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「え、ホントに?気ぃ、変わんねぇよな?うぉっ、やった!」
多分ほとんど諦めていたのだろう、望月の予想以上の反応に俺たちはひどく驚いた。
「あ、言っとくけど見に行くだけだからな。望月、突っ走るなよ?」
勢いあまって舟橋さんに入団すると伝えられたらたまらないと思い、俺は一応念押しする。
分かってるって、任せとけ、と矢継ぎ早に答える望月に少々不安は残ったが、とりあえず来週の月曜にもう一度足を運ぶことに決まった。
「天音、明日か明後日、会えない?」
俺は週末の土日どちらかを天音と過ごしてみようと思った。
天音の好きな音楽のこととか、ゆっくり話しをしてみたい。
学校じゃあ時間も限られているし。
そうなると、家に遊びに来てもらうのがいいだろう。
突然の話に天音は一瞬ポカンとしたが、すぐに満面の笑顔になって、どっちも会えると答えてきた。
あまりの喜びように、俺は面食らった。
どっちかでいいんだけどな。
でもそんなに嬉しそうな顔をするなら……。
とりあえず翌日の1時半に、最寄りの駅に迎えに行くことを約束した。
次の日は朝から突き抜けるような青空だった。
初夏の新緑が駅までの並木に眩しく揺れている。
約束の時間5分前に駅の改札口に立つ。
しばらくすると改札の向こうの階段を、着いた電車の乗客らが一斉に降りてきた。
この中に天音がいるかなと思いながら、俺はチラチラと中を覗く。
しかし乗客がすべて改札を出てしまっても、天音を見つけることはできなかった。
この電車じゃなかったのかなと目を逸らした瞬間、突然肩を叩かれた。
「貫」
そこには私服の天音が立っていた。
あっ、そうか。
学校じゃないんだから制服のはずがないのに、俺は無意識に制服姿を探して、完全に見逃していた。
初めて見る私服は白のコットンシャツにジーンズ、それにライムグリーンのリュックを肩にかけている。
さらりとしたシンプルな服装は、天音を大変瑞々しく見せていた。
こうしてみると顔は中性的だけど、筋肉が程良くついた男らしい身体つきだ。
「ゴメン、全然気づかなかったよ」
俺は戸惑いながらも、努めて軽い口調で答えた。
天音はフフッと笑って、何で気づかないんだよ、と呟いた。
二人で連れだって歩くと、通りすがりの女の子たちが振り返る。
それも一度や二度ではなかった。
俺だけの時には無いことだから、これはやっぱり天音を見てるんだよな。
男として自分を残念に思うものの、天音には人を引き付けるオーラが確かにあると思った。
独特のしゃべり方だって、慣れてしまえばもう、そうじゃない天音というものが考えられないくらいだ。
「いいところだな。のんびりしてて」
天音は並木を見上げながら、眩しく目を細めた。
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◇長編小説◇ピアニッシモ・第一楽章・20に続く
