毎度おおきにさんどす
デレデレ

最近ね 
抜け毛が激しいんやけど どないしょ
滝汗

ホンマに酷いのよ
なんや 頭にパチパチって乗っけるやつ
アレまぢ欲しい
結構強烈な天パ〜やから
何とか誤魔化せてるけど
江戸時代やったらヤバかったわ
ニヤニヤ

六章に突入です
今日もよろしゅうお頼もうします

栗栗栗栗栗栗焼き芋

第  六  章  陰の中の墓

第  一  節

  白い雲のようなものが舞い上がっていた。羽ばたくそれは、特異な形をしていた。翼は白鳥のようなのに、体は馬だった。あっ!天馬だ。透明な天馬は1頭だけではなかった。美しく神秘的で、思わず手を伸ばしてみた。とても小さな幼子の手だった。小さな手はそれを掴むために、着いて行った。色んな大きさの天馬たちは、ひと所に向かって飛んで行った。

  天馬が集まっている中に、人が立っていた。透明な人だった。黒い鉄の鱗の鎧を着た美しい女の人だった。遠くてもその美しさは分かった。太ももまでふんわりと下りた真っ黒な巻き髪は、時に風になびくように、時に水中を揺れるように、幼き目を虜にしながらはためいていた。

  ヨンウォンが目を覚ました。暗い部屋の天井が見えた。ゆっくり起き上がって座り、しばらくボーッとしていた。悪夢ではなかった。こんなに気分が良くなる夢があるとは。良く眠れたようだった。ヨンウォンは、部屋を出ながら思い出した。さっきの夢の中の女性、病院の待合室から現れて、勝手に展開している史劇のストーリーじゃなかったのだろうか?昔から寝ながらもストーリーの構想をしてきたが、これは少し違う感じがした。普段、悪夢を見ながら眠っていた時と深さは変わらなかった。

  キッチンで水を飲んだ後、癖のように作業室の机の前に座った。ヨンウォンに降り掛かった最大の問題は、何と言ってもダブルの締切だった。その次は甲1だ。告白した。すぐに振られた。振られた。振られた!

「はぁ!私って本当にバカ。どうして感情ひとつ抑えきれずに口に出してしまったの?」

  机の上に頭をゴンゴン打ちつけた。恥ずかしい気持ちは無かった。彼を困らせてしまったのが、申し訳なかった。

「告白するならちゃんとしなさいよ。あの味も素っ気もない告白は、一体何なのよ。それでも少女漫画で稼いで生きてるって言えるの?愛してる、たった一言だなんて。あぁん、もう、クソっ!」

  机の上に置いたスマートフォンを見た。彼の番号は入っていない。要は単なるガラクタってことだ。

「このまま来ないわけじゃないわよね?待つなって言ってたけど……」

  本当に来なかったらどうするの?ヨンウォンはその答えを分かっていた。それでも待つだろう。どうしようもなく。

「突然消えたのは、私の告白に困惑してそうしただけよね?ただ、煩わしくて……。あっ!院長先生は煩わしくて避けてたって言ってたじゃない。ち、違うわ。カビルは院長先生とは性格が違うから、そんなはずないわ。カビルはたかが人間ひとりから好きだって告白されたくらい、どうって事無いわよね?きっと鼻でせせら笑うぐらいだわ。元々の行動範囲を変えるほど、私は大した存在でもあるまいし。あぁ!それはそれでツラい。だからといって、待たないという嘘はつけないわ。絶対に。」

  ヨンウォンが漫画コンテ集を手に取った。漫画本のように横にめくるタイプのスケッチブックだった。ウェブ漫画は下にスクロールして読む形式なので、上にめくるタイプのスケッチブックを使うが、漫画本は違った。ページをめくる形式が異なるから、コンテの演出も変えざるを得なかった。ヨンウォンは、今日描く内容を確認した。スケッチブックにはマス目を仕切って、大まかにラフを描き入れて、セリフを書いておいたものがあった。ところが急に、自分の描いておいたものを見て、腹が立った。

