古書の来歴 ジェラルディン・ブルックス/森嶋マリ訳
これまで読んだ本の中でベスト5に入る。
これほどの本なのに版元に恵まれていなくて、消え入りそうだったんだが、
去年創元文庫として発売されたので
少しでも読み継がれてほしいと1冊購入。
ついでに、(14年ぶりに)再読した。
本当に傑作だ。
現代セクションの展開はほとんど忘れていたが、
過去のセクションはやはり心に響く。
読み終わった直後より
あとあと思い返してしまう本だと思う。
本書のすばらしい点は、訳者あとがきと解説を含め
多くのところで書かれているので
基本はそちらにお任せしたい。
一つ書いておきたいのは、
「過ぎてしまったことは、もう永久にわからない」
というはかなさが、(自分の中では)本書を特別にしている、ということだ。
それぞれの登場人物が互いのことを知ったらどんなにうれしいだろう。
しかし、それを知ることができるのは読者だけ。
それを感じながら読めるのが、一番の味わいだろう。
14年前に自分が書いたものを読み返したら、
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何人もの登場人物の中で、
2人だけが一人称で語られている。
この2人がこの本の主人公だということだと思う。
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と書いていた。
おっと、今回それに気づかなかった。
なかなかスルドイな、過去の自分。
これから読もうという人に。
読み始めると、「サラエボ・ハガダー」にある1枚の絵がどんなものか
気になると思う。
でそれを見ながら読むといいだろう。
(本書は緻密なフィクションではあるが、
「サラエボ・ハガダー」は実在するし、
いくつかの出来事は実際にあったことだ)
もう一つ。
TSUTAYA 中万々店の店員さん(山中由貴さん)が書いた、
本書を薦めるフリーペーパーがとてもすばらしい。
https://x.com/NAKAMAshinbun/status/1755504424800416237
とくに登場人物の顔(想像画)がサイコー。
これを見ながら読み進めると臨場感がぐーっと増す。
(ネタバレしていないのでだいじょうぶ)
熱く語ってくれてありがとー。
日本版の訳書はちょっと版元に恵まれず、翻弄された部分があった。
これで手に取る人も増えるだろう。
ありがとう、東京創元社。
そのほか、原著タイトル(ほとんどの日本人にはわからない含意があるそうだが)から
現邦題を付けた人(編集?)、
柳川貴代さんの装丁(どっちかというと単行本の方が好き)にも
感謝したい。