続き

   閻魔国の出入国場に、普段ではお目にかかれない人物が歩いてきていた。センター長だった。声はよく聞いても、実物を見ることはそうそう無かった。なので、時職と日職たちの視線が集まった。センター長は改札口の前で歩みを止めた。前が閉じられていたからではなかった。彼の心理的抵抗感が足を掴んでいたのだった。無理矢理足に力を込めた。それでも動かなかった。息が荒くなった。

「ナ・ヨンウォン……。ヨンファ……。」

  名前をつぶやいてみたが、息はさらに荒くなっただけで、この世に対する抵抗感は少しも減らなかった。映像を見ても、甲2のように彼女に会いたいとは思わなかった。胸の奥の痛みだけは確かだった。その他には確かなものは何も無かった。甲2も庁長もセンター長も、その当時の閻魔符命状を必死に探してみた。記録と言えるものは全部見た。月職たちは敢えて過去を振り返らない。過去に執着せず、現在により忠実に生きているからだ。だからといって、記憶を捨てるわけではない。だから、問題があった時に過去を振り返れば、完全な形で記憶をよみがえらせることができた。

  資料と比較した彼らの記憶は全て完全だった。だが、ヨンファについての記憶だけが無かった。彼女がくれたという髪飾りはこんなにも大事にしているのに、貰った記憶さえ無かった。センター長も何となく病の原因が彼女にある気はしていた。他の原因が思い当たらなかったため、他に考えようがなかった。ヨンウォンに会いたいからではなかった。彼を苦しめている病の原因を知りたくて、この世に出てみたかった。だが、こんなに心は切実なのに、足が前に進まなかった。

「一体、なぜだ!

  センター長が体の向きを変えた。すると、後ろに甲1と甲3、シモがこれ見よがしにこちらを向いて立っていた。彼らの目つきは尋常じゃなかった。本能的に危険を感じ、他の方へ向いた。けれど、今度も足が動かなかった。心理的な影響ではなかった。誰かが念力で彼の体を縛ったのだ。センター長の体が、瞬く間に彼らの前に連れてこられた。

「やーっ!甲1使者!こんなに力が有り余ってるなら、もう一度この世に行ってこい!」

「つべこべ言わずに着いて来い。

  甲1が先に歩いた。そして甲3とシモも、あの世の診察室に向かって歩いた。センター長は足をバタバタさせたが、結局、念力の捕縛を切れず、診察室まで引き摺られていった。診察室のドアが閉まると同時に念力は解けた。

「何やってんだよ、これは!」

  甲1がセンター長の前にぐっと近づいて、彼の顔を片手で掴んだ。

「今、中央管制センターに逃げ込んだら、俺がそこをぶっ潰す。」

「お前がそんな事するはずが…」

  甲3が横から言った。

「やれるさ、今なら。何ならお前の顔もぶっ潰してもらうか?」

「何だと?」

  甲1が彼から手を離した。そして、ソファーに投げるように送った。センター長はソファーの上に投げ捨てられたように倒れ込んだが、直ぐにその場に座った。彼が身なりを整えている間に、診察室の中の全ての家具が角を合わせて動いた。

