今年他界した巨匠カルロス・サウラの作品。

 

メキシコ。演出家マヌエルは新作ミュージカルを構想しており、元妻で振付師サラに協力を求める。交通事故によって車椅子になる主人公を演じつつ振付を行うサラ。その他の登場人物についてはオーディションが行われ、イネスという少女が頭角を現し……。

 

ミュージカルを制作する様子を描いたミュージカル、という構造プラスおそらく現実の時間も描かれているというメタ構造。ちょっと、というかかなりわかりにくくはあるのだが、起こる出来事はそんなに複雑ではないので難解な作品ではない。

 

元妻との復縁を求める演出家、男性2人と女性1人の恋愛模様、女性の家庭における凄惨なトラブルなどがパラパラと語られていくのだが、映画としてのメインはコンテンポラリーダンスのシーン。民族音楽をベースに、ダンサーの身体性を全面に押し出した群舞が次から次へと出てきて圧倒される。全体的のどこまでが虚構でどこからが現実なのかよくわからないこともあり、映像と芸術の世界に迷い込んでしまったような不思議な没入感のある作品だった。

 

カルメン(オーディションでの演技テスト)とウェストサイドストーリー(男女に分かれたダンスシークエンス)とコーラスライン(鏡の前でのソロダンス)を彷彿とさせるミュージカルシーンに、陰惨なメキシコの裏の顔や内戦(スペイン?)を思わせる描写など、非常に感覚的にパッチワークされている。まさしく「考えるな、感じろ!」という感じ。冒頭に登場する破壊された車からして暴力や死の匂いが立ち込めているのだが、ダンサーたちが体現しているのは紛れもない「生」。さらにサラやイネスを始めとした登場人物たちがものすごく魅力的で生命としての輝きを放っているので、死と性の強烈なコントラストが脳にビリビリきて軽いトリップ状態に陥ってしまった。こういう映画好きなんだよなー。