最近見始めた韓国ドラマ

「ある日、私の家の玄関に滅亡が入ってきた」
ニヤニヤ

タイトル 長い…
このお二人が主演ですのよ


イングクくんとボヨンちゃん
お話の世界観がヨンウォンと似てますのよ
せやから ヨンウォンと甲1のイメージ
しばらく この二人でいきますわ
デレデレ酔っ払い

文章変でも ごめんちょ

ヒヨコヒヨコヒヨコヒヨコヒヨコヒヨコヒヨコヒヨコ

ヨンウォンの使者たち

第  六  章  陰の中の墓

第  四  節

  四人の使者が、同時にヨンウォンのリビングに現れた。ベルを鳴らすと、もしかしたら眠っているヨンウォンを起こしてしまうかもしれないと、こんな選択をした。リビングの灯りは消えていた。けれど、気配は作業室から感じられた。彼女は起きていたし、一人だった。甲1が囁いた。

「驚くかもしれないから、俺がちょっと入って連れてくるよ。」

  そして消えた。シモはその間に、甲2の状態をチェックした。比較的、安定していた。

「あっ!」

  突然、ヨンウォンの悲鳴が聞こえ、騒々しい音がして、作業室のドアがぱっと開いた。ヨンウォンがうつむいたまま、サッと通りながらシモに言った。

「院長先生もいらっしゃったのですね。少しお待ちください。顔だけ洗ってきますから。」

  そして浴室に入っていった。シモが驚いて、作業室から出てきた甲1に尋ねた。

「驚かせないように、そっと1人で入ったんじゃなかったのか?」

「俺も分からない。仕事中だったようだが、俺を見た途端、あんなふうに……」

  ヨンウォンは洗面台に行き、大急ぎで顔を洗った。残念なこと、この上なかった。何日も徹夜で、まともに顔も洗っていないみすぼらしい姿は、お話にならなかった。キスしてから初めて会うのに、こんな姿を見られるなんて。タオルで水気を拭いて、鏡を見た。顔を洗ったかいがなかった。顔に浮かんでいた脂が、少し取れた程度だった。近頃は薬も飲んでいないが、肝臓の回復が遅いのか、肌は酷い状態だった。ハッと我に返った。お客さんを立たせたままで放っておいて、こうしているのも失礼だ。深夜に前触れもなくやって来たお客さんは、もっと失礼だけど。

  ヨンウォンがリビングに戻って、甲1とシモの前を通過した。そして、暗いところに立っているもう1人を見つけた。

「一体、何で法医官様までいらっしゃ……」

  甲3ではなかった。女性だった。たとえ今は、鎧ではなくパンツスーツだったが、ひと目で分かった。

「私は…、あなたを知っています。」

  甲2がゆっくりと歩いて、ヨンウォンに近づいた。

「私を知ってるって?見たことがあるのか?」

  話をする息遣いまでセクシーな女性、その慣れ親しんだ感じに、ヨンウォンの目から涙がこぼれ落ちた。

「最近、夢で見ました。私が見たたくさんの夢の中で、あなたは悪夢ではありませんでした。」

  甲2が腰を下げた。そして顔を近づけて、ヨンウォンを見た。

「おかしくなりそう。私には記憶が無い。どうしたんだろう?」

  シモが二人の腕をそれぞれ掴んだ。そして、食卓に向かい合わせに座らせてから、直ぐにこの世のスマホで電話を掛けた。

「緊急だ。直ちにヨンウォンさんの家に移動…」

  話が終わらないうちに、甲3がスマホを持ったままリビングに現れた。彼の目が甲2を見つけると、大きく開いた。

「ここまで成功したのか?」

「それはまた後で話すとして、ヨンウォンさんの方がもっと急ぎだ。夢で甲2を見たんだって。」

「何だって?」

  三人の男が、食卓のそばに並んで立っていた。シモがまず、話した。

「ヨンウォンさん、夢の中で見た事を、もう少し詳しく話してくれる?」

  ヨンウォンが涙を拭いて言った。

「天馬の群れが出てきました。」

  甲1が問い返した。

「天馬の群れを見たのは確かなのか?」

「はい、翼が生えた馬でしたが、雲のようだったんです。本当に、王陵から出土した天馬図のような形でした。大きさも、本物の馬のように大きいものではなくて。私はそれを追いかけながら、鎧を着た、目の前にいる女の人を見ました。」

