お嬢様…
無事でしょうか。


その男は、同じ物言いでも嘉音のような華奢な体つきではない。
むしろ大男である。
サングラスを掛けて、顎にはヒゲを蓄えている。
一見、どう見てもヤクザにしか見えない。
実際にヤクザな男ではある。普段ナニをしているかは分からない。
しかし、公にできることはしていないだろう。
そんな男が、女性の安否を気遣っていた。
その表情はお守りをしていた子供がどこかにいってしまった親のようで、自分の憧れの女性が目の前から居なくなってしまった男子高校生のような複雑な表情をしていた。
「はぁ…詩音さん…」
自分の前から詩音が居なくなったことが、葛西辰由(27番)にとっては失意の根源だった。
詩音は、自分の娘のような存在である。
詩音が幼い頃から、彼女のお目付け役をしてきた。
そのような立場でありながら、詩音に対してお目付け以上の感情を葛西は抱えていた。
詩音が自分の愛した女性に似ているからである。
姿はもちろんのこと、無鉄砲なところも。
どんどんと親に似てきた詩音が女性としても気になる存在になっていた。
このゲームに参加させられてしまったとき、葛西は詩音を守るために死ぬ覚悟をした。
だが、守る以前に、居場所すらわからなくなってしまった。
必死に今の今まで探し続けるも、詩音は未だ見当たらず、葛西は失意のドン底に落ちた。


「詩音さんのことだから、ちょっとやちょっとじゃ死なないとしても、さすがに心配だ…」


結局、葛西のこの思いが、詩音の元へ導いてしまったのだろう。
人間は求めるものしか手に入れられない。
逆を言えば、求めるものは手に入れられるのだ。
葛西は自分が求めたとおり、詩音の元へと辿りついた。


【残り35名】