「違うでしょ、あんた達!私は失恋で頭を打っているのに、2Dの世界に住んでるくせにキスしてるって?あんた達、キスシーンは取り止めよ!キスシーンなんか入れてやるもんですか!」

  ヨンウォンが、怒りの消しゴムを入れた。そうしているうちに紙が破れてしまった。ヨンウォンが肩をだらりと落とした。彼女は再びスケッチブックを綺麗に整えた。

「心を綺麗にしなくちゃ。主人公達に八つ当たりするなんて。この子たち、今まで創作主のせいでラブシーンが全然出てこなかったのに。創作主も頭を打って反省すべきよ。そうよ!決めたわ!」

「私があんた達のキスシーンを心を入れ替えて描いてあげるわ。角度をどうやって掴めば…」

  引き出しを探って、二つの鏡を取り出した。それぞれ平面鏡、凸鏡だった。顔をあちこちに向けながら鏡を見た。鏡ふたつを交互に照らし合わせた。自分の顔を見るためではなかった。キスシーンに使う顔の角度をつかむためだった。自分の手で顔半分を包み込むように当てた。手は凸鏡により、たくさん映し出された。彼女の絵は、平面鏡と凸鏡の中間ぐらいの感じが入るように捉えた。そうすることによって、より立体的な演出が可能だった。0.1秒の刹那だった。だがヨンウォンは、苛立たしそうに頭を振った。

「こんな想像はダメっ!もっと惨めになるわ!私はさっき、振られたのよ。それも、きれいさっぱりと。」

  角度は大体つかめた。ヨンウォンは絵を描きながら、ずっと考えていた。死んだら甲1を忘れてしまうって聞いたことを思い出した。

「あれはどういう意味だったんだろう?私がどうやってカビルを忘れるの?カビルが私を忘れたら、私も忘れるけど。ちぇっ!元々、愛された記憶よりも愛した記憶の方がずっと長く続くのよ。死神だから何も知らないんだわ。しまった!院長先生の宿題もしなきゃいけないのに。悪夢の整理、う〜ん…、とてもそんな時間はないわ。とりあえず締切が終わってからにしよう。」

  ヨンウォンが描いているキスシーンは、完全な横顔を避けた角度だった。確かに側面ではあるが、男主の顔がもう少し見えるようにした。読者の目には、女主より男主の方がより多く見える方がトキメキポイントが高かった。

「やっぱりキスシーンは難しい。しかもキスシーンに進む過程はもっと難しいわ。」

  メインの1マスだけにキスシーンを入れるのではない。延々2ページにわたって色んな角度で演出しなくちゃいけないんだけど、その横の縦長の隙間には、主人公たちの全身ショットを入れなきゃならないし。その欄のデッサンも描き始めた。

「失恋したのにキスシーンを止めどなく描いてるなんて。あぁ、私の運命よ。蝶が夢に出てきたら恋人ができるって言うけど、それ、完全に詐欺……、あっ!私の本!」

  机の上を見た。《予知夢解釈法》が無かった。シモの診察室に置き忘れてきたのだ。彼ならちゃんと預かってくれるだろうから、心配する必要はなさそうだが。

「じゃあ、天馬は?天馬も吉夢のような気が……」

  ヨンウォンがシャーペンを下ろした。それから、この前に鉛筆のチェックが入っている部分だけを別に整理しておいたノートを広げた。

「間違いなく天馬も私が書き写したんだ。」

  指で文字を追い、目で拾いながら降りていった。やはりあった。ヨンウォンが首を何度も傾げた。ここに書かれているということは、イ・ジョンヒも見たということで、それもまた夢だということだ。ストーリー構成ではなく。そういえば、普段ストーリー構想をする時は、2Dの絵のイメージを思い浮かべる。ところが今回は、3Dの人の形だった。

  じゃあ、あの美しい女性も夢の中の人というのか?どうやって目覚めていながら夢を見る事ができるの?天馬と一緒に登場する美しい女性、コウモリと一緒に登場する長い髪の男、そして蝶と一緒に登場する甲1! 彼らは皆、同じ存在なのか?ならば、甲1が死神だから、彼らも死神?

