毎度おおきにさん
最近ね
やたら夢を見ますのよ
何のって?
それがね
いつも戦ってますのよ
鎧着てたり 刀持ってたり
しかもめっちゃ強くて
めっちゃ綺麗な背の高い女
あれ?これって甲2使者?
韓流&華流ドラマテイストも加わって
毎夜 華麗に戦ううみうみでーす
ヨンウォンの使者たち
第 八 章 X使者の復活
第 二 節
閻魔国の外務庁は、戦争だけは何とか阻止しようと務めていた。月職たちの疲労が極限に達した状況で戦争に突入すれば、もう手に負えない状況に陥りかねないからだ。それで、この事も考慮しつつ、雷帝の要求をどの程度まで受け入れるかについて、議論していたところだったが、これがかえって時間だけ食う状況になっていた。戦闘組はやむを得ず、使者庁別館に設けられた臨時の宿舎に集まって、戦闘服のまま無限待機を強いられていた。彼らもヨンウォンのタイムリミットが近づくにつれ、かなり切羽詰まっていた。このままでは甲1が、先に雷帝に仕掛けて行きそうだった。甲1は、コートについているフードを深く被って頭を下げたまま、居間のソファーに座っていた。焦る心をその場に留められず、イライラしていた。甲3が居間をうろつきながら言った。
「昔はかなりテキトーだったが、最近は手続きがやたら複雑になっている。殴り合って戦って、それで終わらせてしまえばいいのに、何をそんなにわーわー言い合って時間を長引かせてるんだか、まったく。」
甲3がウロウロしながらスツールをバンっと叩いて転がした。だが彼は、気にもとめていなかった。
スツールを自動で動かして元の位置に戻したのは、センター長だった。庁長が言った。
「雷帝、ずいぶん大人しくなったのか?似合わないやり方に何故、従おうとしているんだ?一体、何を考えているやら。」
「あいつの単純無知なのは、俺たちに負けず劣らずだが、まさか何か魂胆があるのか?」
「側に策士が新しくついたのかもしれない。」
「俺、直接会ってみたって言っただろ?あの時の雰囲気じゃ、ここまで押し黙ってる感じではなかったんだがな。」
甲2が言った。
「酒の席での雰囲気は、当てにはならない。」
「俺たちは人間か?酔わない酒だぜ。俺たちには水を飲んだのと変わらない。」
「じゃあ、どうして高い金払って、酒を飲むんだよ。」
「場所代だ。会話するテーブルが必要だったから、それに対する支払いであり、酒はオマケに過ぎない。この世には、そういう事があるんだよ。」
甲1が、うつむいたまま尋ねた。
「本当に雰囲気は悪くなかったのか?」
「そうなんだって。魂消滅って言葉が出るやいなや、雷帝もかなり怒っていたし。」
「雷帝がその事は確実に解決してくれるだろう。とりあえず、その事だけはどうしても…」
サイドテーブルの上にある固定電話が鳴った。甲2が出た。外務庁からの電話だった。彼女はスピーカーホンのボタンを押した。
┈ かなりお待たせしてしまいましたか?今、一回目の協議を終えました。 ┈
「どうする事になった?」
┈ まずは、二千年前のあの魂に関する文書を公開することになりました。それを見てからまた判断するそうです。 ┈
甲1が怒りを込めて叫んだ。
「今までそれすら、進んでいなかったのか?」
┈ ち、違います。これに伴い、他の部分の協議が長引いて.........。この文書を持って行く使者の選定に揉めておりました。雷帝側は甲1使者を要求し、我々議政府側は、それは絶対不可だと.........。やっと甲3使者で、合意に至りました。 ┈
五人が互いを見渡した。これはまた、何の戯言かと呆れたからだ。彼らは皆、甲1だろうが甲3だろうが、誰が行こうが構わなかった。なのに何故、議政府は彼を外したのか、一瞬理解できなかった。もちろん、雷帝が甲1を呼び出した後に仕掛けてくる戦術は色々あった。これを排除することは出来ない。議政府は、考えられる戦術をあれこれ予想し、未然に防ごうとしたのだろう。
┈ 文書を持って、そちらに出発しました。甲3使者様おひとりで、指定された場所に行ってください。くれぐれもご自愛くださいませ。 ┈
甲3が不機嫌そうに言った。
「議政府は、俺が死んでもいいと言っていたのか?」
┈ まさか、そんなはずは。死にもしないじゃないですか。 ┈
「それでも苦痛は感じるんだがね。」
┈ すみません。雷帝側が、二番目に甲3使者様を指名したもので。やはり、甲3使者様の性格を諜報した上で、先制攻撃を誘導しようとするのではないかと疑われますが、現在としてはこれが最善だという判断でございます。雷帝側でも、甲3使者様が一番気楽だと仰って........。ところで一体、気楽と言うのはどういう意味ですか? ┈