  天馬に着いて行ったのなら、死んで導きを受けたということで、鎧を着ていたなら少なくとも1千年以前だったということだ。

「他に覚えていることはない?」

「手が小さかったです。夢の中の私は、幼い子供だったと思います。」

  幼い子供?33歳で死ぬパターンが出来る前のことなのか?甲1とシモが互いを見つめ合った。目が合ったが、交わす言葉はなかった。ヨンウォンが言った。

「この方が実在するなら、他の方々もいらっしゃいますか?」

  甲3が割り込んできて聞いた。

「他の方々?他に誰を見たんだ?」

「睡眠検査を終えて出てきた日、寝ぼけていたのか、病院の待合室で少し見えたんですが、この方とは違うお二人が一緒にいる場面だったんです。私は相変わらず幼い子供で。」

「どんな顔をしていた?」

  ヨンウォンは、よどみなくスラスラと話した。

「男の方たちで、皆さん鎧を着ていたんですが、お一人は後ろで長い髪を編んで、もう一人の方は髪を結い上げて、木の枝2本を挿していました。みんな笑っていらっしゃたし、みんな私に親切でした。」

「結い上げていたなら、今の君のように?」

  ヨンウォンが、自分の頭を手で触った。結い上げたお団子頭に鉛筆とペンを挿していた。仕事が忙しい時は、お団子頭が鉛筆立てだった。今一度、自分の身なりが恥ずかしくなった。

「はい、少し似ています。」

  庁長とセンター長だ!これは、あまりにもハッキリした記憶だった。シモが急ぎ振り返り、甲3に、ここに来る前にあったことを耳打ちした。甲3も容易には頭が回らなかった。甲1も理解できないのは同じだった。

「皆んな、一緒にいたのか?そんなはずないだろうに。俺たちは、いっぺんに動くことは無いじゃないか。」

  三人が一緒にいたなら魂の回収ではなく、今、集まっているように、私的に動いていたということだ。

「幼い子供…。私も、幼い姿には尚さら気持ちが惹かれたんだが…。まるで記憶を盗まれたような感じだ。」

  甲1が続けて聞いた。

「ひょっとして、夢の中で錦鯉を見たことはあるのか?俺の蝶やこいつの天馬のように。」

「いえ、錦鯉はまだ。けれど、蝶や天馬みたいにコウモリは見たわ。」

  甲3が、会話を押しのけて入ってきた。

「何?コウモリも見たって?」

「ええ。あの時は成人でした。もう、幼くはなかったです。弓を射る弓士だったと思います。コウモリの群れが現れた時、一緒に登場した男の方がいらっしゃったんですが、鎧を着て長い髪をなびかせていました。」

  コウモリなら、センター長が確実だ。しかも、彼は死者を導きに出る時にはいつも髪をほどいていた。

「そして、コウモリが出てきたその夢も、私には悪夢ではありませんでした。」

  悪夢では無い夢。天馬の群れが出てきて、コウモリの群れが出てきたなら、死を迎えた時のはずなのだが、悪夢ではないというのか?閻魔符命状がある状態だったのか?それとも現世の飛行機事故や地下鉄事故の時のように、偶然その場に居合わせただけなのか?

「時期は分からないか?いつ頃だと思うとか。」

「それは、さあ……。ところで、何故こんなにも深刻なのですか?これはそんなに重要な事なんですか?」

「重要さ。俺たちの役に立つ情報だ。もしかして、クラゲは見たことないか?」

  ヨンウォンがしばらく記憶を辿ってから答えた。

「全く。」

  これは、イ・ジョンヒの本にもチェックされていなかった。1300年余り前の記憶は完全に消滅していた。甲15が導いて、その時の閻魔符命状は今まで残っていた。クラゲの記憶が無いのは、歳月が経って自然消滅した可能性もあるが、あの世で過ごし、無事に転生しながら、再度、記憶を取り出されたからかもしれない。甲15が導いた以前の前世も、当然だが残っているはずがない。もし、間違いで残っていたとしても、甲15によって、その前の記憶まで全て取り出されたはずだから。

