続きです

   電話は切れた。使者庁の月職の中で、戦闘組に当たる前の番号の五人は、年職とも匹敵する。だから、決して敬語は使わない。甲3がスマホを返しながら言った。

「お前がたとえ地獄庁の所属だとしても、我々使者庁の事を、議政府に事ある毎に報告するのは控えてもらいたい。特に甲1使者のことは。」

ほんの一瞬だが、甲3から強圧的な雰囲気が現れた。それは実に重みがあった。

「何でだ?」

「彼らの干渉が不愉快だ。監視のようで。肝心の甲1使者は別段気にしてないようだが。それに、我が使者庁は独立した自治地区なんだからさ。」

「そうだな。そう言えば、甲1使者に対する言質があるにはあった。

「どんな?」

「大した事じゃないけど留学する前から、甲1使者をよく気にしておけ、もし異常があったら報告しろ、ずっとそうしてきたよ。僕は、過保護とばかり思っていた。まあ、使者庁内でも過保護だろ?」

「うちは過保護、議政府は監視。そこんところ区別しろよ。」

「本当に監視だと思うのか?」

   甲3がこくりと頷いた。最近特に、その考えが強くなった。理由はまだ分からない。ただ気のせいかもしれない。この世に出てくる月職の数が増え、議政府の方が敏感になっているのかもしれない。

「雷帝の光があまりに強かった。頭の中がひっきりなしにおかしくなって…」

「苦しいなら、あの世に行こうか?」

「いや!もう少しこうやっているよ。あの世に行ったら今、この複雑な頭がスッキリしてしまいそうな気がする。この、乱れた感じが気に入ってるんだ。」

   シモが甲3を置いて机の所に戻り、椅子に座った。そして悩んだ末にやっと口を開いた。

「ところでなんだが、ひとつ聞いてもいいか?」

「何を?」

「僕も最近になっておかしいと思い始めたんだけど…」

   月職は通常、一つの番号を二人の使者で共有して使っている。番号が後ろになるほど、三人で共有する場合も多い。後ろの番号になればなるほど能力や体力が劣るので、その分、頻繁にローテーションをしてやらなければならないからだ。甲3の番号を例に挙げれば、この世で法医官をしている甲3使者と、現在、使者庁で勤務している現甲3使者が共存している。甲2も臨時庁長の甲2使者と、火の鳥を象徴とする甲2使者が共存している。今は不本意ながら二人とも休息期であるため、甲2番は空いていることになる。もちろん象徴はそれぞれ違う。違わなければならない。彼らを区別するのは番号ではなく象徴であるからだ。

「何がおかしいんだ?」

「甲1使者は、なぜ一人なの?」

「どういう意味だ?」

「番号一つを一人だけで使っているのは、甲1だけじゃないか。何で?」

「おかしいとも言えない。甲1使者と番号を共有する程の実力が無いからさ。」

「単にそれだけ?」

「当たり前だろ。作為的につけた番号じゃないんだから。」

   甲1の実力は確かに抜きん出ていた。後ろの方の番号は三人も共有している。中程は二人、一番先頭はグラフ上、一人でも理にかなっている。

   同じ番号を共有してるとしても、甲1、甲2、甲3、庁長、センター長、この五人は他の月職達と区別がつく。彼らはいずれも戦闘に特化した能力を持っていた。同じ番号でもその部分は能力の差があった。ところがこのうちの四人が精神に問題が発生したわけだ。

「甲3使者、君は千年前はどこで何をしていたの?」

「この世で放浪中だった。休息期だったからね。俺は休息期はいつもこの世で過ごすから。あちこち駆けずり回る星回りのようだ。」

「四柱の無い死神のくせに、星回りだなんて、クックック。いつあの世に復帰したんだ?」

「900年前。でも、あの時ちょっと変だった。ヤツらが変わってたんだ。使者庁も変わってたし。」

「どう変わってたんだ?」

「さあね、上手く説明は出来ない。それ以前は、もっと自由奔放だったというか?大きな違いは無かったんだが、何か行動の制約が多くなった感じ?以前は制約なく自立に任せていた感があったから。俺たちは問題を起こすタイプじゃないし。使者庁は、問題が発生してから禁止法規を作る方式だから。最近、禁則が沢山できたように思うが、正直、電算システムが整備されてから、その前に後回しにしていた禁則がいっぺんに始まったせいでそう見えるだけなのか。」