「知るかっ!とにかく俺一人で行けばいいんだな?」
┈ はいっ!戻ってこられましたら、またお話させていただきます。よろしくお願いいたします。決して先に攻撃なさいませんように。 ┈
「断言は出来ないな。俺を送り出すなら、それくらいは覚悟しないとな。」
┈ あぁ、ちょっと、それは絶対に…
甲3が電話を切ってしまった。センター長が、チッと舌打ちしながら言った。
「どうせ行くくせに、わざわざそんな悪態つかなきゃならないのか?わざわざ怒らせることでもないのに。使者庁の奴らならお前の性格分かってるからいいだろうが、外務庁の奴らは、お前に慣れていないじゃないか。」
「いざとなれば、先に殴るかもしれない。それは本当の話しさ。」
甲1が頭を上げて、フードを後ろにやった。そして、初めて楽しげな表情で言った。
「雷帝が見たいと言うなら、見せてやりゃいいんじゃないのか?彼は確認することを願って、俺たちは確認されることを願ってるんだから。」
皆が目でうなずいた。
**********
閻魔国と玉皇国が会う場所に、銀色の鎧を着た雷帝が歩いて来た。現代化が相対的に遅れているせいか、彼の戦闘服は相変わらず昔風の鎧だった。反対側からは、黒いロングコートを着てフードを目深にかぶった死神が歩いて来た。彼の右手には書類の束が、左手には長い剣が握られていた。二人の距離が近づくにつれ、彼らの間を流れる風は、方向を失い散らばった。二人は3mの距離を置いて立っていた。雷帝の指先から起こった風が、前に立つ死神のフードを越えた。色の消えた髪が現れた。マスクで顔の半分を隠していたが、雷帝は彼を覚えていた。
「やはり!私の携帯電話をくしゃくしゃに壊したのは、お前だったんだな。そうとも、お前でなければ、あんなふうに出来るやつはいないだろう。ところで、その髪、一体何をやらかしたんだ?私がとても美しいと思っていたお前のあの黒髪がどうして?」
甲1が目を閉じた。頭の中を吹きすさぶ風に、耐えることは難しかった。それでも前に立っているのは雷帝なので、務めて気を落ち着けた。
「俺の髪についての感想はそこまでだ。ありがとう。」
「別の使者を送って寄越すとは、何でお前が来たんだ?私としては、大歓迎だがね。」
「俺を真っ先に指名したと聞いて、独断でやって来た。」
「上の命令に逆らったと言うわけだな。」
「俺の取る行動に、逆らうという言葉は相応しくない。」
雷帝が一歩踏み出した。すると甲1も一歩近寄った。彼の手にあった書類の束が空中を舞い、雷帝の手に渡った。
「お前が望む魂は、お前が勝手に奪うことは出来ない。全ての事は、魂の意志の通りに行われる。あの魂は、既に転生を志願した。お前の手にある書類の中に、志願書もある。」
雷帝は暫し言葉を失ってから、とんでもない事を言い放った。
「あの魂の記憶は、蝶だったと聞いた。」
「玉皇国から特別要請があった。」
「知っている。私が言いたいのは、蝶が転生の欲求を刺激するという噂を聞いたことだ。」
「ここ最近の統計の記録に過ぎない。昔からそうだったのかは分からない。こじつけてもらっては困る。」
「そうかな?陰謀かと思ったのだが。じゃあ、本当に転生したいってことなのか?」
「あの魂はどの道、玉皇国への志願要件に満たない。お前らの敷居は高いからな。そうなると、閻魔国以外にないじゃないか。ならば転生する方が良くはないか?お前にとっても。」
「私がいつ、玉皇国の話を素直に聞いたことがある?そのまま連れて行けばいい事だ。」
「それは魂略奪と同じだ。」
甲1がもう一歩前に出て来た。雷帝も、もう一歩進んだ。二人の距離は間近になった。風は二人の間で起こり、両側に吹き抜けた。雷帝が、ニヤリと笑いながら言った。
「今回の戦闘については、玉皇国の反対が激しい。」
「俺たちの方も、お前に対する反対が激しい。」
「私がこれくらい大騒ぎしてこそ、取引が可能になるんじゃないのか?今回、戦になって負けたりすれば私の面目も丸潰れなので、戦争になることは望んでいない。」
「俺はお前に対して、基本的に信頼している。だからこそ直接やって来たんだ。」
「それなら話し合えるな。まず、私には二つの案があった。1つ目、お前が消えてしまっていたなら、閻魔国と取引して、私が望む魂を連れて行く。駄目なら戦争も辞さない。お前がいなきゃ、戦争で勝つ可能性が高いからな。2つ目、お前の健在が確認出来た場合、戦争を取り下げる条件で玉皇国と取引して、魂の消滅を取り消させる。」