「ところで、どうして蝶と登場するカビルは、私だけが見たの?違う!カビルは夢じゃなくて、私の記憶だわ!夢じゃなくて記憶……。私のものであるかのようなイ・ジョンヒの記憶……。彼女が行方不明になった時期と私の誕生時期……。いえ、違うわ。違うでしょ。そんな有り得ないことが、ははは。」

  ヨンウォンは絵を描きながら、しきりに首を振った。他のマスを書きながらも、彼女は時折、首を振り続けた。


*******

  甲1は荒涼とした家の、更に荒涼とした広い板の間に座って外を眺めていた。部屋の戸も全部開け放ち、引き上げ扉の窓も天井に上げられて固定されているので、四方がパァンと開け放たれていた。なので、どちらを向いてもススキだけが目に飛び込んできた。風が吹いてススキを揺らした。甲1が揺らしたススキだった。

  後ろから誰かが近づいてきた。執事ではない。いつものように現れたあの感じだ。軽快な足音。笑い声。彼女は後ろから、甲1の首をそっと抱きしめた。感触もなしに。けれど甲1はもう、この感触を知っている。甲1が相変わらずススキ畑を見つめながら、呟くように言った。

「誰かと思ったら、君はヨンウォンだったのか。」

「どうして今になっていらっしゃったのですか?どれほど待ったことか……」

  いつもこの辺で『会いたくなかったから』と答えた。すると彼女はいなくなった。今回もそう言わなけれならなかったが、甲1の口からは、飲み込むことが出来なかった本心が流れ出た。

「ヨンウォン、俺は君に会う前から君に会いたかった。」

  彼女は甲1の隣に座って、彼の腕に頭をあずけた。消えずに彼のそばに残った。彼女の指が、甲1の指の間に深く入り込んだ。

「愛しています。ずっと、永遠に……」

  薄茶色だったススキが、少しづつピンク色に染まっていった。それはススキ畑に広がって、甲1の庭であり塀である所は、ピンク色の波になった。


******


シモは、ヨンウォンが置いていった本を1ページづつめくった。どうやって探してみるのかも分からないし、人間の夢の形は理論で覚えるのが全てだったから、ただチェックをされている所を眺めているだけだった。ヨンウォンの言葉通り、歳月を経てボヤけた鉛筆の跡があった。それは、死に関するカテゴリーに集中的に分布していた。ノックの音が聞こえた。シモは本を机の上に置いて立ち上がった。

「どうぞ。」

  あの世のドアを開けて入って来たのは甲2だった。シモは、この世のドアを背にしたソファーに彼女を座らせ、自分は向かい側のソファーに座った。

「また来てくれて嬉しいよ。君があんな風に飛び出して行ったから、数年は来られないんじゃないかと思ってたよ。」

「そうしようかとも思った。でも、私がこの世を恐れる理由が分からないまま過ごすことの方が、今はもっと怖くなったんだ。」

「良い兆候だね。そう決心が着いたのなら、もう少しスピードアップしてもいいかな?」

  甲2が静かに頷いた。シモが言った。

「今すぐ僕と席を替えて座って欲しいんだけど。」

  しばらく躊躇っていた甲2が席を立った。そしてシモの席に行って座り、シモも甲2の席に行って座った。彼女の目に、今まで背を向けていたこの世のドアが入ってきた。彼女の長いまつ毛がぶるぶる震えた。それでもじっと我慢しているようだった。

