ヨロブン
アンニョンどす
デレデレ

待ってはらへんかったもしれへんけど
お待たせ〜
ピンクハート

サボってたんとちごて
ここにきて お話にどハマりして
先々 読んでましてん
ますますファンタジーサスペンス系に
なってきましたわさ

紅天機とちょっと重なる感じ?
こういう系が苦手な人はアレやけど
お好きな方は ここからどんどん面白なりまっせ
ほな どうぞ

ピンクマカロンマカロンピンクマカロンマカロンピンクマカロンマカロンピンクマカロンマカロン

ヨンウォンの使者たち

第  五  章  輪廻の呪い

第  二  節

   ヨンウォンは人影まばらな隅っこを向いて座り、頭を抱えた。後ろを通り過ぎるカップルが、ヒソヒソとささやいた。熱気球に一緒に乗っていたカップルだった。

「あの女、本当に知らないのよね?」

「初めて見る女なんだってば。」

「ちょっと頭がおかしいみたいね。一人でここに来てることも変だし、誰彼構わず睨んで、妙なことを言って。」

   頭がおかしい……。返す言葉がなかった。精神障害があることを証明出来る精神医学専門医まで、前に立ってるというのに。たとえ無体化であったとしても。

「はぁ、恥ずかしい!」

「こうなった以上、俺たちはもう、有体化して…」

   そっと切り出す甲3の言葉を、ヨンウォンがピシャリと止めた。

「やらかしたんですよ!絶対、その状態でいて下さい。」

「俺は甲1使者とは違い、この世で有体化して暮らしている。あえてこうする必要は無いんだ。」

「そうですよ。なぜ、敢えて無体化で尾行したんですか?そうする必要も無いのに。」

「俺は初めから言ってたんだ。姿を現して一緒に行こうって。俺の意見を黙殺したのは精神科だ。密かに尾行されると腹立つよな。よく分かるよ。それは済まないことをした。」

   ヨンウォンは、デートを邪魔されて怒ったのだった。そして自分が甲1に送った数多くの愛情表現を、彼らが見ていたかと思うと、顔を上げることが出来なかった。裸になった感じだった。シモが言った。

「ヨンウォンさん、僕はヨンウォンさんの担当医師だ。事故後も諦めずに暴露治療を続けるという話を聞いて、知らないふりをする訳にもいかないでしょう。しかも、助っ人チャンスまで使うというのに。」

   ヨンウォンが顔を上げて、シモを見た。

「暴露治療?その話を誰がしたんですか?」

   甲1が言った。

「俺が言った。」

「私が暴露治療の話をしたことあったっけ?」

「いや。俺は精神科を通して知った。君が障害を治すために、俺を利用するってことを。」

「利用したんじゃないわ…」

   甲3が言った。

「わかってる。利用するって言うのは、聞こえが良くないよな。俺たちは、努力するお前を健気に思ってるんだ。」

   ヨンウォンは、彼らのハチャメチャな話を、頭の中で整理してみた。ヨンウォンは、甲1をデートに誘った。甲1は、これを単なる外出だと思って、シモに話した。シモは、これを暴露治療だと理解して、その話を甲1にした。そして、彼らは暴露治療を助けるために、一緒に尾行した。こういう流れなのか?それなら、この法医官使者は?頭に着けているカチューシャが見えた。彼は、単に遊びに来たということで片付けた。

   ここで暴露治療じゃなく、デートに誘ったんだって言ったらどうなるのかしら?ヨンウォンは恥をかいて、甲1は困ってしまうのか?ヨンウォンは、今日の甲1の態度が理解できた。初めて会った時のクールさはひとつも無く、一際心配して優しくしてくれたのは、精神障害に同情したからだったの?人類に対する慈愛心がとても素晴らしい死神に違いなかった。ここで心を痛めてはいけない。癪にさわってもいけない。片思いをすると心に決めたのも、その感情を一人で抱えると心に決めたのも、全部自分だった。それに対する責任は、自ら負うべきだ。甲3が言った。

「4段階め、バスに乗れて良かったな。次に一人で挑戦することも大事だが、こんなに人の多い所で挑戦したことこそ、褒められて然るべきだ。」

「あっ!バス…」

   そう言えば、4段階めはバスに乗ることだった。なのに、全く意識していなかった。側にいる甲1にすごくトキメいて、バスに乗ったという感じもなく、ここまで来た。これは、褒められるべき成功では無いわけだ。