「2つ目で確定だな。」
「ただし!それには条件がある。お前が私の条件を飲んでくれれば、2つ目の案を推し進めるようにする。」
「条件が何なのかによって、俺の答えは変わるだろうな。」
「お前の考え方ひとつだろ。」
「俺の返事よりもっと重要なのは、期限だ。6月6日。」
「差し迫っているんだな。功過格記録府に今一度、掛け合ってみよう。どうしても駄目なら、武力でもって話し合うしかない。」
二人の距離が、一段と近づいた。風は止んだ。雷帝のささやきが、甲1の耳に届いた。甲1が一度うなずいた。二人の距離が、再び一歩ずつ離れた。二人の足は長いので、片足ずつでもかなりの距離ができた。甲1が、フードを再びかぶりながら言った。
「6月6日を守らなければ、お前の話は聞かなかったことにする。」
「 ならば、6月6日を期して、お前が私の条件を承諾したと承知した。」
「俺が先に後ろを向いて、お前に背を見せる。不意打ちしたければ構わない。」
「お前は後ろも見える目を持っているのに、いくら私が愚かでも、そんな事はするものか。」
「知ったことか。お前は度々、愚かな事をやってきたじゃないか。」
「上手くいってたのに、最後になって絡んでくるんだな。忘れているようだが、私は雷帝だ。」
「それがどうした?近頃の人間たちは、お前のことを知らないぞ。」
「サイトで検索すれば、全部載ってるさ。あまり気に入った説明は無いがね。お前たち死神は、とても傲慢なのが問題だ。」
甲1が、先に背を向けながら言った。
「分かっている、俺たちの傲慢さは。けれど、お前よりはマシだ。」
雷帝が、背を見せて歩く甲1をしばらくの間、見つめていた。そして、彼が遥かに遠ざかってから言った。
「背中をああやって見せるのは、並大抵の自信じゃないな。嗚呼!私が選択できるのは、本当に二番目の案しかないのか?」
雷帝も踵をかえした。
*********
「甲1オッパ!」
甲21が、臨時の宿舎の居間で、甲1を出迎えた。無事に出入国場に移動して来れたのだ。
「ん?お前がどうしてここにいるんだ?ヨンウォンはどうした?」
「急ぎの伝言があって来たの。雷帝に会いに行ったんだって?」
皆の視線が甲1に集まった。彼は、持っていた長い剣を甲3に返した。そしてフードを脱ぎながら言った。
「雷帝が、俺の髪の色が変わったことに、ケチつけていたよ。」
「どういう意味だ?」
庁長の問いかけに、甲3が答えてくれた。
「X使者が甲1使者だということを、雷帝が証明してくれたんだよ!」
皆が衝撃で言葉を失っていたが、甲21だけは例外だった。
「私もその話をしに来たのよ。ナ・ヨンウォンが思い出したの。X使者が甲1オッパだってことを。」
甲1が自分の髪を指で梳かした。
「一体あの時、何があって.........」
真っ先に気を取り直した甲3が、明るく笑いながら、甲1の肩を叩いた。
「俺は、不幸中の幸いだと思う。X使者って言う奴が本当にいたなら、俺の記憶からも削除されたってことになるだろ?内心、どんなに不愉快だったことか。」
「俺の髪の色を変えただけだとしても、結果的には、捏造はあったんだ。俺たち全ての月職の記憶で。」
「一人の使者が丸ごと消し去られるより、髪の毛の色だけ消された方がまだマシじゃないのか?どんな凄い知識を持ったヤツの仕業か知らないが、俺たちを相手にこんな操作、簡単じゃなかっただろうに。」
センター長が話そうとしたが、甲21が先に甲3に言った。
「甲3オッパ、ヘラヘラしている場合じゃないわ。コ・ガンスを追跡していて見つけたんだけど、あいつがナ・ヨンウォンに会っていたのよ。」
甲3の顔から笑みが消えた。甲1の複雑な頭の中は、さらに滅茶苦茶になった。甲21が甲1を見ながら言った。
「イ・ジョンヒの母親の葬儀場からナ・ヨンウォンと空間移動したでしょ?その直前に、ナ・ヨンウォンを追っていた人間がいたの。」
「あの時の不快な気配を覚えている。その人間が、イ・ジョンヒの殺害犯ってことか?何故あの時、ヨンウォンを追っていたんだ?前世の悪縁なのに。」
「私たちもまだ、それが分からないの」
センター長がまた、話そうとしたが、甲3の質問に先越された。
「甲1使者、お前は気配だけでその人間を見つけらるだろ?」
「遠距離は不可能だ。」
「射程圏内はどのくらいだ?お前なら、ものすごく広いんじゃないのか?」
「悪鬼には広いが、生きてる人間の気配がターゲットなら、半径2~3km程度しか無理だ。」
「その能力を使って…」
