続きです
「先生もちょっと休んでください。このままでは倒れてしまいます。私達も明日、出来るだけ早く来ますから。」
ミナとギョンミンが玄関のドアを開けて外に出た。玄関ドアをロックするのを兼ねて見送っていたヨンウォンが、ピタリと止まった。外でチャイムを押そうと、甲1が立っていたのだ。幸い無体化していた。それで、ミナとギョンミンが彼を通り抜けて行った。ヨンウォンは、しばらく玄関ドアを開け放ししたまま、突っ立っていた。どんな挨拶をすればいいのか分からなかった。振っておきながら、人間ならその後、こんな風に訪ねて来ないはずなのに、彼は死神だから別に関係無いのか?
「どうして何も言わないんだ?」
「言葉を失くしたの。待ってたんだから。忙しくて死にそうだったけど、待ってたんだもん。あなたは待つなと言ったけど、待ってたんだから。たくさん待ってたらこうなって。」
甲1が家の中に入って来た。ヨンウォンが玄関ドアを閉めるやいなや有体化した。玄関ドアをロックして振り向いたヨンウォンが、びっくりしてドアにくっついた。
「カ、カビル、あなたその服……」
「待つなと言ったのは、君のためだったんだ。」
「いえ、違うの、そのパジャマは…」
甲1がリビングに入りながら言った。彼の声は服装と違って、極めて真剣だった。
「俺の全ての言葉と行動は、君のためのものだ。君を傷つけるためのものじゃない。」
ヨンウォンの耳に彼の言葉は聞こえもしなかった。視覚が聴覚を完全に奪い取った。
「私のため?その服も?」
「俺は、待つことが毒となって死んでいった多くの魂を見た。精神は魂だけではなく、肉体をも殺したりする。俺はヨンウォンが、末永く生きてくれることを願っているから……」
「私にとって今、重要なのは、死ぬことや生きることでは無くて、あなたのパジャマの事なのよ!」
「俺にとっては君の人生が余りにも重要なんだ!」
「私がちゃんと生きていくことが重要なら、そんな姿で来たらダメでしょ!誰が、息が詰まって死ぬ姿を見たいっての?」
「い、息が詰まっているのか?いつから?どんな風に?」
ヨンウォンがリビングに入りながら、ため息混じりに言った。
「あなたのその身なりを見た瞬間からよ。息が詰まって鼻血が噴き出す状況だわ。あっ!人間特有の比喩よ。本当に鼻血が噴きでるわけじゃないのよ。」
ある意味、本当に無神経で悪い男だ。愛してますと告白した女の家に、あっさりと拒絶して逃げたくせにどういうつもりでパジャマなんか着て来ようと思えるんだろう。
「カビル!他のことは取り敢えず置いておいて、あなたのその服は何なの?なぜそれを着て、こんな夜に突然やって来たの?あなたの答え次第では、ビンタが飛ぶかもしれないわよ。」
「楽な服が欲しいって言ったら、これをくれたんだ。」
「あなたが選んだんじゃないの?」
甲1が頷いた。
「俺は着せられるままに着ている。」
ヨンウォンがリビングの壁に頭を打ちつけたまま、ピッタリとくっついた。そして1人で呟いた。
「今、私、失望してるわよね?私という女は、本当に救いようがないわ。ビンタなんてとんでもない。あぁん、もうっ!プライドもないの?」
「壁にくっついて何してるんだ?」
「反省してるの。漫画では、反省する時、壁の隅に頭をよく打ちつけるのよ。」
甲1が近寄って来て、彼女の両肩をそっと掴んだ。
「俺を見て。」
「私の体と心がちょっと複雑なの。少し落ち着けば…」
「ほんの少しだけ時間を作って来たんだ。暫くはこんな風に出られない。」
ヨンウォンが素早く振り向いた。彼が、彼の顔がとても近くにあった。
「どれくらいの間?どれくらい会えないの?」
「半月ほど?」
「半月も?」
「状況によっては、もっと長くなる可能性もある。」
「その間は私も忙しいけど……、それでも……」
急にヨンウォンは戸惑った。そう言えば、甲1は以前と全く変わらない態度を見せていた。愛の告白を断ったんだから、何か変わるべきなんじゃないの?
「君が待つんじゃないかと思って、前もって話に来た。」
待つという告白も断ったんじゃなかったの?人間にとって待つなと言うのは、愛を拒絶するのと違わなかった。ところで、彼は本当に純粋に言葉通り、待つなと言ったってこと?健康を害すかもしれないからって?