「バスに乗ることは、また今度、挑戦してみます。今日のこれは違います。」

   そして甲1を見つめながら、切なく言った。

「利用したんじゃないわ。本当に違うの。」

「俺は気にしていない。君の役に立ったんなら。

   優しく聞こえた彼の言葉が、今は事務的に聞こえた。

『バカみたいに一人だけ浮かれて。人類の中で、一人だけ特別だと勘違いして。主旨を把握しなさい、ナ・ヨンウォン。ただでさえ患っている精神障害が多いのに、ここに誇大妄想症まで加えるっての?』

   甲3が言った。

「俺はもう、有体化したいんだけど。

   ヨンウォンが、甲3を睨みながら言った。

「法医官様は、自分がどう見えるのか、ご存知ないのですか?」

「カッコいいだろ。それも、すんごく。人間どもが一様に口を揃えて言うんだぜ。」

「道を歩く時、皆んなが見つめるのを感じますよね?」

「見つめられないのを感じたことがない。」

「ところで、隣の院長先生と並んで歩いたことはありますか?」

「ない。」

「歩かない方がいいですよ。これからも、今も。」

「今も?」

「ええ。私は、人の視線を浴びるのが怖い人間なんです。ご存知のように、精神障害があるので。」

   ヨンウォンは甲1を見ながら、指まで立てて強調した。

「あなたは特に、有体化しちゃダメ!この二人以上にダメです!」

   甲3が、突然財布を取り出して、その中のクレジットカードを見せながら言った。

「俺だけでも、有体化させてくれよ。飯、おごるから。」

   ヨンウォンも、財布からクレジットカードを取り出し、振りかざした。

「私も三人に1食くらい奢れるほどは稼いでいます。有体化は絶対、ダメです!」

   ここで甲3だけ有体化したなら、成り行きで甲3とデートすることになる。それは避けたかった。いくら一人だけの妄想だとしても、デートの相手は甲1であって欲しかった。甲3が、再び財布をしまいながら言った。

「タダ飯に食いつかない人間がいるとは。チッ。」

「そんなに有体化したいのなら、お二人だけで行動されたらいいのに。私たちは別で。」

「俺はお前のために貴重な時間を作ったんだ。たかがこんな精神科と遊ぶために来たんじゃない。」

   そうだ。考えてみれば三人の死神全員、ヨンウォンのために貴重な時間を割いて来てくれたのだ。彼女の精神障害の治療の役に立とうと。もちろん、究極的にはこの世忌避症の三人のためだが、ヨンウォンは知らなかった。

「御礼が遅くなりました。来ていただいて、本当にありがとうございます。本当に私が食事を奢ります。そう言えば、お昼ご飯、遅くなりましたね。

「無体化状態では食べられない。」

「あっ……、じゃあ……」


********


   ピンポーン。

   玄関のドアを開けた。配達人が、ピザ三箱とサイドメニューをどっさり手渡した。ヨンウォンが玄関ドアを閉めるやいなや、ピザの箱が宙に浮いた。甲3が浮かべたのだ。箱は食卓の上に置かれた。改めて見ても、不思議な場面だった。結局、ヨンウォンを初めとして三人の男は、一緒にここ、ヨンウォンの家でピザを頼んで食べることになった。いくら悩んでみても、有体化するのと食事を同時に満たすことが出来るのは、この方法が最善だった。厳密に言うと、食事が必要なのは、ヨンウォンだけだった。ところが、味を楽しむのは彼らとて同じだと言うのだから仕方ない。望んでいた訳では無いが、お世話になったのは事実なのだから、もてなすのが道理ではないか。帰りは甲1の力を借りたおかげで、道中の時間の無駄は省けた。

   甲3とシモはコートを脱ぎ、ソファーに放り投げて、食卓の椅子に座った。靴も脱いで玄関に置いた。自由に見えた。一方、甲1は、靴もコートも脱がなかった。

「あなたは相変わらず脱げないの?」

「俺は、この世に出てきているコイツらとは違うから。」

   甲3が、ピザを1切れ持ちながら言った。

「甲1使者は、この世で服を少しでも傷つけたり脱いだりしてはダメなんだ。大変なことになる。」

「えっ?冗談でしょ?」

「こんな事、冗談で言う理由があるのか?」

   甲3は、あの世が大変なことになるという意味で言ったのに、ヨンウォンは、甲1が大変なことになると受けとった。主語と目的語を省略した弊害だった。

「カビルは下っ端だとは知ってたけど、弱いの?」

   甲3が聞き返した。

「誰が下っ端で、誰が弱いって?」

   ヨンウォンが甲1を見た。けれど、三人とも何の訂正もせず、ピザを食べた。その必要性を感じなかったからだ。甲1は、シモと甲3が手でつまんで食べているのを見て、怪訝な表情をした。でも直ぐに、彼の視線はヨンウォンに向かった。

