最近ね ジムに行ってますのよ
オバハンやけど
真顔

入会する時
日中は主婦がほとんどですって言ってたやん
けど
いつ行っても ええ身体した大学生ばっかり
滝汗

ムキムキの男子とシュッとした女子
オバハン わてだけ
ごめんやっしゃ
隅の方で迷惑にならんようにしてんねんけど
辛いなぁ
笑い泣き

くだらないオバハンの独り言

チョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコ

ヨンウォンの使者たち

第  四  章  閻魔国の守門将

第  四  節

   開いた箱の中に、色んなヤンニョムで和えたチキンが入っていた。そのチキンを囲んで、12人の甲1チームの使者たちがいた。そして彼らを更に、真っ黒な使者たちがぎっしりと取り囲んでいた。誰の視線も全て、チキンに集まっていた。

   通常、他のチームの月職らが持ち帰って来てくれるこの世の食べ物といったら、スーパーで買ってきたお菓子がせいぜいだった。ちょっと小洒落た食べ物と言えば、たい焼き、ホットク、キンパ、天ぷら、スンデぐらいだった。昔は鶏の丸焼きもあった。それだけで使者庁がもてはやされるほど、人気があった。ところが今、目の前に広がるのは何と、最新バージョンのヤンニョムチキンだった。この世の教育用として、視聴覚室のTV画面だけで見たことはあるものだった。今までこれを買ってきた月職がいなかったのは、彼らのセンスが新製品のヤンニョムチキンにまでは及ばなかったからだ。

   甲1チームの使者たちが、1切れずつ手に取った。そしてほぼ同時に、口いっぱい頬張った。誰も話をする者はいなかった。カリッとしているのにジューシーで、しょっぱいけれど甘く、それはもう只々感動のみである。辛口の中にも多様な味がした。そのどんな味付けも、不味いものなどなかった。しかもチーズボールまで、天地開闢(てんちかいびゃく…世界の始まりの意)の味だった。ナトリウムがストレスと無関係だったら、涙が溢れ出たかもしれない。ところがここで、大きな問題があった。集まって来た使者たちが多過ぎて、皆に1切れずつは行き渡らなかったのだ。困難な状況と言わざるを得なかった。

   ヨンウォンが注文してくれたチキンは、甲1の頼みでシモがここまで持ってきてくれたものだった。彼は任務を果たし、庁長室にいた。甲2と庁長も一緒だった。ところが庁長室まで、外の騒ぎが伝わってきた。程なく庁長室に入ってきたのは、他のチームの月職たちだった。

「甲1チームのあれ、どこで買ってきたんだ?」

   甲1ではなく、ヨンウォンが注文してやったんだろうと推測したシモが、取るに足らないという口ぶりで言った。

「多分、スマホで注文したんだろ?近頃は皆んなそうするから。」

「ちゃんと教えてくれ!うちのチームの子達のために、急いでるんだから!」

   鬱病で気力が尽きていた庁長が聞いた。

「いったい、この世から何を持ってきたんだ?」

「ただのチキンなんだけど?」

   月職が叫んだ。

「ただのチキンじゃない。何か変わった味付けになっているんだ。」

   そう言いながら、ビニール袋の中にチキンと一緒に入っていたメニューのチラシを見せた。それを見た庁長が、憤然として立ち上がった。

「何だと!このチキンがここで食べられるのか?」

   彼の目が、ギラギラしていた。さっきまで、鬱病が酷いとグズグズ言っいたのが信じられないほど、強烈な眼差しだった。庁長の眼差しと共に、月職らの眼差しまでシモを取り囲み圧迫した。これに身動き出来なくなったシモが、振り絞るように言った。

「ちゅ、注文してやるよ。この世の病院に戻って…」

   シモが月職らに囲まれ、引っ張られるように庁長室を出た。甲2が彼に向かって叫んだ。

「よく分からないけど、うちのチームの子達の分もよろしく!」

   一緒に出て行った庁長が答えてくれた。

「オッケー!」

   シモはそれからこの世の診察室に行き、慌ただしく注文する羽目になり、深夜、その一帯のチキン屋全て、ほぼ同時に品切れになる事態に陥った。


*******


「カビル……、これは違うと思う。」

   ソファーにうずくまったヨンウォンの声は、消え入るように小さかった。恥ずかしいからではない。とても失望したからだ。今夜、一緒にいたいと言う甲1の言葉が出るやいなや、マットレスのシーツを取り替えて、歯磨きとシャワーまで終えた彼女の前に、甲1の黒いコートに付いていた無数のボタンは、中世の女性に着けられていた貞操帯よりもっと固く留められていたのだ。ヨンウォンはコートと、今夜に限って特に魅力的な甲1の顔を代わる代わる見て、尋ねた。

