崖っぷちタクシー運転手シャルルは、92歳のマダムをパリの反対側まで乗せることに。しかも、マダムは色々と寄り道をしたいと言い出す。彼女に付き合ってパリ中を移動するうちに、徐々に彼女の波乱の人生が明らかになり……。

 

めっちゃ良かった!

 

国民的シャンソン歌手のリーヌ・ルノーが実年齢でマダムを演じているのだが、余裕があってキュートな上品さが素敵としか言いようがない。最初は迷惑そうだったシャルルも、すぐに彼女のペースに巻き込まれていく。と言っても、全然強引な感じではない。

 

マダムは機転が利いて賢くて、洞察力がある。パリの街を流しながら少しずつ明かされるマダムの過去は意外なほどにヘビーで、かつゴリゴリに社会的なメッセージが強く呆然。あまりに辛い過去を乗り越え、優雅に微笑むマダムの貫禄にシャルルも観客も魅了されていく。

 

私が本作をとても良いと思ったのは、撮影事態に配慮が考えられる点。キャラクターと同じ年だというリーヌ・ルノーにハードな撮影を強いるわけにはいかないわけだが、本作の車内のシーンはおそらくすべてスタジオ撮影だと思われる。まったくそうは見えないほどに技術が進歩したからこそではあるものの、制約のある条件下で見事に時空を感じさせるロードムービーを作り出していることに感心した。

 

また、現代のおとぎ話ともいえるラストにも好感。なぜそんな展開が可能かというと、マダムの悲しい過去が故なわけで……1日限りの夢のような素敵な出会いを、一歩飛躍させた人間賛歌。こういう作品は嫌いになりようがない。映画らしい映画で大好き。