皆様 ご無沙汰〜
覚えてくれてはります?
本読み途中で放り投げたBBAでっせ
色々めんどくさなって今に至るなんやけど
こんなわてに
続き気になりますがな〜って
声をかけてくれはったお優しいお人が
いや〜ん 待っててくれはったん?
ほな 調子に乗ってまた続き読みましょか?
ってな具合で 頑張ることになりました。
ホンマに頑張れるんか?私
ヨンウォンの使者たち
第 七 章 三途の川の記憶
第 一 節
錦鯉だった。透明な錦鯉だった。それは不釣り合いな池ではなく、海を泳いでいた。海中を遊泳していた。それはだんだん海面に向かって泳いでいた。それは海面を蹴って空に舞い上がった。一匹ではなかった。数多の錦鯉が、どこかに向かって空中を泳いでいた。それに続くように透明な人達も、海の上をふわふわと浮いて歩いていた。
火の海だった。バラバラになった木船が、あちこちで燃えていた。傷だらけの手が、壊れた柱を掴んで波打つ海の上に浮かんでいた。背中には矢筒を背負っていた。相変わらず弓師だった。茫茫たる大海原であったが、陸地がどの辺りなのかは感じ取れていた。なのに、ありったけの力を込めて掻く先は、陸の方ではなかった。錦鯉と透明な人達が行っている方だった。
「おいっ、うちの七歳や!」
愉快な声に向かって顔を上げた。黒い鎧を着た透明な人が、海の上を歩いてやって来た。知っている顔だった。長い髪を一つに編んで下ろした彼は、幼い頃に見た三人の死神のうちの一人だった。こちらも嬉しそうに挨拶をした。
「甲4使者様!」
「ずいぶん大きくなったな。すっかり娘らしくなっちまったが、本当にそうなのか?」
「もう七歳の子供じゃないですから。」
「ははは、俺の目には同じに見えるぞ。ところで、うちのヨンファはここで何故こうしてるんだ?また戦に行ったのか?」
「私、今度こそ本当に死んじゃうみたいですね。甲4使者様が、私を迎えに来てくださったのですか?」
「俺が持ってきた閻魔符命状には、お前の名前は無いが?」
「あっ!じゃあ、また助かったんですね。この前、甲5使者様も私を助けて下さったんですが。」
甲4が、遠くに見える陸地と海でもがくヨンファを見た。そしてしばらく悩んだ末、ヨンファの体を空中に浮かべた。
「あらっ?甲4使者様が私を助けて下さるのですか?」
「まさか。そもそも閻魔符命状に載ってないんだから、助けてやるってことにはならないし。」
「他の方たちは?私がどれほどお会いしたいか分かってます?」
「分かってるとも。だからといって、戦場をうろつくな。皆んなお前を心配するから。」
「だって戦場じゃなければ使者様たちに会えないんですもの。会いたくて仕方がないの。」
あっという間だった。ヨンファが立っている所が海ではなく、陸地に変わっていた。そして遥かな海の上には依然として、死が口を開けていた。
ヨンウォンが目覚めた。今回も悪夢ではなかった。死神たちが出てくる全ての夢は、幸せな夢だった。その上、今回は愉快でさえあった。夢の中の死神の性格のお陰のようだった。会話もハッキリと思い出した。ヨンウォンは起き上がると、壁にもたれて座った。そして暗闇の中、明かりもつけずに考えた。
「甲4使者様…、数字は合っていたんだわ。甲4。法医官様は甲3のようだし、院長先生はチラッと甲25って聞いた気がするし、綺麗なあの方は甲2使者様、甲5はセンター長様っぽい。そして私のカビルは甲1、1番だったわ。」
********
庁長はあの世の診察室に入ってくるなり、自分を圧迫してくるシモの勢いに押され、後ずさりした。その後ろに立ちはだかる甲1と甲3の圧も甘くはなかった。
「何故、何故こんなことをするんだ?」
「何故という質問はこっちのセリフだ!」
怒鳴る甲3の肩を掴んでシモが引き止めた。
「記憶も無いヤツに何故だという質問は適当じゃない。先ずはソファーに座れ。」
続いてシモはヨンウォンから電話で聞いた、錦鯉が登場した夢の話を詳しく説明した。庁長も怪訝な表情に変わった。
「甲4使者だと言うなら、私で確かなんだな?」
「錦鯉が勝手に使われたってのか?」