「ところで庁長は、近頃どうしているの?一向にここにも来ないし。」

「暗黒の牢獄の地下に吸い寄せられている。毎日そこに行ったり来たりしているんで、庁長室にもあまり現れないんだ。」

「そこは症状をもっと悪化させる場所なのに、どうしてそこに、そんなに行くんだ?」

「ヤツの話では、そこが自分を引き寄せるんだとさ。」

「そりゃ、この世から最も遠い所だからな。この世忌避症からの回避場所としては、そこほど最適なところは無いからね。」

「それなら私もヤツと同じだ。そこが私を惹き付ける。いや、その場所が私に惹かれているような。」

「それでも庁長に、ここに来るように言ってくれ。それとも僕が捕まえに行こうかって。庁長は良くなってたのに、また悪化しているから、はぁ。」

  休暇を取った理由も、この世に行く手続きのためだった。なのに暗黒の中にどんどん潜り込んでいっているのだから、シモとしても気力が萎えざるを得なかった。甲2には、もはや緊張は無かった。この世のドアを見ても、以前のような激しい反応は起こらなかった。

「よかったら、この世のドアに近づいてみてごらん。この前のように暴走しそうなら、行かなくてもいいし。」

「大丈夫かな?」

「三途の川がまた、意地悪しなければね。この前は、またあの世に戻したじゃないか。もうやらないだろう。」

  甲2が立ち上がってこの世のドアに近づいてみた。それは形だけのドアだった。

「ここはあの世だ。そのドアは開かないよ。」

  シモの言葉に勇気を出して手でそっと触れてみた。恐怖が入り込むことは無かった。

「良くやった。優等生。」

「この診察室は、三途の川に浮かんでいる船のようなものだと言っていたよな?」

「そうだよ。ここは船の上だ。」

「もしさ、このままこの世に行ったなら、ここはどう変わるんだ?屋外になるとか?」

「いや。この世に行ってもここは室内だよ。甲21の事務所もガラリと変わるが室内だし、ここはあまり変わらない。ソファーと暖炉が消えるぐらい?空間も狭くなるかな。意識さえしなければ、今と大きな差を感じることは無いだろう。君たちの暴露治療のために、その様に作ったんだよ。一度離れて、また近くに行ってみてごらん。」

  甲2がこの世のドアから離れた。そしてソファーを一周して、再びドアの前に立った。息を大きく吸ってから長く吐いた。

「やってみたら、どうって事ないね。今まで何の異常もない。」

「良かった。この前、三途の川の妨害さえなかったら、もっと早く進んでたはずなのに。」

「この次の段階は何?」

「この世にちょっと出かけて帰ってくること。けど、ドアを開けて出ていくことは無い。変わらず三途の川に停泊している船から降りはしないってことだ。」

「言わば、この世側の川岸ってことだな?」

「そうだとも。」

「今、やっても?今なら出来そうなんだけど。」

  シモが立ち上がって、甲2の所にやって来た。いっぺんに進度を飛ばすつもりはなかった。やり過ぎるより、やらない方がマシだからだ。でも、今の甲2の状態なら、もう一段階進んでも無理は無さそうだった。

