続き
「本当にごめんなさいね。このオッパたちまでついてきちゃって。」
お荷物に過ぎない甲1と甲3は、リビングのソファーに並んでいた座らせておいた。そして甲21は、ヨンウォンと食卓に向かい合って座った。ヨンウォンは、離れている甲1と目を合わせた。彼の目が、とても切なかった。
「私に依頼したいことって?」
ヨンウォンの目が、目の前の甲21に向けられた。
「あっ!人を探すことも可能でしょうか?」
「うちの事務所の得意技よ。」
「おい、お前の事務所は浮気した男女の写真を撮るのが得意技じゃないか。」
甲21が振り返りながら叫んだ。
「法医官オッパ!その口、ちょっと閉じててくれる?」
「オッパって呼んでらっしゃるのですね?」
「私だけそういう呼び方をするの。オッパって呼んだら、皆んな喜んでるし。人間達だけだけどね。うちの死神たちは、特に興味は無いようだけど。」
「そうです。人間の男たちは、オッパという単語にファンタジーを持っています。ふふふ。」
「誰を探したいの?私が調べたところでは、ナ・ヨンウォンに探さなければならない人脈は、無かったけど。」
「私の人脈と言うよりは、私と一緒に働くアシスタントの人脈です。」
「それを何故、ナ・ヨンウォンが依頼するのかしら?」
「私が探したいんです。」
甲3が興味深いのか、ソファーからこっそり立ち上がって食卓の方へ来ようとした。甲21が、再び叫んだ。
「お座り!そこでじっとしてて。」
甲3が、再びソファーに座った。彼から苛立たしい雰囲気が漂ってきた。甲21が、ヨンウォンに言った。
「貴女が探したいアシスタントの人脈って誰なの?」
「私のアシスタントは、ファン・ミナと言います。ずっと前に行方不明になったという、その子の叔母さんを探したいんです。名前はイ・ジョンヒ。」
「ずっと前って、いつの事?」
「正確には分かりません。少なくとも20年はとうに過ぎてると聞いています。ミナのお母様がイ・ジョンヒという方の妹なのですが、口を噤んだまま、答えを聞けなかったそうです。イ・ジョンヒの母親はずっと乖離性記憶喪失で過ごしていましたが、現在、認知症療養院にいらっしゃって、お話をお聞きするのが難しいのです。家も全部整理して、写真とかも残ったものが一つも無くて。」
「その程度の情報では調査するのは難しいかも?行方不明の時期もハッキリしていないし。」
「だめでしょうか?」
「着手金がいくらかによって、返事は変わるけど。」
甲1がソファーに座ったまま言った。
「無駄な取引はしないでやってくれ。料金は俺が払ってやろう。閻魔国貨幣で。」
「甲1オッパに吹っかけるわね。」
「そうしましょうか。」
甲1がソファーから立ち上がって、食卓の椅子に座った。甲21が睨んでも構わなかった。
「ヨンウォン!俺が関心があるのは、他の人間たちじゃない。君だけだ。」
ここでまた胸きゅんしたいけど、他の死神たちの前で堂々と話すということは、私的な感情が無いと思うので、心臓の音はしぼんでいった。甲1が続けて言った。
「なぜ行方不明になった他人の叔母さんを、君が探そうとしているんだ?」
「私は死神じゃないから、そんなたいそうな感情は分からないし。個人的な好奇心。この好奇心についても、死神の方々に相談しようと思ったんだけど…。周りに特に尋ねる人もいないし。」
甲21が愉快そうに言った。
「何でも聞いて。貴女の相談料も甲1オッパに請求すればいいから。」
「費用は私がお支払いします。これは私の個人的な事なので、敢えてカビルに支払ってもらう理由はありません。」
「言ってみて。どんな相談なの?」
「私が巫の目持ってるって言ってましたよね?」
「そうね。それは確かだわ。私が無体化の時、一緒に行ったじゃない。」
「それなら、憑依も簡単に出来るんですか?」
「巫の目を持った者たちは、大体そうだわね。」
「じゃあ、私も憑依されるみたいです。」
ソファーに座っていた甲3が、すくっと立ち上がって、食卓のそばにやって来て言った。
「そんなことは無い。お前のような強い魂に、どんな幽霊が憑依できると言うんだ。弾き飛ばすさ。」
「あ、なら変だわ……」
「何が?」
「イ・ジョンヒという方が、私にしきりに憑依してくるようなので。行方不明にまつわる悔しさを晴らして欲しいということなのかと…」
三人の死神が緊張した。甲3が甲21に言った。
「料金は俺が支払おう。これ、隈無く調査しろ!」
「いいえ!これは無料で私がやるわ。法医官オッパも協力してね。」
甲1が尋ねた。
「どんな風に憑依するんだ?」
「その方の目を通して過去を見るようなとでも言うか?あっ!この前、その方の本を1冊お借りしたんですけど、その時から…」
