Netflixオリジナル映画。『市民ケーン』の脚本を手がけた(クレジットは共同脚本)ハーマン・J・マンキウィッツを描く。

 

1930年代のハリウッド。ハーマン・J・マンキウィッツ通称”マンク”は、天才オーソン・ウェルズからの依頼で『市民ケーン』の脚本に取り掛かっている。アルコール依存症で皮肉屋のマンク。当時のハリウッドの光と闇に飲み込まれそうになりながら、マンクは大物を敵に回そうとしていた。ようやく脚本が書き上がると、内容を取り下げさせようとマンクの元に色々な人がやってきて……。

 

面白かった!当時の社会情勢や登場人物の名前を有る程度知っていないと振り落とされるかもしれないが、ストーリーとしては難解ではない。弱者を搾取して巨額の富を貪るMGMのルイス・G・メイヤー、そのさらに上ですべてを牛耳る新聞王ハースト。選挙すら非道な方法で支配しようとする彼らの邪悪な正体を、マンクは見逃すことができない。

 

軽口と皮肉を叩きながらその場を温め、道化として重宝されているマンク。終盤、彼の道化っぷりがコテンパンにされるシーンが見ものだ。巨万の富に溺れた豚たちに利用され消えていった仲間たち。業界の裏を目の当たりにしながら、生活のために豚の手のひらの上から出られないもどかしさ。オーソン・ウェルズという異端児が出現したことにより、マンクは遂に行動に出たのだ。

 

缶詰になって執筆をつづけている現在パートと、メイヤーやハーストの醜悪さや情報操作の闇を描いていく過去パートが複雑に組み合わさり、その真ん中をマシンガンのような会話が貫いていく。ウィットと教養に裏打ちされた会話はどれも面白く、思わず何か所か巻き戻して見てしまった。

 

特に良かったのがマリオン役のアマンダ・セイフライドとの対話。ハーストのバカな愛人と思われていた彼女が、実は利口な女性であったことがよくわかる遊び心も中身もあるオシャレなセリフばかりで、ウキウキしてしまった。全編を通じて知的好奇心が刺激される気持ちの良い映画でおすすめ。

 

ひとつだけ疑問なのは、なぜゲイリー・オールドマンだったのか?という点。『市民ケーン』執筆時のマンクは40代前半。いくらなんでも老けすぎているし、弟とのツーショットなんて親子にしか見えない。敢えて年老いた年齢で演じることによって現実感を削ぎ落し、寓話性を演出したということなのか?ベネディクト・カンバーバッチなど、年相応でマンクを演じられる役者もいると思うのだが……。