「いや、その時の事を覚えてるよ。その当時、海上権の争いも激しかったからな。火船を利用した戦術で、船がよく火事になったもんだ。そこであった大きな戦には全部加わったさ。だが、ヨンファの記憶は全く無い。不思議だ。」
甲3が再び怒鳴った。
「不思議だなどと感嘆している場合か!お前が人を助けてやっただと?! 人の生き死にに関与する事がどれほど途方もない事なのか分からないとでも?」
庁長がじっくり考えて、ゆっくり答えた。
「それがそういう事になるのか?閻魔符命状に無かったんだぜ?」
「もちろんお前が介入しなくても助かったのかもしれない。だが、海を漂流して1日か2日後に死んだかもしれない。そんな場合はお前の閻魔符命状には載らない。お前だってこれくらいは知ってるだろ?」
庁長もしぶしぶ頷いた。
「ああ、どうやら万が一の場合まで分かっていながら助けてやったようだ。記憶には無いが、助けてやるという認識はあったはずだ。うん、そうなんだろう。だが何故そうしたんだろうか?」
「まさか、お前も愛してたのか?」
「何を言ってるんだ?何したって?」
甲3が庁長を上から下まで見た。センター長は言葉は荒くても実は繊細な部分もあるので、愛するがゆえにと無理やり思えなくもなかった。けれど、庁長の性格は繊細さとは程遠かった。何でも大雑把に考える傾向があった。だからその時も大雑把に考えて、助けてやった可能性が高かった。
「大した話じゃない。そんなはずは無いよ。」
皆の視線が庁長に向いていた。聞きたいことは沢山あったが、記憶に無いことを問い詰めることは出来ないから、ただ見つめるしかなかった。
「私が助けてやる前に、甲5センター長も助けてくれたと言ってたんだって?コウモリの群れを見たというアレか?」
シモが答えた。
「僕もその部分を聞いてみたんだけど、ヨンウォンさんもよく分からないって言うんだ。子供と成人は区別できるが、成人と成人は順序が区別出来ないからね。コウモリの群れのことかもしれないし、それ以前に生死に関与してたかもしれないし。」
1人は恋をして記憶の取り出しもせず、1人は単に助けただけと。死神の介入によって1人の人間の運命に、あまりにも多くの変数ができてしまったわけだ。庁長が口を開いた。
「これはもしかして、甲1使者の地下鉄事故と似たケースじゃないのか?」
甲1が言った。
「えっ?あの時、あの車両は全滅だった。海の上とは状況が違う。」
「いや、広い意味での話だ。私は確かに記憶は無い。でも、自分を1番よくわかっているのは自分だと思う。あの時の私というやつが何故そうしたんだろうと考えたら、そうなんだよ。どういう事かと言うと、ヨンファが幼い頃、聞くところによると7歳の頃だね。どういう経緯で私達が知り合ったのかは分からないが、情が通じていたのは確かだと思えるよ。いくら戦争が頻繁な時代だったとしても、女が危険な戦場に敢えて出ていく理由は無い。城主の娘なら尚更だ。なのにそんな彼女がずっと戦場に出てくるんだよ。理由はただ一つ、私達に会いたいから。7歳の時、私達に会わなかったら、ヨンファがその死地の中にいただろうか?私はあの時、あの海の上でそう思ったんだと思う。甲1使者が、地下鉄で自分を見なかったらナ・ヨンウォンが死の中にいなかったと思ったのと同じなんだよ。だから私は背中を押してやったんだと思う。生きろって、この戦場には来るなって。私達に出会う前の人生を生きろって。ヨンファという女の子を、私達はすごく好きだったようだな。死なないことを願うほどに。それとは別に、罪悪感があったのかもしれない。だから助けてやったんだと思う。」
罪悪感は重い感情だ。7歳、曖昧な年齢。もともと巫の目を授かって生まれたのか、幼い頃、一時的に見えていた目であったのかを判断しにくい年齢。その歳に、ヨンファは死神たちに出会ってしまった。7歳というその時に、一人の人間の運命がもつれ始めたのだ。これを三人の死神たちは認識していた。この罪悪感が、気付かぬうちにヨンファの生に関与したかもしれない。甲3がつぶやいた。
「天馬、どうやら最初のきっかけは、その時かもしれないな。」
甲1が言った。
