パク・チャヌク監督最新作。

 

山頂から男性が転落死した。捜査にあたったヘジュンは、男の妻ソレを事情聴取することに。中国からの移民であるソレは美しくミステリアス。怪しいと思いながらもヘジュンは彼女に惹かれていき……。

 

ラブミステリーとでもいうべき映画。画面の切り替えや場面転換の逸脱は森田芳光や木下恵介の実験的な映画のようであり、ヒッチコック(特に『めまい』)を強く想起させるストーリー展開も、クラシックなミステリー映画の印象を強くさせる。衣裳の色合いやインテリア、料理や小道具の使い方、ラストシーンに代表される徹底的にこだわりぬいたロケーションと撮影は芸術性が極めて高く、スクリーンを観ているだけでかなり満足できる作品に仕上がっている。

 

【以下ネタバレあり】

 

 

 

 

 

 

 

薄幸で放っておけない美女と既婚の刑事が恋に落ちる物語なのかと思っていたが、ソレはつかみどころがないファム・ファタールではなくてめちゃめちゃグイグイくるファム・ファタールだった。「あなたのことが好き」と相手に言わせたくて仕方ないオーラがすごくて、強引に詰め寄ってきて怖い(個人の感想です)。ヘジュンは優秀だが鈍感で優柔不断。隙がありすぎなので、むしろ彼の方が放っておけない感が強い。実際、相棒の若手刑事も妻もヘジュンが危なっかしいとハラハラしているし。(そしてなぜか皆ヘジュンのことが大好き)

 

物語は前半と後半でけっこうクッキリとわかれており、メロドラマ色が強い前半に対して、後半はミステリー色が強くなる。刑事としての相棒も後半の人物は有能かつ冷静なので、ヘジュンの判断が曇っていることや優柔不断なことが俄然強調されてくる。前半はなんだか運命の恋っぽいロマンスでごまかされてしまっていたが、後半では「ヘジュン、アホだな……」というイメージが強くなる。

 

ソレは思い込みが激しくて自己中心的でヤバい女なのだが、対してヘジュンの妻がとてもユニークなキャラクターなのが面白い。賢く経済力があり、ウィットに富んでいて洞察力もあり、おまけに決断力もある魅力的な人物で、「友達になりたーい」と思わせる女性に描かれている。こういうストーリーの場合、たいてい妻は鈍感で被害妄想と依存体質の女性に描かれていることが多いが、本作の場合は「こんな妻がいるのに何やってんだよヘジュン」と思わずにはいられない(特に後半)。

 

スマートフォンやスマートウォッチの使い方は秀逸で、全体的にレトロな作風とのコントラストも良い。中国と韓国という言語のズレをはじめ、いろいろな「ズレ」や「受け取り方の違い」を展開のカギにしているのも上手い。緻密に練られたプロットはそれだけでワクワクするし、繰り返しになるがこだわり抜かれた映像も強烈な魅力を放っている。

 

それにしても、相手の言葉を深読みしすぎたり、相手の言葉の真意にまったく気づかなかったり、他のことに気を取られて重要なことを見落としたり、人間って本当に不器用ですよねえ。ヘジュンはあまりに鈍感すぎるからすべて失うのも自業自得だがな!!

 

あ、あとあの登山ハードすぎるでしょ。素人には無理だよ、無理。

 

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