「カビル、あなた、私を蹴ったんじゃなかったの?」
「俺は人間に暴力は振るわない。」
愛してるという告白に対して、直接聞いてみたかったけれど、彼がまたいなくなることを恐れていた。どう聞けばいいのか悩んでいた彼女に、甲1が言った。
「もう、行かなければならない。」
「こんなに直ぐに行っちゃうの?半月ほど来られないって言うつもりなの?」
「言ってくれって言っただろ?」
「も、もちろん、あなたがそんなに来なかったら、凄く心が痛かったと思う。」
「来てよかった。ちょっとでも顔が見たくて来たんだから。」
「えっ?」
ヨンウォンが彼の両腕をしっかり握った。そして高い位置にある彼の顔を見上げて言った。
「カビル、会いたかったという言葉は、愛してるという意味の別の言い方なのよ。愛してなければ理由も無く会いたくもならないし、来たくもならないわ。」
甲1の濃い眉が歪んだ。ムカついたり、不快なわけでは無さそうだ。彼の心がとても複雑で、そうなったようだ。勇気を出した。
「カビル、私は今、あなたに口づけをするわ。私が嫌なら無体化してもいいわよ。」
ヨンウォンが踵を精一杯上げて、つま先立ちした。首を力いっぱい伸ばした。しかし、いくら力を入れても彼の唇はあまりに遠かった。白頭山でも、こんなに高くはなさそうだった。そろそろ恥ずかしくなってくる頃だった。甲1の顔が下に降りてきた。そしてそのまま自分の唇をヨンウォンの唇の上に重ねた。今度こそ目を閉じなければならないタイミングであるにもかかわらず、ヨンウォンの目は大きく見開いていた。ヨンウォンの唇から、顔が遠ざかった。遠ざかる気がしただけだった。つかの間の時間だった。彼の腕がヨンウォンの腰を巻き上げ、唇は再び重なった。再び重なった唇は、さらに深い所で出会った。ヨンウォンの目が、自分でも知らないうちに閉じられた。二つの唇が離れた。甲1が、彼女の唇の中に囁いた。
「俺も君と口づけがしたかった。ずっと前から。いつも君に会いたかった。会う前からずっと。」
甲1の腕が解けると、彼女の足首も降りた。ヨンウォンが慎重に目を開けた。彼の表情が見たかったが、彼の唇は彼女の頬に再び近づいた。甲1は頬に短いキスを残し、片手では彼女のもう片方の頬を撫でながら消えた。ヨンウォンは、その場に一人ぽつんと残された。全てが夢のようだった。けれど、感触は生々しく残っていた。ヨンウォンがスライディングするように、リビングに倒れ込んだ。トキメキが治まらなかった。自分の大きな息遣いが耳元で聞こえるほどだった。両手が、全身が、震えていた。手を上げてみた。
「い、今、この手ではペンは握れないわ。全部ぐちゃぐちゃな線になっちゃうじゃない。」
手を下ろした。目の先にはリビングの天井があったが、何も見えなかった。甲1の顔が見えなかった。
「私も会いたかったわ。今も会いたい。」
だが、彼が最後まで愛しているという言葉を言わなかったことに気づいた。
「愛してるって言わなかったからって、それが何なのよ。最後に頬を撫でたその手が、そう、もうそれが愛だわ。」
******
「甲1使者、しっかりしろ!おいっ!」
甲1はソファーに横たわったまま、ピクリともしなかった。あの世に渡ってくるなり寝転んだまま、かなりの時間が経っていた。シモと甲3は、さすがに心配になってきた。大きな問題が起きたに違いなかった。行ってきたのはヨンウォンの家だったはずなのに、どこかで戦闘でもしてきたかのように、息遣いも荒かった。甲3が尋ねた。
「ひょっとして、縁起の悪いヤツにでも会ったのか?雷帝がずっと狙っていたが。」
「そんなことは無い。」
甲1がのっそりと起き上がった。相変わらず魂が抜けたような顔だった。頬は上気したように赤みがかっていた。シモが言った。
「君、今、正常には見えないが。」
「正常に見える方がおかしいんだ。こんなにも気分がいいのに。」
「気分がいいだって?」
甲1が頷いた。確かに彼の唇の端が、華やかに開いていた。笑みを抑えきれないようだった。ヨンウォンの所に行く前までは、彼女の輪廻問題で皆、死にかけた表情だった。なのに急に変わってしまった。その僅かな間に、輪廻問題が解決された訳でもないのにだ。向かい側のソファーに並んで座っていたシモと甲3が、互いを見つめ合った。目でお互いに質問したが、それぞれ首を横に振った。
「明日から忙しくなるだろう。俺は家に帰って少しでも休んでくるよ。」
甲1が起き上がって、あの世のドアを出た。シモが彼の後頭部に向かって言った。
「明日はその服を来てくるなよ。家だけで着るんだぞ。」
「分かってる。ヨンウォンの家でだけ。」
「僕が言ってる家は、その家じゃなく…」
既にドアは閉まっていた。甲3が頬杖をついて、深刻に悩んでいた。
「たった15分以内に起きる、気持ちのいい事って何なんだ?」
「さあ……。恋をすればたわいも無いことでも幸せになるって聞いたけど。」
「それにしても、今のあの姿はあんまりだ。」
「ミステリーだね。」
彼らには想像もつかない領域だったため、結局、推測すら出来なかった。
ヨンウォンに残された時間はあと僅か
なのに お二人さん
そりゃね 燃え上がった恋の炎は
誰にも消せまへんよね〜
オバはん的には
チッスもええけどもっと…
ウングォル先生 ほんまにソフト
これからどんどん謎が明らかになってきます
今日も読んでくれはって
おおきにさんでございます