「出来ないことは無いけど、何が君をこんなに変えたんだ?」

「モチベーションになったというか?あんた達が話していた、あのナ・ヨンウォン、会ってみたいんだ。」

「確かにこれ程僕たちの話題になる魂はなかったから、気にならない方がおかしいよね。」

  甲2が長い息を吐いた。その息遣いはこの上なく魅力的だったが、無味乾燥な死神であるシモには単なるため息でしかなかった。

「私が会ってみたい理由はそれとは少し違うようだ。ただ会ってみたいって。」

  シモが立ち位置を後ろにずらした。あの世のドアとこの世のドアの中間地点に並んで立った。

「いいね。じゃあ、今からこの世に移動するよ。覚悟はいいかい?」

「いいよ。」

「だけど、絶対に外には出るなよ。それはまだ無理だから。」

「わかった。行こう。」

  空間が変わり始めた。甲2の息遣いも荒くなった。シモは手を握ってやったりせず、一歩下がって見守り続けた。この世の診察室に完全に変わった。

「着いたよ。今、ここはこの世だ。」

  甲2は不安感から荒い息を立て続けに吐き出した。それでも両こぶしを握ったまま立ち続けた。彼女はずっとこの世のドアを睨み続けた。シモがやんわりと言った。

「ほら、誰も君を傷つけたりしないよ。君には何も起こらない。この世は君を傷つけることは出来ない。」

「私が今、この世に来ているのは確かなんだな?」

「そうさ。この世に来ているんだ。あのドアさえ開けたら、船から降りれるんだよ。君が今からずっと覚えていなければならないことは、ここはこの世で、しかも安全だということ。息を鎮めて。落ち着いて。ここは安全だよ。君の呼吸が楽になったら、再びあの世に帰るよ。」

  甲2の荒かった息が、次第に落ち着いていった。そして直ぐに完全に落ち着いた。

「良かった!直ぐにあの世に帰るよ。

  空間が再び変わった。今回は、とてもゆっくりあの世に戻った。甲2がシモを見つめた。成功を確かめる眼差しだった。シモが頷いて見せた。表情からは、満足感が滲み出ていた。満足感は、甲2の表情により一層、表れていた。

「この世のドアを開けてくれと言っても可能だった気がする。」

「それはこの次に。今のこの自信を無くさなければいいんだよ。甲2使者、良くやったね。大成功だ。」

  甲2がこの世のドアの見えるソファーに行こうとして、机の上の本を見つけた。

「この世の物だな。」

「僕がちょっと見てたんだ。ナ・ヨンウォンの本だよ。同時に、ナ・ヨンウォンの前世である可能性が非常に高いイ・ジョンヒの物でもある。」

  甲2が興味を持って、本を手に取った。

「予知夢か。人間たちは、こんなことを信じるのか?」

「人間たちもあまり信じていない。ただ面白いから。」

  甲2が本を再び机の上に置きながら言った。

「私が今日、成功しなかったら、これは粉々になっていたな。」

「よかったよ。僕の物じゃ無いから困るところだった。重要な物だから返さないとね。」

  甲2がソファーに座りながら言った。

「ナ・ヨンウォンの幼い時の姿を見たよ。飛行機事故の時の。」

  シモは机に寄りかかって尋ねた。

「どんなだった?」

「子供なのに罪悪感を抱きながら生きてきたんだろうな、と思った。」

「そうなんだ、罪の意識が強いんだ。必ずしも両親との関わりだけではなく、生き残った者たちの悲しみのようなもの?平凡な人間たちには、こんな罪の意識がみな内在している。その罪の意識が健全な社会を作ることもあるが、度が過ぎると魂を破壊したりする。僕を尋ねてくる患者の中にも多い。」

「罪の意識とは……、厄介な感性だな。」

「僕たちだって、すまないという気持ちは感じるじゃないか。」

「そうさ、無い訳では無い。それでも私たちが精神的な打撃を受けるほど罪の意識を感じるには、誰かを殺したぐらいじゃなきゃ難しいだろ、ははは。」

  シモも肯定しながら笑った。自殺で人生を終えてしまった自分の患者を思い出したからだ。罪の意識は、回避装置を発動させる。自分の過ちから逃げようとする気持ちだ。シモもそれで、しばらくの間は患者の前に座りたくなかった。月職にも、罪の意識は確かに存在する感情なのだ。

「次はどのように進める予定なんだ?」

「今日と同じように、復習をもう一度するつもりだ。」

「ナ・ヨンウォンにはいつ会える?一日も早く会いたくて、こうして頑張ってるんだけど。」

「ヨンウォンさん、最近締切に追われて、病院には来られないんだ。君はまだ、病院から出るのは無理だし。1ヶ月って言ってたから、あと2~3週間は無理だろう。その間に僕たちは、三途の川を渡ることに完全に慣れておかないと。