「ということは、やはり33の呪いは、我々閻魔国から始まった過ちだったのか?」
33は最も安定的な数字。それで天上の数とも言われている。玉皇国であれ、閻魔国であれ、何らかの人為的な設定をしたのか、あるいはミスにより自動的に設定されてしまったのなら、システム上、33になった可能性が高い。33は間違いがほとんど無いからだ。もしかしたら、もっと単純にヨンファが本来死んだはずの年齢かもしれない。もしも7歳から死神たちによって、何度か生死がよじられてきたとしたら、玉皇国の功過格が耐えきれずに故障した可能性もある。それで閻魔符命状の生成さえ止まったのかもしれない。それによって33の数字が設定されたとしたら?可能性が全く無いわけではなかった。
*********
「ちーん(鼻をかむ音)。すみません、先生。」
ミナが玄関のドアを開けて入って来ながら真っ先に言った言葉だった。
「いきなり何ですみませんなの?」
ヨンウォンは、ミナの腕に重そうにかかっている買い物袋を見つけた。ミナはキッチンにちょこちょこ走っていって、食卓の上に買い物袋を置いた。
「母がこれを先生に持って行けって言って。要らないって、先生はご飯を炊かないっていくら言っても頑として譲らなくて。」
ヨンウォンが玄関のドアを閉めてキッチンに行くと、その間に買い物袋に入っていたおかず容器が食卓に並べてあった。
「ご迷惑ですよね?すみません。」
「ううん。家庭料理が嫌いな人が、どこにいるのよ。私は幼い頃から家庭料理とは縁がなくて、それが当たり前になっちゃっててね。ありがとうございますってお伝えしてね。あっ!インスタントのご飯があったわ。いつかラーメンにでも入れて食べようと買っておいたのよ。今、食べればいいんだわ。」
「ふぅ、良かった。私、本当にこれをどうしようかと、どれほど悩みながら来たことか。」
ヨンウォンがシンクの棚からインスタントのご飯を出すのを見たミナが、素早く作業室に自分のカバンを投げ込んで出てきた。
「ちょっと待ってください。私が取り分けます。」
そして甲斐甲斐しく小さな皿を取り出して、おかずを少しずつ取り分けた。ヨンウォンが電子レンジで温めたインスタントのご飯を、茶碗に移し替えた。そしてミナを見た。2年以上見てきたけど、今更だった。
「ミナや、どうして私のところに来たの?他の漫画家たち、沢山いるじゃない。」
「先生のファンだからですよ。」
「あなたはうちの叔母のファンじゃなかったの?」
「それはそうですけど、ははは。お二人、どちらものファンです。私は先生の絵がとても好きなんですもの。洗練美って言えばいいのかしら?ペン線も芸術的だし。何より演出です。白黒だけの漫画に感じられるいっぱいのオーラがいいんです。スクリーントーンでぎっしり空間を埋めれば、そしたら全体的に暗くなりますよね。でも先生はスクリーントーンの使い方も絶妙で、余白も十分あるのに画面が空くわけでもありません。かえって洗練されて見えるんです。私は凄く感嘆したんですから。わぁ!これは本当に凄いことですよ!白黒漫画も凄いですけど、カラーのウェブ漫画まで。カラー感はまた、どれほどラブリーなことか。その上、先生の男主!本当にどんなにカッコイイことか!友達はアイドルが夢に出てくるそうだけど、私は先生の男主が夢に出てきてたんですから!」
ヨンウォンが声を出して笑いながら、きちんと整えられた食事の前に座った。そしてご飯を食べる前に、おかずを先にひと口食べた。これは知っている味だった。手作りの味は遺伝したようだった。
「私の口に本当に合うわ。美味しい。」
「本当ですか?母に伝えておきます。」
「ありがとう、ミナ。」
「私にまで感謝して下さるなんて、ははは。」
「あなたに感謝してるの、私の所に来てくれたから。あなたが私を外に連れ出してくれたわ。あなたが私のアシスタントをしたいって叔母に頼み込んで来てくれてなかったら、私は相変わらず家の外には出られないでいたと思う。」
「お役に立てて、本当に嬉しいです。私はずっとご迷惑ばかりおかけしてたのに、ははは。」
ミナが、冷蔵庫におかずの容器を入れながら言った。
