あれは私が小学生の頃のこと

何年生だったのか

季節はいつだったのか

まったく覚えていない

ただ、あの日見た風景が

まるで一枚の写真のように

わたしの脳裏に焼き付いている

 

その日、学校から帰宅したわたしは

台所のテーブルに無造作に置かれた

見慣れない物体に目を奪われた

それは拳ほどの大きさで

中くらいのお皿に3個転がされている

こげ茶色の表面には

波模様が入っていて

いびつな球体の真ん中には

まるで赤道のように

一周ぐるりと線が入っていた

 

甘いような苦いような匂いが

辺りに立ち込めている

 

その得体のしれない物体に

マジマジと見入っていたところ

母が台所に入ってきた

 

「あ、ケーキ作ったから食べて」

 

「え、コレが(ケーキ)?!」

 

ここでわたしは初めて

この物体が、母手作りのケーキだと知ったのだ

 

「このプリン型をふたつ合わせて作ったのよ」

 

画像はお借りしました

 

母はずいぶん得意げに

プリン型をわたしの目の前に差し出した

 

”ああ、道理でこんな模様なのか”

 

わたしは「ふぅん」と言いながら

初めての母の手作りであるその『ケーキ』を

おそるおそる手に取った

 

それはずっしりと重く、

そして異様に硬かった

 

わたしは多分

それを食べたのだと思う

「思う」というのは、なぜかそこから記憶が無いからだ

美味しかったのか、そうじゃなかったのかも定かじゃない

 

そしてそれ以降

母は手作りの菓子というものを

作ることはなかった

おそらく

「二度と作るまい」と決心させるような

何かがあったに違いない

 

アレが母の

最初で最後の「手作り菓子」だったのだ

 

食べた記憶がないわたしには

その菓子の味は分からない

でも、自分が作る焼き菓子の中に時折

あの日嗅いだ「甘いような苦いような」匂いを感じる

 

そのたびに

 

武骨でダイナミックな母のケーキを

しみじみと思い出してしまうのだ

 

 

 

 

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