「君も食べろ。君の方が急だ。」

   ヨンウォンは、食卓のそばに立っていた。テーブルには椅子が三つしか無かったので、彼女の座る場所が足りなかった。ところが急に、椅子が一つ現れた。作業室で使っている机の椅子が、ここに移されたのだ。甲1が甲3に言った。

「お前は食べなくても、命に関わりは無いじゃないか。なのにヨンウォンの分まで食べてしまってどうするんだ!」

「これは1切れだけでもカロリーが凄いんだ。女たちは1切れ食べただけで、いつもお腹がいっぱいって言うのに。」

   ヨンウォンが笑いながら言った。

「それは、法医官様の前で猫をかぶってるからそう言ったんですよ。どんな女でも、1切れだけじゃ足りません。少なくとも、ミディアムなら1枚、ラージなら1枚の半分は食べるわ。」

「えっ?俺、また騙されたのか?」

「もちろん、脂肪に変わる運命に絶望するのは別問題ですけど。」

「俺は150年を人間たちの中で生きてきたが、嘘は相変わらず難しい。毎度騙されて。悪い嘘は区別が簡単なんだが。でも何で、少しだけ食べてお腹がいっぱいなんて嘘をつくんだ?」

   ヨンウォンが椅子に座りながら言った。

「昔は、食べ物が不足してたじゃないですか。なので、少食で仕事が出来ることが暮らしの役に立ったんです。好きな男に『歳の割に、燃費がいいのよ。私を連れて行って』というアピールになりました。しかし最近は変わりました。よく食べる事をアピールする時代ですよ。沢山食べてもスリムを維持出来るのは、それだけ基礎代謝が良いということであり、それは自己管理が上手で、尚且つ若いということになるんです。」

「はぁ!人間たちは複雑だ。」

「複雑じゃないですよ。将来の人生の利益になる行動をしてるだけですから。」

   ヨンウォンが食べ始めると、甲1もひと口食べた。彼の目が、ぱぁっと開いた。初めて食べる食べ物だった。ところがこれは、予想外の美味しさだった。

「この世には、色んな食べ物があるんだな。この前のチキンも、味見をすれば良かった。」

「味見もさせてくれなかったの?酷いわ。」

   お使いまでさせられて、1切れも食べられなかったなんて酷いわ。たとえヨンウォンに直ぐ会いに来て、食べる暇がなかったとしても、お使いしてくれたことに誠意を見せて、1切れくらいは残してくれるべきじゃないの?ヨンウォンは、甲1がとても可哀想に思えた。力が弱くて下っ端の立場から抜け出せず、あらゆる使い走りにされ、食べ物も奪われながら生きていくのだから。あの世という所も、力が無い人が暮らすには、この世と大して変わらないという気がした。

「私のカビルは、外見だけオーラが溢れているのね。

   突然、甲1のあの世の電話が鳴った。センター長からだった。

「どうしたんだ?」

 ┈ 直ぐに戻って来い。緊急だ。甲21使者が負傷した。今は大丈夫だが、それに関わる非常呼び出しだ。

「わかった。直ぐに帰る。」

   甲1が食べ掛けを置いて、立ち上がった。ヨンウォンも続いて立った。

「行かないといけないの?」

「そうだ。また来るから。」

   甲1が急に消えた。ヨンウォンは、食べかけのピザを見た。いくら急ぎであっても、これくらい食べる時間も無いというの?ところで次は、いつまた来るの?ヨンウォンは、再び椅子に座ってピザを食べた。急に不味く感じた。甲3が聞いた。

