デビッド・フィンチャー最新作。

 

パリで暗殺の依頼を遂行していた完璧主義者の殺し屋。いざターゲットを撃とうとしたそのとき、運命の歯車が狂ってしまう。そこから巻き起こる顛末を主人公のナレーションと共に追っていく……。

 

とにかく、脳内では口数が多い無口な主人公役にマイケル・ファスベンダー。クールで仕事一徹の殺し屋かと思いきや、かなりのドジっ子なところがポイント。

 

確実に仕事を遂行するための心得を何度も何度も語っていたり、やたらストイックな待機期間が印象的だが、肝心なところでとんでもないミスをする主人公。殺し屋なんだから失敗したらとんでもないことになるのは当たり前なわけで、でも『悪の法則』のファスベンダーくんみたいに裏社会の素人ってわけでもないんだから、ジタバタあがいたりしないのかと思いきや、とんでもない。恋人に危害が加えられたと知るや否や(依頼主も驚いてたけど、すぐに帰宅した時点でどうかしてる)、公私混同も甚だしい復讐マンへと変貌と遂げる。どうして殺し屋を職業に選んだの。そもそも絶対に向いてなかったよ。

 

クールなファスベンダーフェイスにザ・スミスの音楽、そしてほぼひっきりなしに流れ続けるファスベンダーのイケボな心の声、かっこよく切り替わるリズムの良い映像、世界中の都市を色々な名前で飛び回る目新しさに騙されそうになるが、これってドジっ子コメディでしょ?

 

ティルダ・スウィントンのことをタクシーの兄ちゃんが「綿棒みたいな女」と形容し、そのときは「綿棒みたいな女?なんだそれ?」と思いながらも、終盤で実際にティルダ様を見て「確かに綿棒みたいな女だ」というシーンが一番わかりやすいが、けっこうハッキリ笑わせに来ている作品だと思う。

 

さらにいうと、クールで渋くかっこいい作品になりがちな殺し屋映画を、「実際は全然かっこよくなんてない」と崩しにかかっている作品だとも言える。完璧主義だったり、理想のお仕事論を唱えていたところで、しっぱいすりゃボロボロになるし、公私混同はあり得ないなんて不可能なんだよ!人間だもの。というメッセージ。

 

本作の中でいとも簡単に消されていく命のように、主人公の命も軽い。人間とは愚かで、同時にまた愛おしいよなあと感じさせてくれる、絶妙なバランスの殺し屋映画だと感じた。