をも含む。判決が第三者との関係で意味を持つのは理由中の判断であることが大半だからである。
(2) 「利害関係」(同条)は補助参加人になろうとする者の法律上の利害と「訴訟の結果」が関係を有することを要求するものである。
Aが控訴しないままAC間訴訟が確定してしまえば、BがAに損害賠償をした後にCに求償する際に、AC間判決が参照され求償を否定する判決がなされるおそれがある。求償権は法律上の利害であること明らかであり、AC間判決が不利に参照されることがないよう、BはAを補助する必要がある。たしかにBとCは共同被告であるが、AC間訴訟との関係ではBは第三者であり、Aへの補助参加を否定する理由はない。
(3) 以上から主張(イ)も妥当でない。
3 よって、裁判所はBの補助参加を認める決定をすべきである。
以上