スティーブン・ソンドハイム作曲による歴史絵巻。黒船が来航し、日本が鎖国を解いていく様子が描かれる。

 

ストーリーは割愛。まず、抽象的な美術セットが印象的。下手側に大きく弧を描くように据えられたあの板、どうやって地方に運んだんだろう。また、上手に大きく開けられた円が様々な姿となり、ときに奥行きを、時に物理的な扉を表現していた。また、敢えて遠近法を無視したデザインというか、空間をゆがませるようなデザインが頻出し、どこか違う世界のような感覚を呼び起こさせる。

 

重心を大地に向けつつ、流れるように浮遊する振付も素敵で、確かな歌唱力を備えた出演者の見事なハーモニーを空間に満たす媒介となっていた。摩訶不思議な歴史絵巻が、スタイリッシュで幻想的なビジュアルとこの上なく美しい歌声によって目の前で展開していく不思議な体験だった。

 

正直、ストーリーはわけがわからない。いや、わかるのだが史実と違いすぎてなんと言っていいものか……よくここまで史実から変えられるなと感心するレベルだ笑 これといった盛り上がりもないし、ドラマとしてだけ評価するのは難しい。しかし、わけがわからなくてつかみどころがない物語の線を、音楽が包むことで確かに伝わってくるものがある。それが何かはハッキリとはわからないが、時代ともに変化していかざるを得ないものと、それでも変わらず我々の中に残り続けているものと、それらを混然一体とさせた共感覚のようなものが心の中に残った。

 

キャストとしては、香山を演じた廣瀬友祐がとても良かった。まず、あのスタイル。ビジュアル効果がかなり重要な本作において、彼は相当なパワーを放っていた。和装から洋装になってからのハッとする立ち姿に加え、日本男児らしさも備えた顔立ち。また、生真面目そうなキャラクターも役に合っていたし、非常に丁寧に挑んでいた歌唱も素晴らしかった。

 

朝海ひかるの女将のシーンも出色の出来。所作の美しさが存分に発揮され、下品になりきらないギリギリの色気と豪気を見事に表現していた。

 

残念だったのは衣裳。将軍を始めとして、コントっぽい衣裳が目立ち美術セットのアーティスティックな雰囲気には合わなかったと私は感じた。それにしても、「Pretty Lady」のシーンは怖かった……いままで観たミュージカルの中でもダントツで怖いシーンだったかもしれない。