ロアルド・ダール原作。今まで何度も映像化されてきたことはよく知られているが、今回は2013年にロンドンで、2017年にNYで上演されたものをベースに日本オリジナル演出で上演されたものになる。

 

両祖父母と母親と暮らす貧しい少年チャーリーが、5枚しかないウォンカチョコレートのゴールデンチケットを手にして夢のチョコレート工場に足を踏み入れるというこの物語は、子供のころから私の心をつかんだ。特に、チャーリーがチョコのにおいをかぐ描写や、包み紙をドキドキしながら開ける描写がたまらなく魅力的で、何度も何度も読み返したのを覚えている。

 

1971年の映画版もレンタルビデオ屋で借りてきて何度も観た。もちろんティム・バートン版の映画も。先日公開された前日譚もとても楽しかった。

 

 

堂本光一主演の今回のミュージカルもとても評判が良かったので、満を持しての鑑賞となった。いやあ、良かった!

 

増田セバスチャンディレクションによるカラフルでポップな世界観は好みというわけではなかったのだが、敢えて視点を分散させるような情報過多な美術が本作のゴチャゴチャして説明がつかないストーリーにマッチしていた。振付のフォーメーションも基本的に広い面積に散らばった形なので、とにかくずっと情報の洪水を浴びているような感覚に陥る。

 

ハートフルとナンセンス、道徳的なメッセージと残酷な展開、といったある意味アンビバレントな要素が常に並走しているストーリーなので、視線を誘導しない美術と演出の方向性は良い意味での混乱を生み出していたと思う。(難解ということではなく)わかりやすさや単純さを回避した、深みのあるミュージカルに仕上がっていた。

 

それでも1幕はかなり抑えていた。原作では非常に貧乏で暗く汚いイメージのチャーリー家まわりはパステルカラーで柔らかい雰囲気になっていたが、トーンとしてはあくまでも控え目。慎ましやかで大人しいが強い情熱を秘めているチャーリーと彼を見守る家族との関係、つかみどころがないウォンカのキャラクターをビビッドに際立たせていて秀逸。対して、ゴールデンチケットを引き当てた子どもたちの紹介シーンはわかりやすくショー仕立てになっていてコントラストが見事だった。それにしても、今どきの子役はすごいね。特にヴァイオレット役の子の声量と、マイク役の子のこなれた身のこなしに感心してしまった。

 

2幕に入ると、ギアは一気にMAXまで上がる。全力でド派手なセットに、「こうきたか!」と手をたたきたくなったウンパルンパの印象的なルックス(尋常じゃないほど膝と腰を酷使するであろう動きには同情する)、嵐のようなテンションでクライマックスまで一気に駆け抜けていく構成は素直に楽しい。本心が見えずにつかめないものの、悪い人ではないことはわかる堂本光一のウォンカもとても良かった。

 

翻訳ミュージカルとしては特筆すべき成功例だろう。惜しむらくはチケット入手が難しいことかな。できれば子供たちに見せてあげたい内容なだけに、そこはかなり残念だ。ラストのまとめ方とか、うちの息子が見たら相当な刺激を受けたに違いないと思うもの。

 

あとは、歌唱力ね...『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』でも歌われていた「ピュア・イマジネーション」や71年の映画版でもインパクト大だった「ウンパルンパ」をはじめとして良い曲が多いのだが、うーん。堂本光一については声質、観月ありさについては訓練量の問題なのかなあ。とても誠実に取り組んでいるのはわかるのだが、楽曲の魅力を十分に届けられる歌唱力とはいえない(ファンの方ごめんなさい)。特に「ピュア・イマジネーション」はとても難しい歌だと思うので、かなり残念だった(映画『ウォンカと~』でウォンカを吹き替えた花村想太の歌唱と聴き比べれば明らかだろう)。

 

なにも岸祐二のようなわかりやすいパーンとした歌唱ではなくても良くて、小堺一機のような歌い方でも十分に成立していたのだが(ブロードウェイのベテラン俳優みたいなこなれたパフォーマンスで良かった)、堂本光一と観月ありさに関してはもっとブラッシュアップをする余地がかなりあると感じたし、するべきだと思う。再演では期待したい。