  それなら、天馬やコウモリはいつ見たんだ?これらを見たなら、少なくとも1千年前の記憶ということになるのだが。それに、三人の使者は何故、集まってヨンウォンの前世と一緒にいたんだ?ヨンウォンが言っていた場面三つが全部違う生涯なのか、1つの生涯で起こったことなのかも見当がつかなかった。ヨンウォンが甲2に言った。

「夢の中であなたを見て、とても幸せでした。何故なのかは分かりませんが。三人の方々に囲まれて歩いて行く時は楽しかったです。守られている感じだったので、余計に嬉しかったんだと思います。」

  甲2がヨンウォンの手を握った。そして、彼女の手の甲に口づけをして言った。

「すまない。絶対にあなたを知っている気がするのに、全く思い出せないんだ。人間であるあなたが私を覚えているというのに…。会えば判ると思ったのに……。」

  ヨンウォンの手に、彼女の涙がこぼれ落ちた。人間の体温より少し冷たい涙だった。じっくり考えていた甲1が、あの世のスマホでセンター長に電話を掛けた。

 ┈ 何なんだ?

「ここは、この世だ。」

 ┈ 当然知っている話を何故するんだ?

「ここに甲2使者も一緒にいる。」

 ┈ 知っている。成功おめでとうと伝えてくれ。

「ナ・ヨンウォンも一緒にいる。」

  あの世のスマホの向こうで言葉が消えた。それでも電話は切れなかった。甲1が言った。

「電話でもしてみろ。」

 ┈ 俺が何で!

「代わるよ。」

  甲1がヨンウォンにスマホを渡した。ヨンウォンは、ついうっかり受け取って、目で相手が誰なのか、どうしたらいいのか尋ねた。甲1が言った。

「そいつがコウモリだ。挨拶でもしてみろ。」

  ヨンウォンがスマホに向かって挨拶をした。

「こ、こんばんわ。私はナ・ヨンウォンと申します。」

  スマホの向こうからは、何の音も聞こえてこなかった。甲1が、何でもいいから続けてみろという手振りをした。

「あ、あの、夢でコウモリの群れを見ました。そして、あなたも見たような気がします。鎧をお召になっておられた…」

 ┈ ✘✘みたいだな。

  この一言を残して電話は切れた。ヨンウォンが呆れて、スマホを指しながら言った。

「わ、悪口を言って切られたわ。私が何か間違って…」

「元々、口が悪いんだ。単なる会話だと思ってくれ。」

  甲1がスマホを受け取りながら彼女をなだめたが、納得はしなかった。

「いくらそうでも、何も言わずに一言、悪口だけ言うかしら?」

  甲3が言った。

「センターの職員たちの抗議を受けて、近頃じゃ悪口をほとんど言わなくなっていたんだがな。本当にムカついたのか?」

  こう2が言った。

「思い出せなくて、イライラしたんだよ。本人が一番苦しいはずだ。」

  シモは、センター長をヨンウォンの前に座らせたかった。今の甲2のように何も思い出せなくても、救えるものはありそうだった。

「センター長をここに連れてきたいんだけど、方法が無いんだよ。」

「あの方はここに来られないんですか?どうして?」

「ヨンウォンさんと症状が同じなんだ。この世への外出が困難なんだ。」

「じゃあ、ここにいらっしゃる女の方と一緒にいらっしゃったお二人は?あの方たちも出られないんですか?」

「コウモリが、頭に木の枝を二つ挿していた奴と同一人物なんだ。後の一人も、この世に出てくるのは辛そうで。」

  同一人物?夢で二人とも顔はハッキリ見なかった。無理に思い出してみれば、同じ人のようでもあった。幼い子供の目で見た時の彼は、頼もしかった。コウモリの群れの中にいた彼は、大人の目で見たせいか、心が痛かった。彼に向かって駆けて行ったその心は、込み上げた懐かしさは、確かに愛の感情だった。それなのに、今さっきの電話は、冷水を浴びさせられたような気分だった。