   この世の法も現代になるにつれ、どんどん細分化されたように、彼らの体系を学んで取り込む閻魔国も、近年になってあれこれ禁止法規が作られたとみても差し支えなかった。昔はとても単純な禁則だけあって、これさえもほとんど無かった。

「君が元凶だとは思わないのか?」

   甲3が肩をすぼめてみせた。

「まあ、違うとは言えないが。安全服の問題もそうだし。敢えてこの世で脱げないようにする理由は無い。特に俺たち月職は。破損ならいざ知らず、脱衣まで非常センサーが作動するのは行き過ぎた禁則ではないのか?」

   安全のためだとしても過度な制約だという考えにシモもうなずいた。

「君たち五人は他の月職たちと比べて、繋がりが濃いと言ってただろ?雷帝が深めてくれた面があると。」

「業務上、重なることが多いから。」

「と言うことは、この世に出て来ていた、つまり、群れから離れていた君を除いた四人全員が、何らかの事件に巻き込まれたという仮説を立てても、こじつけではないよね?」

「四人?三人ではなく?」

「甲1使者にも異認証障害の疑いがある症状が見つかった。診断を下せるほど確実ではないけど。何か接点がありそうで。」

   今回は甲3も笑わなかった。可能性が大きかった。シモが続けて言った。

「この四人に何かの事件が発生したという仮説は、我々の記憶も完全ではないという仮説の上に立てられたものだ。」

「仮説の上の仮説とはね。そりゃ、ホラ吹きになる確率が高そうだな。ははは。」

「なので実は自信が無い。我々の記憶が完全ではないなんて、ははは。」

   甲3が腕も伸ばしてシモの肩を掴んだ。

「お前の仮説に俺も一票やりたいが、どうだ?」

「他の奴らならともかく、策のない君の票までもらうとなると不安になるよ。」

「一緒に不安になってやるよ。その仮説、撤回するなよ。」

   甲3の顔がシモにぐっと近づいた。彼がささやいた。

「地獄庁の使者を引き込んだ俺の作戦が功を奏した。我が使者庁は皆、力が強いだけで単純無知だから、そういった仮説を作り出せないんだよな。」

「じゃあ、あの時の手術室事件は君の作戦だったのか?」

「いや、あれは本当の事故だ。法医官としてでもこの世に残ったのが俺の作戦。そして、俺のピンチヒッターとして地獄庁の使者を要請したのも俺の作戦。」

「意外と知能派だったのか?」

「本当に知能派だったら、とうの昔に俺一人で解決していたさ。」

「本当に長い間、この世で孤軍奮闘していたんだな。」

   結核は肉体の病に過ぎないという事を知った甲3は、新しく開設された精神科で再び勉強し始めた。85年余り前のことだった。彼が入った所はㅅ大学(ソウル大?)病院だった。ところがまた問題が発生した。その当時、精神医学はㅅ大学病院とㄱ大学(高麗大?)病院の二派に分かれていた。ところが国家施策だとしてㅅ大学病院の精神科を閉鎖して、ㄱ大学病院の精神治療形態のみを認めることになったのだ。甲3は、突然行き場を失った。

   だからといって直ぐ、ㄱ大学病院に移ることは出来なかった。大学は違っても狭い人間関係だったから、新しい身分で新たに始めることは出来なかった。新しい身分を作ることは出来ても、新しい顔を作る能力は無かった。やむを得ず、人間の記憶から忘れ去られるまで数年待つことにした。

   新しい身分で再びこの世に下りた時は、植民地時代が終わっていた。しかし、以前とは異なる朝鮮医療令が施行されていた。新しい資格証が必要になったのだ。偽の資格証を作るのは難しくなかった。だが、甲3がしばらくこの世を留守にしていた間に、医学は飛躍的な進歩を遂げていた。第二次世界大戦の影響だった。人間の短い時間の間に為された発展だったが、甲3は追いつけなかった。それでまた、大学から始めることにした。大学を終える前にまた再び、この地に大戦争が勃発した。使者庁の緊急要請により、甲3は死神に戻った。その後、再びやって来たこの世では、また法律が変わり、国民医療法が施行されていた。しかも、住民登録法も施行された。交通の発達により、地域と身分を偽ることも容易ではなくなった。この世に留まるのがかなり複雑になっていたのだった。あれこれ問題を全て解決した後、彼を待っていたのは文字通り、入試との戦いだった。