甲3が叫んだ。
「その本、今、どこにあるんだ!」
「私の作業室の机に。」
甲3が、作業室に行きながら聞いた。
「タイトルは?」
「《予知夢 解釈法》」
「お前の机は?」
「1番奥。」
甲3が、本を探して持ってきた。
「これか?」
「はい、そうです。」
「この本のせいで、憑依されたみたいだって?」
「必ずしもそうと言うよりは、キッカケになったと思います。私が見る悪夢をその本で探したら、イ・ジョンヒという方も、同じ部分にチェックしていたんです。私と本当に似たパターンの夢を見たようです。そういう部分のせいで、簡単に憑依されたんじゃないかと思います。憑依も、似たような周波数が無いとだめだと聞いて。」
甲1が聞いた。
「他に何か情報は?」
「行方不明になるまで住んでいた家を知っています。今日、行ってきました。略図もキャプチャーして、社長さんのスマホにお送りします。」
甲1が、再び聞いた。
「家に行った感想は?」
「私が住んでいた家のようだったと言えば、変に聞こえますか?」
甲1が絶望しながら言った。
「いや、十分だ。」
甲21が立ち上がった。
「法医官オッパ。今すぐ、私の事務所へ!」
ヨンウォンも続いて立ち上がりながら聞いた。
「私の悩みについての答えは?」
甲3が代わりに答えてくれた。
「むしろ、憑依であることを祈ってろ。その方が解決しやすい。そして、出来るだけ早いうちに、精神科の診察を予約しておけ。あいつには、俺が先に話しておくから。そこへ行く時、この本も必ず持っていくように。」
そう言いながら、本を食卓に置いた。甲21が近寄って来て、ヨンウォンをギュッと抱きしめた。そして、ささやいた。
「ナ・ヨンウォン、あなた、本当によく耐えたわ。エラいわ。」
甲3が、ヨンウォンの肩を軽く叩いて言った。
「これは俺たちの過ちだ。すまない。これからは俺たちが、お前を絶対に見失わないようにするから。」
なんの根拠もない言葉だったが、訳の分からない安堵感が頭から降ってきて、つま先まで降りていった。甲21がヨンウォンを、懐から離した。甲3が食卓で頭を抱えたまま、甲1に言った。
「今となっては、20年〜30年ほどの間で行方不明になった事を願うしかない。もし、33年余り前に発生した事であれば、本当に頭が痛い。」
「甲1オッパは、私たちと一緒に行かないの?」
「先に行ってくれ。俺は後から行くよ。」
「なんで甲1オッパにこれ以上いたわりが必要なのかしら?わかったわ。」
甲3と甲21が同時に消えた。甲1は依然として頭を抱えていた。
「カビル、何か良くない事なの?」
「略図から送ってくれ。そっちの方が、もっと急ぐから。」
ヨンウォンは甲1の顔色を伺いながら、スマホで地図を探した。そして、今日行ってきた場所を何枚かキャプチャーして送った。甲21から『オッケー』というメッセージがすぐに届いた。ヨンウォンが慎重に言った。
「もしかして、私のような人間が憑依されたら、カビルが懲戒を受けるの?余りにも深刻そうに見えて、声もかけられないわ。」
「いっそ俺が苦しむのなら……。今日の外出は、大丈夫だったのか?俺がいなくて。」
「うん。大丈夫だった。地下鉄だけの移動だったし、アシスタントと一緒だったから。一人で何事も無く行ってこそ、恐怖に勝つことができるんだけど、今日みたいな外出は意味無いわ。それでも地下鉄は、もう怖くないみたい。次は一人でまた挑戦してみようと思って。」
甲1が顔を上げて、ヨンウォンを見た。彼の手がヨンウォンの頭を撫でた。以前にヨンウォンが撫でてくれた時、気分が良かったからだ。
「人間たちは慰めてあげる時、どうやるんだ?」
「今のように、こうやって。私もカビルを慰めてあげようか?」
「いや、俺がしてやる。」
「私は慰められる事がないんだけど?今、慰めを必要としているのはあなたみたい。」
「君を慰めることが、俺を慰めることなんだ。」
「うふふ、私がカビルの無意識なの?」
「……心だ。」
「心……、これはとても大きな慰めだわ。」
ヨンウォンの目から涙がこぼれた。
「なぜ泣くんだ?」
「人間は、心に慰めが宿れば涙を流すの。」
甲1は、自分の言葉によって慰めてあげられたとは思えず、ヨンウォンの頭をさらに優しく撫でた。繰り返し、繰り返し。
ストーカー 怖ぇ〜よぉ
あの連続殺人鬼なんか?
ヨンウォン 奴に何回も殺されてるんか?
謎と恐怖が深まる中
カビルの大きな愛が溢れて止まりませんがな
絶対やっつけてくれ
死神チームも頼りになるし
今後の展開が楽しみです
今日もおおきにさんです