「確かなのか分かりませんが…」

  ヨンウォンが甲1を見た。彼は、今現在、愛している男だった。この気持ちも軽い重さではなかった。いくら死神と言えども、あの男を好きだったと感じたなどと言えば、気を悪くするだろうという気がした。しかも、会ったことも無く、夢でだけ見た男ではないか。甲1が目で、次の言葉を催促した。ヨンウォンは最大限、事実を話した。

「順番から言うと、天馬を見た幼子が先だったと思います。なぜなら、目の前にいる女性は、その時、初めて見た感じがしたんです。次に三人の方と一緒にいた場面。最後が、大人になってから、コウモリの群れを見たようです。その時は、その男の人をよく知っている感じでした。嬉しくて、駆けつけて行ったんです。」

  嬉しくて駆けつけた?死ぬ場面じゃなかったってことか?ヨンウォンが言った順番が合っているなら、死ぬ場面であるはずがない。そうじゃないと、もっと前の記憶である天馬の記憶は取り出されているはずだから。それでも確認は必要だった。

「その夢も、死ぬ夢だったのか?」

「分からないの。きっと死ぬ瞬間だったのかも…、口の悪いというお方が現れて、目が覚めたから。」

  今までそれを覚えているということが、最も重要な部分だった。ヨンウォンがこの世忌避症の三人組と会った時期は、1000~1300年前の間だということが、ほぼ確実になった。そしてこの後から、ヨンウォンの記憶はただの一度も取り出されてはおらず、歳月が経つにつれ、あまり衝撃的じゃなく印象的ではないものから、自然消滅していったのであろう。

  シモは推察してみた。記憶が残っているヨンウォンと、記憶が無いこの世忌避症の三人組。彼らが出会ったその生涯のどこかの記憶が三人組から消えてしまった。それに加えて、ヨンウォンの呪いが発生し始めた時点も、この時であろう。あの世だけ見える中途半端な巫の目を持つ女と死神。彼らは確かに関係がある!

  ところで、同じく記憶に異常がある甲1は、どうなっているんだ?彼らとは関係ないのか?それとも、まだヨンウォンの夢に登場していないのだろうか?イ・ジョンヒの本にも、蝶はチェックされていなかったし。会ったことが無いということか?

「ヨンウォンさん、夢で甲1を見たことはないの?飛行機事故の時は除いて。他の三人と一緒にいたとか。」

  ヨンウォンが首を横に振った。現在、ヨンウォンの頭の中も、死神たちに劣らず複雑な状態だった。

『この美しい女性が実在するなら、他の二人の男性も実在するなら、夢じゃないってことなの?夢の中で見るのが夢じゃないなら、これは何なの?一体、私は今、何に対して質問されて、何に対して返事をしているの?』

  ヨンウォンは色々聞きたかったが、どう質問して良いのか分からず、戸惑っていた。しかも、皆んなの雰囲気がとても深刻だった。恐ろしい感じさえした。ヨンウォンがモジモジしながら言った。

「あのぉ、何故、死神たちが私の夢に登場したんですか?この前、法医官様も出ていらっしゃったし。もしかして、死神には人の夢に介入する能力があるのですか?」

  四人の月職たちが、一斉に凍りついた。これについて言い訳を考えておいた月職が、一人もいなかったのだ。このような質問を受けるだろうという推測もやはり、誰一人していなかった。視線はシモに集まった。彼でなければこれを収拾出来ないだろうということだった。だが、シモにもこれは能力を超えていた。