「ここに入れておきますので、食べてくださいね。忘れちゃダメですよ。」
「忘れるはずがないわ。こんなに美味しいのに。」
一時、妹だった縁が、こんな風に歳を重ねて母の味を届けてくれた。噛めば噛むほどヨンウォンは胸がいっぱいになった。インターホンが鳴った。ギョンミンだった。ミナが玄関に走り出てドアを開けてやり、家は以前のように賑やかになった。彼らは作業室に入り、今日の業務を確認した。ヨンウォンは食事を終え皿を洗いながら、スマートフォンを横目でチラッと見た。そしてひとり呟いた。
「現世を生きろ。」
ゴム手袋を外してスマートフォンを手に取った。そして電話をかけた。長い呼び出し音の後、ようやく相手が出た。けれど、声は聞こえなかった。こちらから先に話した。
「おばさん!」
┈ こっちに来れるようになるまで、電話はしないでって言ったわよね? ┈
「私の電話が嫌なら、出ないでよ。」
┈ あんた、本当に憎らしいわね。
「私、おばさん似らしいわよ。」
┈ 私じゃ不足なのよね?だから今の今まで来られないんでしょ。あんたが私のこと好きだったら、とっくに飛行機に乗れてたはずよ。
「ごめんなさい。本当にそんなに休めないのよ。あっ!私、最近、薬飲んでないの。もうだいぶん経つのよ。それに地下鉄にも乗って、バスにも乗ったのよ。タクシーにも乗れたわ。」
┈ そうなの?本当に良くなってるのね?
「うん。もう少し頑張って、飛行機にも乗るわ。そしたら済州島に行く、必ず。私、おばさんにものすごく会いたいから、こんなに良くなったんだよ。」
┈ 調子のいいこと言って!私の事、ナメてるでしょ。
「ええっ、少女漫画界の神様を、どうして私のような下っ端が。私はおばさんから伝授してもらった技でご飯がたべられてるのよ。ははは。」
┈ 声の調子が本当に良さそうね。いいね。…いいわ。
「おばさん、私ね、よく生き残ったと思うわ。あの時生き残れて、本当に良かったと思えるの、初めて。」
┈ 当たり前よ!本当に本当にそうよ。それに、私のような叔母がいるなんて奇跡なのよ!福が溢れてるのにも気づかないで。
「ほんと、おばさんみたいな人、滅多にいないわ。一日に3回連続で鍋を焦がす人なんて、そんじょそこらにいないわよ。」
┈ やーっ!それはもう忘れなさい。あの時は締切が迫ってて.........。
久しぶりの電話は大いに盛り上がった。昔に返ったようで楽しかった。現世の縁はあまり無かった。長い年月患ってきた精神障害のためだった。それでも1番長い間、側で両親のように、友のように一緒にいてくれたのは叔母さんだったので、この縁を失いたくないと思った。ヨンウォンは電話を切って、再び皿洗いをした。楽しい気持ちでゴム手袋を外して振り向いた時だった。幼いヨンファの記憶が現れた。病院の待合室で見た、あの場面だった。右側には甲2、左側には甲4、前には甲5。彼らに囲まれて楽しそうに歩いていた。ところがヨンファはしきりに振り返っていた。3人の死神達だけではなかった。後ろにもう1人いたのだ。ヨンファの心は後ろにあった。彼が来ていた服は鎧ではなかった。黒く長いトゥルマギだった。朝鮮時代の服ではなかった。ポ(袍)と呼ばれた高麗時代以前の服だと思われた。彼は後ろから追い越し始めた。左側の甲4越しに歩いていた。背が低いヨンファは視野が遮られ、彼が見えなかった。後ろ手に組んだ長い袖だけが見えた。いつの間にか、彼が1番先を行っていた。ヨンファは甲4と甲5の間をぬって、彼に向かって走っていった。背の高い後ろ姿が見えた。漆黒より暗い、長い髪が見えた。ヨンファは声を出して笑いながら、彼に向かって手を伸ばした。
「先生!」
「えっ、何?」
「ぼぉっとして何を考えていらっしゃるのですか?」
ヨンウォンの精神がやっと戻ってきた。作業室から顔を出してこちらを見ているのは、ギョンミンだった。
「別に何も。何かあった?」
「これをちょっと見てください。背景指定が3Dとだけ書かれていて、背景ナンバーが入ってません。」
ヨンウォンは作業室に入りながら思った。
『あの男だ。コウモリの群れと一緒に現われたのはあの男に違いない。』
*********
其ノ二に続く