十代目・松本幸四郎を主演に迎えた『鬼平犯科帳』新シリーズの映画版。

 

ある日、平蔵の若き日を知るおまさという女性が「密偵にしてほしい」と尋ねてきた。きっぱりと断る平蔵だったが、おまさは何とか平蔵の力になりたいと考える。そのころ江戸の町では、屋敷の者を皆殺しにするという強盗が発生。現場には平蔵を挑発するようなメッセージが残されていて……。

 

平蔵の過去と現在がパラレルに描かれ、凶悪な強盗事件とも絡み合う形で進んでいくストーリー。若き日の平蔵・長谷川銕三郎を松本幸四郎の息子である市川染五郎が演じている。実は私は鬼平犯科帳が結構好き。というのも、父が鬼平ファンだからなのだが、他の時代劇よりもスタイリッシュというか、渋くておしゃれな感じがして好みだった。エンディングテーマがラテンギターだったりしたしね!

 

今回はとにかくキャスト豪華。そして、ドラマとしてのカッコ良さは健在。一歩引いたところから、酸いも甘いも知り尽くした故の懐の深さと厳しさを感じさせる長谷川平蔵は、やはり魅力的なキャラクターだ。ちょっと何を考えているのかわからない雰囲気と、本当に遊んでいそうな軽さがあるのが良い。松本幸四郎にとても合っている役だと思う。一方で息子・染五郎が演じる銕三郎はギラギラしていて少し危なっかしい空気を纏っていて、これまた魅力的。怖いくらいの美男子だということも相まって、誰もが魅了されてしまうという設定の説得力がすごい。カリスマ性があり放っておけないという唯一無二の個性を、親子ともどもに表現している。

 

また、本作で特に良いと思ったのが、悪役の造形。北村有起哉が演じる網切の甚五郎がとにかく悪人で容赦がない。なんせ、子どもにいたるまで忍び込んだ屋敷の人間を皆殺しにするんだよ?躊躇なく人を切り捨てるわりに、平蔵に対しては異様な執念を燃やすという不気味でねちっこいキャラクターを、実に生き生きと演じていた(めっちゃ楽しそうだった)。

 

逆に、柄本明はちょっとやりすぎかな。おまさ役の中村ゆりは好演だったものの、少しの出演の志田未来や松本穂香の方がインパクトが強かったのは否めない。役のせいもあるが、おまさにはもっと思いつめた表情以外の多彩な芝居を見せてほしかった。

 

アクションシーンも色々な演出で魅せてくれたのだが、特に好きだったのが強風ふきすさぶ廃屋での立ち回り。パッカパッカと馬で乗りこみ、ビュンビュン風が吹く中でバッタバッタと敵を倒していくわけだが、少し上から捉えた画がカッコ良かった。