「あ…、僕…、ヨンウォンさん、話せば長くなるし、それに……、あの世の機密でもあるし……。」

「何も言えることは無い!ってことですか?」

「そんな、頭ごなしに拒否してるんじゃなくて…。僕たちの立場もあるし。あっ!今度、説明してあげるよ。僕たちも全部整理したらね。」

「私、本当に気になって仕方ないんですけど?何が何だかさっぱり分かりません。頭の中がおかしくなった気分です。」

「本当に整理でき次第、話してあげるから。約束するよ。だから、ちょっとだけ待ってくれないかな?」

「もしかして、私の巫の目と関係無いとあるんですか?イ・ジョンヒという方以外に、色んな人に憑依されてたとか?」

「そ、そんな感じ!僕たちも収拾中だから、もうすぐ説明してあげられるよ。あっ!ヨンウォンさんも忙しいんじゃないのかい?」

「あっ!寝る時間!」

「そうだよ、寝て!早く寝て!時間取って、ごめんね。」

  甲3が目で、もっと聞いてみろという合図を送ったが、ここは逃げるが得策だった。これ以上、嘘をつくのは無理だった。早く退散して、ヨンウォンにどう説明するか、アイデアを絞り出さねばならない。自分たちにとって、最も脆弱な能力ではないか。甲2もコソコソ立ち上がった。シモが診察室に逃げ込むために、甲1の肩に手をかけた。そうしたが、ハッと手を引いて言った。

「ちょっと待って!ヨンウォンさん、もう一つだけ聞いてもいい?」

「何ですか?」 

「もしかして、夢の中で、髪に飾る青銅…」

「あれ、青銅だったんだ!鉄製の髪飾り、見たことがあります。でもそれは、夢じゃなかったんですけど。起きている時に、頭の中を一瞬、通り過ぎた場面…」

  シモはヨンウォンの混乱を気にするどころではなかった。急に全部が停止した。

「どんな形か覚えているかい?」

  ヨンウォンが食卓の横に除けておいた雑誌を引っ張った。そしてキョロキョロしながら、自分の頭の上の筆記具を思い出して、鉛筆を抜き取った。雑誌の中に空いているスペースを探して、花模様が刻まれているかんざしを描いた。フォークのように足が2本あった。センター長の髪飾りと同じだった。

「これは誰の物だ?」

「私がこれを誰かにあげました。」

「誰にあげたの?」

「分かりません。手だけ見えて…、コウモリ…、あの方だったと思います。手の甲を鎧で覆われていて、髪が長かったから…」

  センター長の失われた記憶の証拠品、その出処がヨンウォンの前世であったことが明らかになった。ここで最も衝撃を受けたのは、甲1だった。ヨンウォンとセンター長の縁が、並々ならぬものであるという予感がした。これはとても受け入れられない、不快な気持ちに他ならなかった。シモがヨンウォンに言った。

「本当に重要な情報だったよ。ヨンウォンさんは、病院にいつ来られる?」

「五日ほど後に予約してみます。」

「予約がいっぱいで無理だろう。ヨンウォンさんは病院の時間にこだわらずに、僕に電話して。いつでも。そして、僕たちの質問には気を使わずに、仕事にだけ集中してね。ヨンウォンさんの精神安定のためにも。じゃあ、その時に一通り、僕が説明してあげるからね。」

「本当に説明してくださるのですね?」

「そうだよ。ここまでお世話になったのに、説明しない訳にはいかないよ。」

「はい、じゃあ、院長先生のお話だけを信じて、仕事だけに集中します。気になっても、決して考えないようにして。」

  甲2が別れの挨拶として、ヨンウォンの頬に口づけをした。いきなりの口づけだったが、乱れた気持ちを鎮めてくれたようだった。

「会えて嬉しかった。」

  甲2の口元に微笑みが浮かんだ。やはり、この女性は美し過ぎた。こんな女性が死神なら、世の中の全ての男性は死を選ぶに違いない。

「はい、私も。」

  甲3と甲2が先に消えた。甲1はヨンウォンをギュッと抱きしめて額に口づけをした後、シモと一緒に消えた。一人残ったヨンウォンは、甲1の唇が触れた額に手を当てた。

「本当に自然ね。どうしたらあの短い瞬間に、ハグとおでこにキスを同時にして消えちゃえるんだろう?これ以上、ときめくことも出来ないほどに…」

  ヨンウォンの頭の中は、複雑ではなかった。心も乱れてはいなかった。甲1がしてくれた短いスキンシップに、全ての感情が奪われてしまったからだ。


*******


  あの世の診察室に到着するや否や、甲3が叫んだ。

「本当に説明してやるのか?」

  シモもつられて声を張り上げた。

「してあげたくても、説明できると思うのか?僕たちの頭の中もまだ整理出来ていないのに!」

「じゃあ何で、出来もしない約束をしたんだ?」

「人間だからだよ。しかも、創作職業だし。納得出来ないことが起こったら、もの凄い想像力を発揮するはずだ。それに対する副作用も考慮しなくちゃならないし。それに、ヨンウォンさんは精神障害もあるじゃないか。」