「これまでの俺の苦労が水の泡とならない為には、お前が重要なんだ。」

   シモは、彼の努力が改めて素晴らしいと感じた。もちろん彼らの150年は、人間の時間と違って短かった。だからといって、取るに足らない時間では無かった。人間達にとって、一分一秒が大切なように。

「サンプル1、いや、ナ・ヨンウォンが言ってた。顔にウンコでも塗って歩けと。君と僕らだ。」

   甲3が体を起こして、シモから離れた。

「えっ?どういう意味だ?あの女も変だ。」

「その変な女の睡眠検査をするんだけど、君のスケジュールも合わせたいんだ。」

「俺は外してくれ。本当に忙しいんだ。」

「君が一票を投じてくれたあの仮説、ヨンウォンさんのお陰でもあるんだ。だから、手伝ってくれ。僕たちに役立つものがまた出てくるかもしれないし。」

「相談事があったら、電話するってことで。」

「この世のことに余り首を突っ込むな。だからいつも忙しいんだ。」

   シモのあの世の電話が鳴った。センター長からだった。

「とっとと電話しろよ。議政府の方が早くてどうするよ。」

 ┈ そのうっとおしい両班達に捕まって、こんな時間になってしまったんだ。そこがそんなに容易く雷帝に破られたのか? ┈ 

「我々の方に越えて来てはいない。」

 ┈ 越えて来たなら、お前は今、話も出来ない状態だっただろう。しばらく雷帝を見なくて済んでいたのに、チッ。ムカつく! ┈ 

   甲3が声を出さずに口で、議政府と何を話したのか聞いてみるように指示した。シモが彼の合図を受けて言った。

「三政丞とそんなに長く、どんな話をしたんだ?」

 ┈ 犬くぐりをもう1箇所開ける問題。俺たちの好きにしろって。甲1使者がこの世に出て行かなくなれば、更にいいんじゃないかって言ってたよ。 ┈ 

   こっちは雷帝には酷い目に合わされてたのに、お気楽にそんな話をしてたのかと問い詰めたかったが我慢した。雷帝が初めに公約した通り、会話だけして帰ったのは事実だった。問題視するには微妙なところだった。

「三政丞が、月職ではなく、甲1使者がこの世に出ていかなければいいと言ったのか?

 ┈ そうだ。それはそうじゃないのか? ┈ 

「うん。それはそうだ。じゃ、そろそろあの世に行くよ。」

   シモが電話を切って甲3に言った。

「君の言う通り、ノイローゼかもしれない。仮説を一度間違って立ててから、おかしな事が一つや二つじゃないんだな?」

   甲1を保護するという側面では、使者庁の誰もが、議政府の誰もが皆、同じ気持ちなのかもしれない。現在、使者庁における甲1の重要度は、容易に予測出来るものではなかった。

   甲3が言った。

「そう言えば、センター長も長い髪だな。昔も今も。」

   センター長と同様に、庁長も長い髪だった。でも、長い髪が煩わしいと編んでいたが、近代になって、彼らの中で一番最初に短髪にした。以前は切りたくても彼らの堅牢な髪を切る技術が無かった。

「センター長は、雷帝が言う守門将に値するのか?」

「もしか…したら?あいつは巨大な偃月刀を使うから、見た目の脅威が半端ないんだ。俺らが戦闘服だけで絡まったら区別できないが。」

   雷帝の投げた石はかなり大きかった。それは甲3とシモの頭の中に波紋を起こし続けた。二人で交した会話もそうだった。全ての会話が次から次へと回り続けた。

「とにかく、雷帝がよろしく伝えろという言葉、一体誰にすればいいんだ?」


本命チョコ本命チョコ本命チョコ本命チョコ本命チョコ本命チョコ

え〜ん
後半 ちんぷんかんぷんで
グダグダになっちまいました
えーん

許してちょんまげ

ヨンウォンとカビルはひょっとして
いや 確実に
アレは未経験ですよね
酔っ払いデレデレ

さて いつになったら進展するのかな

今日も読んでくださって
ありがとうございました

ラブラブ