ハリー、ロン、ハーマイオニーが魔法界を救ってから19年後、かつての暗闇の世を思わせる不穏な事件があいつぎ、人々を不安にさせていた。魔法省で働くハリー・ポッターはいまや三人の子の父親。今年ホグワーツ魔法魔術学校に入学する次男のアルバスは、英雄の家に生まれた自分の運命にあらがうように、父親に反抗的な態度を取る。幼い頃に両親を亡くしたハリーは、父親としてうまくふるまえず、関係を修復できずにいた。そんな中、アルバスは魔法学校の入学式に向かうホグワーツ特急の車内で、偶然一人の少年と出会う。彼は、父ハリーと犬猿の仲であるドラコ・マルフォイの息子、スコーピウスだった!
 

二人の出会いが引き金となり、暗闇による支配が、加速していく・・・。(舞台公式HPより

 

ようやく観られた!息子と鑑賞。ちなみに石丸ハリー、笹本ハーマイオニー、石垣ロン、大和田ジニー、松田マルフォイ。

 

特殊効果満載の派手な作品なのかと思って臨んだのだが、いやはやかなり演劇的。むしろ、かなり痛みが強いタイプのストーリーがグサグサ来た。中年となり父親になったハリーをPTSDを抱えた不完全な存在として捉えており、反抗期を迎えている息子との向き合い方に悩む(というより、思いっきり対応を間違える)親という側面がかなり強調されている。

 

どちらかというと内面的な問題からすれ違いぶつかりあうポッター親子とは対照的に、外的な要因で苦しみ続けるマルフォイ親子もかなり解像度高く描かれていて、痛みを伴う変化や成長といった普遍的なテーマがグイグイと物語を引っ張っていく。

 

とはいえ、ストーリーが単調なわけではもちろんない。時間軸を行き来するストーリーは起伏に富んでいて、冒険要素も強く飽きさせない。期待した魔法要素も満載なのだが(そのうちの多くは仕掛けがまったくわからない)、あくまでもそれらはストーリーやテーマに伴走する要素に過ぎないのが良かった。彼らの世界では魔法は当たり前に存在するものであり、ことさら目立つようなことではないわけなので、考えてみれば当たり前なのだが。シルクドソレイユのようなショーではなく、あくまでも「演劇」であることが本作の大きな特徴だといえるだろう。

 

続いて演出について。本来は前編、後編と分かれているストーリーをドッキングしているからなのか、最初はあまりに早口で呆気に取られてしまった。冗談抜きであんなに早口の舞台を観たことがなくて、しばらくは早送りで見ている気分だった。また、冒頭にハリー・ポッターの基礎知識や前提情報を説明してくれるというような親切さは皆無。ハリー・ポッター本編の流れや登場人物は頭に入っていることが大前提で冒頭から猛スピードで飛ばしていくので、できることならば予習してから臨んだ方がいいだろう。(知らなかったとしても、「よくわかんないけど〇〇って人は死んだんだな」など、ざっくり想像しながら楽しめるとは思うが)

 

そして、さすがに長いだけあってキャラクターの深堀り具合は素晴らしい。中心となる少年ふたりはもちろん(特にスコーピウス役の門田宗大は素晴らしかった)、大人たちの細かい感情や葛藤も繊細に表現されていた。どこからがネタバレになるのかがわからないので細かく書けないのがもどかしいのだが、あれだけ長いのに中だるみが一切ない舞台だったということは断言できる。

 

魔法がらみの演出だけでも、これまで味わったことがないレベルの驚きを確約できるし、苦しいタイプの演劇が好きな方には特に満足できる内容だと思う。ミュージカル畑の人が多いのに一切歌わないのだけがもどかしいのだが(笑)、それ以外は値段の価値は十分にある作品。できれば舞台全体を見渡せる席で鑑賞していただきたい!