  甲2が席から立ち上がった。

「近いうちにまた来るよ。」

「1週間以上は空けたらダメだよ。」

  甲2が笑いながら頷いた。そして診察室を出て行った。シモは机の上の本を手に取った。中を広げて読もうとしたが、再びノックの音が聞こえた。センター長だった。

「どうぞ。」

  ドアが開いて、センター長が入りながら言った。

「きっかり5分だけだ。」

「10分。」

「それはまだ無理だ。」

「今し方、甲2が出て行くのを見ただろ?今日、この世に行ってきた。ほんの束の間だったけどね。」

「何だって?本当か?成功したのか?」

「だから君ももうちょい時間を作ってくれ。君が一番進まない。甲2使者の方が、君よりずっと酷かったのに。」

  センター長がこの世のドアを背にしたソファーに座りながら、決心したように言った。

「10分、いいだろう。時間を作ってみよう。

  シモが向かい側に座った。

「甲2使者がどうして急に進展したんだ?この前、ここを叩き壊したじゃないか。」

「動機づけになることがあったみたいだ。」

「何だよ、それ?俺にも効果、あるのかな?」

「最近ずっと問題になっているナ・ヨンウォン。映像でその魂を見てから、急に会いたくなったんだと。」

  センター長はナ・ヨンウォンの名前を聞くや否や、苛立たしげに美しい顔を歪めた。

「俺はナ・ヨンウォンの名前を聞くだけでうんざりなんだ。あの魂は、俺の病をもっと悪化させるようだ。」

「会ったことないよね?

「会いたくもない。拒否感しかない。」

「死神がそんなでいいのか、ははは。」

「我々使者庁が出来て以来、こんな難題は無かったじゃないか。全ての秩序を壊している。けしからん!」

「ナ・ヨンウォンは被害者だ。過ちは我々にある。」

「怒りの矛先が間違っていることは俺も分かっている。何故か無性に腹が立って、戯言を言ってみただけだ。」

  シモは彼の端正な身なりをじっくりと見た。甲1も身なりはきちんとしている。しかしそれは、周りの人たちの努力の賜物だ。それに対してセンター長の端正さは、本人のこだわりのなせる技だ。シモの目が、髪飾りに止まった。

「それ…、青銅製の髪飾りは、この世の物じゃないのか?」

「そうだ。」

「甲2使者とは違って、この世の物に対する抵抗感は無いようだね。君らしくなく。」

「この品に限っては、拒否感が無いんだ。」

「何故?」

「とうの昔から、俺の体にあった物だから。」

「買ったのか?それとも貰ったのか?」

「分からない。ただ最初からあったんだ。」

「それは違う。僕は医大に行くために、韓国史を勉強した死神だよ。その品は、人間の視点からするともの凄く古い物だが、我々からするとそれほど昔の物では無いんだ。」

  シモが詳しく見ようと、上体を起こして手を伸ばした。だが、その手をセンター長が素早く叩き払った。

「触るな!これは俺の体の一部だ。これがあるべき位置は、まさに俺の髪の上のここなんだ。」

「触らないよ。見るだけだから。」

  センター長は頷きはしなかったが、承諾した眼差しだった。シモが目だけで細かくチェックした。気持ちとして、骨董屋に持ち込んで鑑定してもらいたいが、位置が変わるのを極度に嫌うセンター長が、渡してくれるはずは無い。