「俺が思うに、ナ・ヨンウォンは精神障害ではない。あんな記憶を持ってるのにこれぐらいなら、健康そのものだ。」

「じゃあ、放っておくのか?」

「いや、どういう風に言い繕おうか、じっくり考えないと。これが1番の難題だ!」

  ヨンウォンにどうやって嘘をつくかが最も重要課題となったシモと甲3とは違い、甲1は他の事に関心がいっていた。ヨンウォンの前世とセンター長がどんな関係だったのかが、気になって仕方がなかった。かんざし、大袈裟に解釈しているが、些細な贈り物程度のことではないか。どれくらい親しかったら、そんな物をやり取りできるというんだ。

  人間の記憶が一千年維持されるということは、奇跡に近かった。なのにヨンウォンは、その間の記憶を大切に持ち続けていた。悪夢でもないのに。より強烈な記憶が長く続くというなら、センター長のことが死よりもっと強烈な記憶だと言う意味ではないのか。それにセンター長は、そのかんざしを肌身離さず一千年もの間、大事に持ち続けていた。身体の一部と思えるほどだった。記憶が無いとしても、その感情は決して軽いものではない。

  三人の男はずっと立ったまま、悩み続けた。ソファーに座って彼らを見ていた甲2が言った。

「誰が私に説明してくれるんだ?私は正直、何の話なのか全く分からなかったんだ。」

「皆んな集めて一度に話をしなければならないよう…」

  突然、あの世のドアがバンッと開いた。そして、甲21が得意げな顔で入ってきた。

「 オッパたち!産国から入手した、もの凄い情報よ!」

  シモは頭が痛くなるのを感じた。もう情報などウンザリだった。

「僕らも情報があるんだけど、先ず、君のから聞こう。」

  甲21がソファーの所にやって来て、甲2の隣に座った。そして、意気揚々と報告し始めた。

「甲15使者が1300年前に導いたというあの魂、ナ・ヨンウォンの前世だったのよ。それは閻魔国に留まって、産国に行って転生したんだけど、その時の子授け証書を見つけたの。一千年あまり前に転生。名前はヨンファ!城主の娘に生まれたんだって。玉皇国の方には情報交換しないことにして、ウチの方を探したんだって。でも、ヨンファの閻魔符命状がなかったの。証書発行の直後から百年前まで生きたとオーバーに設定して探したのに無かったし。」

  甲1が口の中で、名前を発音してみた。

「ヨンファ……」

  甲2も口の中で名前を転がしてみた。舌に絡みつく感じがした。

「これで問題の始まりは1千年前だということが確実になった。ヨンファ、その時から!」

  シモが言った。

「城主の娘として生まれたのに、なぜ弓士になったんだ?突然、家が没落したのか?」

  甲21が、キョトンとして言った。

「弓士ってどういうこと?誰が弓士だって?」

「ナ・ヨンウォン、いや、ヨンファ。その当時は戦争中で、しょっちゅう身分が二転三転した。玉皇国の功過格さえあれば……」

  閻魔符命状が作成されたら、功過格の写しは閻魔国側に渡る。けれど、その魂が転生したら廃棄するので、ここでは見られなくなる。もしもヨンファの功過格がきちんと記録されていたら、まだ玉皇国に残っているはずだが、今、要請しても我々側の情報だけ渡して終わる確率が高かった。その一方で、敢えて要請する必要もない気がした。死神と関連があるなら、どうせ功過格にも記録は残っていないはずだから。甲2が言った。