「ナ・ヨンウォンは、今夜の予定はどうなってる?」

「何の予定もありません。」

   当然、空けてあった。ところが必要なくなった。

「俺も今日は、何も無い。精神科はどうだ?」

「僕も特に何も無い。何で?」

「今日、睡眠検査をしてみないか?俺たち三人とも、時間が大丈夫なら。」

   ヨンウォンが呆気にとられて言った。

「ちょっと待ってください。院長先生はいいとしても、法医官様はどうしてですか?私は生きてる生体ですが?」

   シモが代わりに言った。

「こいつ、法医官である以前に、精神外科専門医なんだ。その中でも脳神経。漢方医学も学んだことがあるらしい。色々役に立つだろう。」

   ヨンウォンは、ようやく初めて会った時の、あの奇妙な状況と、今日、彼が一緒に歩き回ったことが理解できた。

「死神たちが、なぜこの世で医者として居るのか、本当に理解できないわ。」

「この世で医者として居るのではなく、この世で医学を勉強中なんだ。今でもずっと。」

「どうしてですか?」

「そこまで知る必要は無い。今日、いいのか、ダメなのか?」

   少し考えていたヨンウォンが、頷いた。どうせ空いた時間なんだから。


********


  甲21を筆頭に、甲1と庁長、甲2までぞろぞろと、暗黒の牢獄のある層に到着した。真っ暗だったが、甲21と甲2が地獄の火を一度に集めてきてくれたおかげで、物事を判別するのに問題はなかった。しかし、いくら壁を手探りで叩いてみても、この前あった鉄の扉を見つけることは出来なかった。甲2が聞いた。

「どういう事なのか、前もって説明してくれる?」

「説明より直接見てもらった方がいいと思って連れて来たのに、なぜ無いの?言葉では上手く説明出来ないわ。あぁ、おかしくなりそうよ。」

   甲1は、ヨンウォンと一緒にいたところを呼び出されたので、本当に大層な事じゃないと、腹の虫がおさまりそうになかった。

「こっちの壁に、ここよりもっと地下に降りる鉄の扉があったのよ。なのにその扉が、今は跡形もなく消えてしまって。」

「地下?」

「不思議な所だった。人間の記憶箱は、いくら大きくても縦横1mくらいじゃない。ところが地下に、もの凄く大きな記憶箱があったのよ。あまりに暗すぎて、区分は出来なかったけど。」

   甲21が、甲1を見つめながら、話を続けた。

「ところが、その中にあったのは、蝶だったの。」

   庁長と甲2まで、甲1を見つめた。しかし甲1は理解出来ないという表情だった。

「蝶だったと?俺?」

「知らないの?甲1オッパが取り出したんじゃないの?」

   甲1が首を横に振った。

「俺が取りだしたのなら、覚えてないわけが無い。もしそうしたとしても、どうして誰も知らない所に隠しておくんだ?」

「蝶だったのよ!確かに!」

「俺は本当に知らない。俺はそんな巨大な物を取り出したことがない。」

「それは…、それは…、私の推測に過ぎないけれど、人間のものではなかったのかも。人間の記憶がそんなに大きいはずないもの。だから直接見てもらおうと……」

   庁長と甲2が切羽詰まって、壁を手当り次第探り出した。これは明らかに、もの凄い事だ。直接見なければならないという焦りが出てきた。だが広い暗黒の牢獄を、いくら隈無く探しても、鉄の扉は見当たらなかった。甲21は、呆然とした。

「摩訶不思議なこともあるもんだわ。最近死んだ腕のいい巫女はいないかしら?私たち一度、厄払いしてもらわなきゃ。ずっと変な事ばかり起きてるわ、クソったれ。」

   甲21がもう一度、じっくり考えてみた。すると、職員たちの目撃談との違いを思い出した。

「あっ!最初に発見した職員たちは、5歩ぐらいって言ってたわ。でも私は、それよりずっと歩いてから扉を発見したの。職員たちの勘違いだと思ってたんだけど、それも正しいのなら…」

「動く扉だな。」

   ということは、次にいつまたこの扉を見つけられるか保証できないということで。恐らくその特徴ゆえに、これまで発見されなかったのだろう。他の月職たちがもどかしさを堪えきれず、再び甲1を見つめた。

「俺は本当に知らないんだ。お前たちが今、俺以上に呆れることはないだろ。」

「ひとまず退却して、毎日覗いてみることにしましょう。いつかは回ってくるでしょうよ。」

   頷いたが、四人ともその場から足が離れなかった。地面の奥深くから、何かが彼らの足を掴んでぶら下がっているような感じだった。


********

其ノ二に続く