『RENT』のジョナサン・ラーソンによる自伝的ミュージカルの映画化。主演はアンドリュー・ガーフィールド、監督はリン=マニュエル・ミランダ。

 

あと数日で30歳になるジョナサンは、8年の歳月をかけた新作のワークショップを目前に控えていた。何も成し遂げることなく30歳になってしまうことに焦り、まるで頭の中に時限爆弾があるようだと思うジョナサン。ミュージカルの夢を諦めて広告マンになった親友、定職につくことを考えているダンサーの恋人らに囲まれながら、ジョナサンはライフラインも切られそうなフラットで必死にもがく。作品を完成させるためにもう1曲書けとソンドハイムに言われたのに、一向に書けていない焦り。周りはどんどん大人になり、友人たちはエイズで死んでいく。もしワークショップが失敗したら?もし自分に才能がなかったら?不安と興奮の数日間は瞬く間に過ぎていく……。

 

素晴らしかった!本当に!本来は3人芝居の形式で進む原作ミュージカルを劇中劇として作中に据え、『RENT』へ続く物語として現実の中に捉え直した構成がまず素晴らしい。曲も大胆に組み替えたりしつつ、ジョナサン・ラーソンへのリスペクトとミュージカルへの愛をギュウギュウに詰め込んだ大傑作に仕上がっている。

 

ほんのちょい役やその他大勢としてミュージカルレジェンドたちが登場しまくるサプライズはもちろん、あらゆるミュージカルの引用が散りばめられた2時間。中でも、スティーブン・ソンドハイムの『Sunday in the park with Geoge』の『Sunday』の舞台を公演からダイナーに変えてオマージュした『Sunday』のシーンがすごい。カメオ出現に続くカメオ出演でとんでもないことになっている。ロック調の楽曲が多い中で唯一クラシック色が強いナンバーなので良い意味でアクセントになっていて(ソンドハイムオマージュなのでね)、ミュージカルらしいゴージャスな空気を生み出す。

 

他のシーンは『RENT』風のリアルな青春の手触りなのだが、アンドリュー・ガーフィールドのクルクル変わる表情と多彩な表現力、彼の個性でもある神経質な要素が上手く絡み合い、思いっきりミュージカルなのに圧倒的に現実感がある世界観が実現。誰もがきっとジョナサンの中に自分を見つけるだろう。「これは自分の物語だ」と誰もが感じる普遍性がグッと心を掴んで離さない。

 

良いミュージカルは、ストーリーや感情が動く瞬間を名曲で彩る。嬉しとき、悲しいとき、不安なとき、焦っているとき、怒っているとき、めちゃくちゃ楽しいとき……言葉だけではなく魂から溢れ出る音楽がナチュラルに鳴り響き、観ている者の身体の中にまで入り込むのだ。本作を観ている人はきっといつの間にかジョナサンと一緒に笑い、焦り、焦り、泣いていることだろう。彼の音楽が入り込んだ体内が彼と共鳴するから。そんな珠玉のミュージカル体験を叶えてくれる奇跡のようなミュージカル映画だった。

 

細かいストーリーには敢えて触れない。それは実際に観てほしいから。あと、『RENT』を観ない状態で本作を観ても、『RENT』を観た状態で本作を観てもいいけれど、本作は『RENT』と一緒に鑑賞されるべき作品なのは間違いない。『RENT』が成し遂げた伝説を目にすることなくこの世を去ったジョナサン・ラーソンに、本作を観た世界中の人々の感動が届きますように。

 

ちなみに、過去に『RENT』について書いたブログ記事はこちらです。

 

 

 

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