ルカ・グァダニーノ監督最新作。

 

高校生の有望選手で親友同士のアートとパトリックは、ジュニアの大会で出会ったスター選手のタシに一目で夢中になる。タシは高校生ながら多額のスポンサードを獲得しスター街道を驀進していた。「決勝で勝った方と付き合う」という言葉を受け、2人は試合に臨むのだが……10年以上にわたる3人の駆け引きと恋愛模様が時系列をザッピングしながら綴られていく。

 

おもしろー!そして結構アホ!!!

 

大好きなマイク・ファイスとが出演しているということで去年から楽しみにしていた本作。想像よりもしっかりテニスをしていたし、かなり構成が複雑な作品でもあった。

 

圧倒的なカリスマ性とルックスの魅力でスクリーンを支配し続けるゼンデイヤ。とにかく本作の軸は彼女でしかない。ゼンデイヤと出会った瞬間にライバルとなったアートとパトリックの牽制と駆け引き、2人を同時に手玉に取る高校生のゼンデイヤ。意外と高校生役も不自然ではない3人のフレッシュな魅力が光る。

 

タシは大学時代に足を負傷し選手生命を絶たれるわけだが、自分の代わりにパートナーを一流プレイヤーにするという野望に搔き立てられる。不調に苦しむ夫を地方トーナメントに出場させ、その決勝戦で長年疎遠になっていた親友同士は久々に対決することになる。

 

言葉はスリリング、身体はエロティック。いや、エロティックというよりも「エロい」だな。とにかく絡みまくりキスしまくる3人なのだが、実はキス程度までのシーンしか出てこない。その代わり、思わず吹き出してしまうようなエロのメタファーが何度も登場。しかも、それらのメタファーが出てくるのはすべて「アートとパトリック2人のシーン」なのだ。

 

バナナ、チュロス、サウナ……露骨すぎるエロ要素が不自然なほどにぶち込まれ、妙に至近距離で会話するアートとパトリック。嘘や牽制にまみれたスリリングな会話に対して、画面は中二病的なエロに終始支配されている。アホだ。とてもアホだ(褒めている)。そして、この感覚はおそらくタシも共有しているものであり、むしろタシが求めているものの本質でもあるのだろう。同時に愛した2人の男を自分承認欲求のはけ口にすると同時に、タシは「最高のエロ」を投影する対象として2人に競わせているのだ。やばー。でも、わかるー!となりつつ、ガンガンに鳴り響くテクノな劇伴が観ている者のテンションをいやがおうにも上げていく。

 

とにかく時系列が飛びまくるので髪型などで判断しなければならず、気が抜けないタイプの映画でもある。ラストのテニスマッチが基準点で、そこから過去の色々なポイントに向かって話がいったりきたりする。また、カメラアングルでも相当遊んでいて、ありとあらゆる手法でテニスのゲームを映し出す。しまいにはボール目線のアングルまで出てきたものだから少し酔った。


『ボーンズアンドオール』が血と死体にフォーカスしていたので一瞬忘れかけていたが、よく考えたらこの監督は『君の名前で僕を呼んで』の桃のシーンを撮った人間だった。『ボーンズアンドオール』だってマーク・ライランスのヌメっとした質感は大概だったし、とにかく物理的な質感を感じさせるアホ演出に異様なこだわりを感じる。本作は前作2つよりも健康的な爽やかさがあるものの、スクリーンから汗が飛び散ってきそうな生々しいギラギラした質感に満ちている。そして、悔しいがそれってすごく興奮する。とにかく最後の最後にこちらもゼンデイヤと一緒に叫びたくなるほど滾ってしまう。くそお、まんまとルカ・グァダニーノにしてやられた!!好き!!!

 

大好きなマイク・ファイスとは案の定ちょっと損な役回りではあったが十分に魅力的。しょぼい狡さがあるところも◎。ジョシュ・オコナーの腹に色々と抱えているセクシーな悪さも大変に良い。唯一のマイナスポイントはパトリックに洞察力がありすぎて、彼がセリフでけっこう説明してしまうところ。もっと観客を信頼しても良かったと思う。

 

そして、なんといってもあのサーブで伝える「ヤったかヤらなかったか」の伏線回収が効きまくっていた。最大の伏線回収が一番アホなやつ!!最高だよ。