「説明してくれないか?俺をここまで引っ張って来た理由。」

「こうでもしなかったら、お前とまともに話ができやしないからな。」

シモがセンター長と向かい合って座った。

「さっき、出入国場で何をしていたんだ?」

「ただ、居ただけさ。」

  甲1の手に暗黒の気が集められた。それは直ぐにでもこちらに向かって飛んで来そうだった。センター長が直ぐに本音を吐いた。

「試してみたんだ!テストさ!」

  甲1の手から、気が消えた。それでも怒り、或いは嫉妬の感情は消えていなかった。シモが聞いた。

「試した結果はどうだった?」

「失敗だ。ピクリとも動かなかったよ。」

「そんな事なら、ここを先に訪れるべきだよ。闇雲に取っかかるより、段階を踏んで一つ一つ治療していった方が早いんだぞ。」

  甲3がソファーの周りをウロウロしながら言った。

「単刀直入に聞く。甲5、いや、センター長!お前はナ・ヨンウォンの映像を見てどんな気分になった?あっ!聞き直すよ。ヨンファを見て。」

  センター長がしばらく躊躇って、自分の胸に手を当てた。そして溜息をつきながら、正直に言った。

「痛かった、ここが。」

  甲1と甲3がその場に立ち止まった。座っていたシモの上体は、センター長に乗り出した。

「ヨンファに会いたいとか、そういう気持ちはないのか?」

  甲3が言った。

「ナ・ヨンウォンが言うには、一千年前にお前と縁があったようだ。」

  センター長がカッとなった。

「その女、おかしいんじゃないのか?どうして死神の俺と縁があるなんて思えるんだ?俺は使者庁の月職だ。人間の女はそうだとしても、俺たちはそんな感情など生まれるはずがないじゃないか。」

  甲3が言った。

「その話は既に説得力を失っている。」

「なぜだ?」

「それには理由があるからだ。とにかく心が痛いんだろ?それは説明できるのか?」

  センター長は答えられなかった。それについては説明不可能だった。記憶が無い感情は、どんな証明も出来なかった。甲1が言った。

「ヨンファは、天馬の群れとコウモリの群れを見た。二人のうち一人はヨンファを導かなければならない責任があったのかもしれない。順序ではコウモリが一番後かもしれないと言うので、お前が責任を果たさなかったと疑うことも出来る。
 
「天馬が後なら?」

「俺たちは天馬とコウモリは一つの生涯の出来事だったと考えている。ヨンファが生まれたのが一千年前だったということは、産国の子授け証書で確実となった。人間の成長は、成人から子供に逆行しない。お前の言う通りなら、天馬を見た子供にもう一度生まれ変わらなければならなくなるのだが、それならまた330年後に計算しなければならないんだが、その時は甲2がこの世に出て行けなくなった時期だから、天馬を見たはずはないんだ。それに幼い時、甲2だけでなく、お前たち三人に会ったと言った。結局、ヨンウォンの記憶が確かだということだ。」

「俺が責任を果たさなかったと推定する理由は?」

「記憶を取り出していないから、幼い時の記憶まで全部持ってるんじゃないか。」

「じゃあ、一体、俺はなぜそうしたんだ?」

「俺たちが今、その話をしようとしてるんだろ!お前がヨンファを愛するあまり、どうしても記憶を取り出せなかったんだとよ!」

「気が狂いそうだ。そんな胸が痛む事情を、俺が忘れてしまったなんて。分かったよ、じゃあ俺がそうだとしよう。なら他の奴らはどうしてあんな有様になったんだ?」

  返す言葉がなかった。これに対しては、いい加減な仮説さえ作り出せなかった。シモが言った。

「だからお前にもっと積極的に治療を受けて欲しいんだ。ヨンファ、ナ・ヨンウォンに直接会ってくれれば、彼女の記憶に役立つはずだ。」

「俺の記憶じゃなくて?」

  甲3が言った。

「お前たちのは諦めた。どうしようもない。」

  甲1が言った。

「お前が治療に協力しなければ、期限内にこれを解決出来ないかもしれない。そうなればヨンウォンは…」

  センター長もヨンウォンを生かす方に手を挙げた。病気を治したい気持ちも切実だったが、人間を愛したために責任を蔑ろにしたという濡れ衣は晴らしたかった。

「分かった。どうしたらいいのか教えてくれ。」


キラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラ

今彼と元彼の狭間で揺れる女
ケンカはやめて〜🎶
わたしのために〜争わない〜で〜🎶
デレデレ

言うてみたいな
センター長 思い出さはるんやろか?
そうなったら どないなるんや?
あぁ ワクワク
ラブラブ

けど 現実はもっとサスペンス
今日読んでくれはって ありがとね
おねがい

ほな またね