「私の記憶はこう言っちゃ何なんだけどさ、その当時も完全無欠なんだよね。1千年だけでなく、それ以前も全部。なのにただ一つ、ヨンファについての記憶だけが無いんだ。」

  甲2が立ち上がった。そして、外に出ながら言った。

「資料を漁って確認してみないと。ヨンファの他にも消えた記憶があるのかも。」

  あの世のドアが閉まった。シモがソファーにドカッと座りながら、両手をサッと上げた。

「ついに捕らえた!それも同時に!ヨンウォンさんの呪いの始点と、この世忌避症の三人組の精神障害の始点。この二つの関連まで。」

「7合目を越えたようだな、ヒュー!本当に見当もつかなかったのに。」

  シモの視線は自ずと甲1に移った。ならば、甲1の精神障害と記憶消失はどこから始まったのだろう?ヨンウォンの前世の記憶にも甲1がいないのを見ると、彼の記憶に消失した部分は無くて、精神障害だけがあるってことなのか?いや、暗黒の牢獄の地下にある正体不明の蝶についての彼の記憶は、明らかに消失たに違いない。傷跡も同じようにあるではないか。甲1とこの世忌避症の三人組、彼らの間に別の何かが発生したのかもしれない。その事は、ヨンファと関係があるのかもしれないし、全く関係ないのかもしれない。あるいは、甲1が彼らとも全く関係の無い別のことを一人で経験した可能性も排除できなかった。

  診察室の中を徘徊していた甲3が、一緒に立っていた甲1の肩を掴んだ。

「甲1使者。ナ・ヨンウォンの恐怖指数の高い順から前世を確認したのか?」

「身体切断を除いて、全部確認した。」

「火は?」

「198年前、ハンセン病で森に隠れて暮らしていたが、村人たちに発覚して、火で焼かれて死亡。165年前、愛妾と共謀した夫の手により首を吊られて死亡。264年前、家門の協議により、手足を縛られたまま腰に重い石を吊るされて海に投げられ死亡。彼女の死に関係した皆全員が、それぞれ利益を得た。火で焼き殺した見返りに、村人は皆、死の恐怖から抜け出し、首を吊るして殺した見返りに、本妻の座と財物を着服し、水に水葬させた見返りに、家門の何人かが科挙試験も受けずに、末端ではあるが官職に就いた。彼らは皆、この罪に対する罰を受けたことは、ただの一度も無かった。この世でも、そして、あの世でさえ。」

  誰も彼女たちの死を助ける人はいなかった。死神でさえ、その死を見逃していた。

「あの世で支払う罪の償いは、何の役にも立たない。地獄は、罰より魂の浄化にフォーカスを当てているから。いずれにせよ、身体切断は無かったのか?」

「まだ。」

  甲3がシモに言った。

「ナ・ヨンウォンの記憶は、歪みがない。あるがままだ。ナ・ヨンウォンの暴露治療の最高段階は?」

「肉屋で骨を切るのを見ること。だそうだ。機械によって。」

「身体切断は道具の発達と関連がある。人間の脚の骨は簡単に切断できないんだ。それだけ近々の前世なのだろう。そして、いくら身体切断の恐怖が高いといっても、火の恐怖を凌ぐことは出来ないはずだ。凌ぐにしても、似たようなレベルなのだろう。なのに、198年経った火の恐怖より、身体切断の恐怖の方が高い。と言うことは、身体切断が火よりもっと直近に起きた事件ってことになるよな?」

  甲1を始めとして、シモと甲21の視線が甲3に集まった。そして、同時に叫んだ。

「イ・ジョンヒ!」

  甲3が頷いた。シモが言った。

「だからイ・ジョンヒの本には身体切断にチェックがされてなかったんだ。自分の死だったから。その記憶を背負わなきゃならないのは、現世のヨンウォンさんの役目だから。」

  甲1が言った。

「記憶保管所に無いってことは、その犯人はまだ生きている。この世の文書でイ・ジョンヒが依然として行方不明のままになってるのを見れば、捕まっていないという意味で。」

  シモが聞いた。

「ヨンウォンさんにはどこまで説明するればいい?イ・ジョンヒの死もそうだし、三人組に関連したことも。」

  全部がソファーに座った。そして、頭をフル回転させてみたが、これといった意見は出なかった。

キラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラ

ま、まさかのセンター長‼️
元彼ってか?
滝汗

さて 甲1 どする?

どんどんミステリー色が強くなってきます
お話がどう転ぶか 全く分かりませんやろ?
ウインク

今日も読んで下さって感謝です
ハート