「やーっ!この× × ×野郎たちめ!もっと急ぎの事から報告すべきじゃないのか!」
結局、センター長の口から罵詈雑言が飛び出して、臨時宿舎の居間が静かになった。庁長と甲2も、甲3を睨んでいた。甲3が呆気にとられて言った。
「もっと急ぎの事って何なんだ?」
「雷帝と会ったことだ!その問題が、いちばん深刻じゃないか!」
「戦争は回避されたんじゃないのか?甲1使者の表情だけ見ても、顔色いいし。」
「俺たちの勘が鈍くて悪かったな。この…」
「センター長!勝てない戦はしたくないというのが雷帝の本音だ。その上で、功過格記録府と、より有利な交渉をするために、今まで混乱を引き伸ばしていたようだ。」
「とは言え、甲1使者が健在じゃなかったら、こちらを叩いていたんだろ?」
「そういう考えもあったようだな。」
雷帝は、玉皇国や閻魔国の意見は黙殺することは出来ても、既に転生を志願している魂の希望は、無視することが出来なかったのだろう。
「私たちも彼に調子を合わせなければならないんじゃないの?」
甲2の問いかけに、庁長が問い返した。
「じゃあ、ずっとここで武装状態のまま、居なきゃならないってことか?」
甲1が首を横に振った。
「それはダメだ!俺は一刻も早く、この世に行かなければならない。」
センター長が言った。
「だが、移動禁止措置は、雷帝問題が完全に終結する迄は解除されないだろう?」
「解決したと思ったのに、まだ突っかかってくるのか?こんなにどんどん遅れたら、俺は国科捜から解雇されるかもしれないんだからな。」
甲2がため息をつきながら言った。
「その前に、あんたに死神を辞めさせたい。本当に私にそんな権限、無いの?」
月職は職業ではなく本質ゆえに、解雇は不可能なのだ。どんなに嫌でも、人間が人間を辞められないように。甲21が手を挙げた。
「ちょっと、皆んな注目!本当に重要な話が残っているのよ!」
皆が甲21を見つめた。やっと居間の中が静かになった。
「甲25使者と議論したんだけど、暗黒の牢獄の地下にいる蝶、それがナ・ヨンウォンについてのあなた達の記憶かも知れないのよ。」
居間の中が、再び混乱に満ちた。言葉を発して騒ぐことはなかったが、各々の頭の中は乱れまくっていた。ストレスを感じたセンター長が、居間にある家具を並べ替え始めた。ソファーとテーブルがズレることなく、直角に位置を変えた。そして、甲3が無造作に投げつけたコートも、独りでに彼の肩に掛かった。
皆が衝撃を受けた理由は、それが蝶であったからだ。甲1が、人間ではなく月職たちの記憶を、それにも増して、自分の記憶までをも取り出したという意味ではないか。それも部分的に、たった一人の人間についての記憶だけを。これが可能であるということが信じられなかった。甲1自身も納得出来なかった。
「俺がやったと?どうやって?いや、他のことはさて置き、何故、取り出したって?」
甲3が、肩にかけられたコートを脱いで、再びソファーに放り投げながらつぶやいた。
「X使者が居ないんなら、そういう事になるのか?」
「甲25オッパからの伝言よ。あの蝶を探り出せって。何としてでも。人間であるヨンファは、閻魔符命状について知らなかった可能性が大きいの。だから、ナ・ヨンウォンが全ての記憶を取り戻したとしても、出てこないかもしれない。あの蝶の中に、月職たちの記憶の中に、閻魔符命状があるはずよ。」
庁長が尋ねた。
「だが、どうやってその蝶を探り出すんだ?私はそこを行き来したが、扉なんぞ目にすることもなかったぞ。」
「ひょっとして、扉の位置に色んなパターンがある可能性は…」
甲3のつぶやきだったが、それにも答えはなかった。もしパターンがあるとしても、たった二度の位置だけで、推測することは出来なかった。それに、ドアが現れない日の方がもっと多かった。むしろランダムに現れると思って、別の手段を講じてみた方が良さそうだ。そうなると、益々答えが見当たらない状況になる。甲1が聞いた。
「現在、暗黒の牢獄に収監されている使者はいるのか?」
庁長が答えた。
「いない。」
「それなら、破壊しよう。」
「あの牢獄は、我々の力を持ってしても、無理だと思うが?」
「やってみてから言えよ。今は、出来るとか出来ないとか言ってる場合じゃない。俺一人でも行くよ。」
甲1が先に立って別館を出た。その後ろを、一人二人と着いて行った。そして、別館には誰も残っていなかった。
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其ノ二に続く