「正確には、いつからこれが君の体にあったのか、本当に知らないの?」

「一千年前、突然、俺の体に現れたんだ。だから俺の体の一部なんだ。」

「やーっ!君の体に人間の作った物が、理由も無く現れるはずないだろ。おかしいと思わなきゃ。」

「おかしいと思う必要など無い。ただ俺の物なんだ。」

「どんな過程を経て君の手に入ったのかも分からない物が、おかしくないと?」

「俺が息をして、動いて、話すような当たり前の感じに過ぎない。」

  シモがへたり込むように、ソファーにドサッと座った。これには開いた口が塞がらなかった。

「本当に誰がくれたのか、あるいは君が買ったのか、全く覚えていないのか?」

「俺たちが覚えていないわけが無いじゃないか。その方がもっと有り得ないよ。」

「やーっ!このアホ、まぬけ!」

「悪口バトルなら自信あるぜ。やってみるか?」

  シモが自分の頭を抱えて俯いた。センター長の言うことも理解できた。甲3との議論を通じ、精神障害の四人組の記憶が完全では無いという仮説を立てていなければ、シモも疑わなかったかもしれない。

「この世に仕事に行って帰ってきた時、机の上にあったんだ。俺の他のかんざしと一緒に。誰かが持ってきたのかと考えもしたが、余りにも自分の物のようで、そのまま髪に挿した。この世に仕事に行く前から髪に挿していたような気がして。それだけだ。」

「やーっ!じゃあ、初めからそう言えよ。びっくりしたじゃないか。」

「でも、最初に言ったのが本当で、後から言ったことは、俺の推測に過ぎないから。」

「君のじゃない物を挿した可能性もあるじゃないか。」

「そうかもしれないが、俺の物だという考えに変わりはない。」

  シモは首を振りながら、体をソファーに持たせ掛けた。要らぬ精神の消耗だった。とにかく整理すると、この世から帰ってみると髪飾りが自分のかんざしと一緒にあって自分の物だと思い、挿し始めたということだ。ここにはまた、おかしな点があった。月職たちが自分の物のようだという不確実な予感のようなものを持てる存在なのか?いや、違う。結局は、この髪飾りがセンター長の手に入った当時、つまり一千年前のある時点の記憶が失われたと見るのが正しい。センター長の髪飾りが証拠品なのだ。記憶消失は仮説ではなく、これからは事実なのだ。一千年前という時期も事実だ。そうなると、これからは一体どの様に失われたのかを調べる必要がある。あぁ!これは難し過ぎる。センター長がすくっと立ち上がった。

「10分経った。行くよ。」

「あっ!ちょっと待った!まだ話は終わってない。まして治療は始めてもないし!」

  だがセンター長は、中央管制センターに今、帰らなければ直ぐに死んでしまうかのように、振り返りもせずにあの世のドアを出て行った。

「あいつ!僕の頭の中を引っ掻き回しておきながら帰ってしまうなんて、どうするんだよ!治療は一体、いつするんだ?」

  シモは疲れてソファーに寝転んだ。これをどこから、どうやって解いていけばいいのか暗澹としていた。

「あのまま地獄庁にいればよかったよ。こんなに頭を悩ます事になるとも知らずに……。」

  そもそも心の病を治そうと、事を起こしたのは甲3なのに、彼は死体を見るのに毎日忙しく、シモ1人に押しつけられた格好になっていた。じっくり計算してみた。一千年前なら、この世で言うと後三国時代と呼ばれる時だった。もちろん、この様に称したのは後世だったが。当時はあちこちで戦争が起こっていて、閻魔国、その中でも特に使者庁の月職たちが猛烈に忙しい時だった。

「この四人がやっていた亡者引渡しはどんなで、一体何を経験したんだ?」

  人間には記憶操作という超能力があって、記憶を自主的に消し去ることがある。月職たちには無い能力だ。そして、その消えた記憶の中に、精神障害を起こした原因があるのだろう。

「誰が、何故、どんな方法で……」

キラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラキラ

う〜ん  ややこしなってきた
今はまだ点の状態で散らばってます
これから場面や時代が
あっちこっち飛びますさかい
頑張って読んでくださいませ
ウインク

今日もおおきにさん