「もしもね、本当にもしも私がこのコートのボタンを外したら、一体どうなるの?」

「俺も正確には分からないが、おそらく二人きりの時間を邪魔する奴らが、押しかけてくるだろう。」

「邪魔…、それはもっと嫌だけど、それでもこれは……。本当にボタン一つでもダメなの?」

   甲1は、自分の心を抑えながら、辛うじてうなずいた。

「問題が起きるのは困る。俺は二人きりでいたいんだ。今夜のような時間が、また来るという保証も無いから。」

   甲1の言葉にときめくだけに、悔しさも深まった。ヨンウォンは天に向かって、力いっぱい悪口でも浴びせてやりたい気持ちだった。死神がいるなら、天に神様がいる可能性も大きいと思って、独り言を装い、天に向かって大声で問い詰めるように言った。

「私は健全な成人の女なのよ。そりゃぁ、精神はちょっと正常とは言えないけれど、肉体は極めて健康よ。なのにこんな夜更けに、他に誰もいない部屋に、未成年でもない成人の年齢をはるかに過ぎた男女が、しかも凄くセクシーな男を目の前にして、何もせずに寝てるだけだなんて、もの凄く不健全なのよ。有り得ないわ。これは全人類からバッシング受けるような事なのよ!」

「なぜ、天井を見て話してるんだ?俺を見ろよ!」

   甲1とヨンウォンはソファーに並んで座っていたが、身体はねじって互いに向き合っていた。ヨンウォンは甲1の顔を見て、彼の胸におでこをコンと当ててもたれかかった。てっきりスーツ映えしてるだけだと思っていた。それは嬉しい勘違いのようだ。コートの下から感じる硬さがおでこに伝わった。そしてヨンウォンのため息が深まった。

「読者の非難を受けそうよ、これが私の漫画だったら。」

「何のことか分からないよ。また会話が噛み合ってないのか?」

「苦しいからよ。」

「俺と一緒にいるのが?」

「まさか!あまりに幸せ過ぎて苦しいのよ。」

「幸せと苦しみはマッチングしない言葉だ。」

「するわ!嬉しくて死にそうって言葉、知ってるでしょ?」

「それは知ってる。本当に嬉しいという意味だ。」

「それと同じことよ。」

「うーん…、幸せで苦しい?それなら俺も今、苦しいようだ。」

「私の言葉の意味は、もっと動物的なんだけど…」

   甲1が指でヨンウォンの髪を撫で下ろした。

「まだ生乾きだ。」

    慌てて出てきたからそうなった。しっとり濡れた髪はよりセクシーに見えるって言うけど、甲1の前では全く役に立たないデータだ。彼の手の動きを感じるヨンウォンの顔だけが赤くなっていた。甲1も変化が無いわけではなかった。たとえ顔に表れていなくても、体の中で渦巻く暖かい気を悟っていた。甲1がいきなりヨンウォンの頬に、自分の頬をくっ付けた。

「なぜ、なぜ、なぜ……」

「君の頬の熱を冷ましてあげようと思って。」

   確かに冷んやりと気持ち良かった。だからと言って熱を下げるのに、これは決して良い方法ではなかった。ヨンウォンの頬に触れたのは、ただ彼の頬に過ぎないが、互いの肌が触れ合ったのだ。それでヨンウォンの心臓はもっと激しく血を巡らし、それによって更に熱は上がらざるを得なかった。甲1が頬を離し、もう一方の頬に移っていった。その過程で、互いの唇が掠めるようにすれ違った。頬は決して冷めない状況が続いていた。

「何故もっと熱が上がるんだ?」

「私が健康だという証拠よ。これで熱が上がらなければ、本当に大きなは病気があるってことよ。精神的にも、肉体的にも。」

   甲1の顔が遠のいた。残念な表情になったのは、どちらも同じだった。

「私、まだ熱がかなりあるんだけど……」

「俺も熱があるみたいだ。」

   ヨンウォンが手を伸ばして彼の頬を触ってみた。相変わらず冷んやりとしていた。けれど、彼の頬に赤みがさしたのは見えた。気のせいかもしれないが。

「夜が更けた。もうそろそろ寝ようか?」

   額面通りの眠りを意味する発言だろう。分かってはいるが、心臓がピクリと動いた。

「嫌よ。この夜を寝て過ごすのは、余りにもったいないわ。」

「俺もずっとこうしていたいけど、君が安心して眠る姿も見てみたい。」

「後で寝るから、もう少しだけこうしていましょうよ。あなたをもっと見ていたいから。」

   甲1が微笑んで、ヨンウォンの手を握った。そして彼女の指の間に自分の指を絡め合わせた。自分でも意識できないぐらい、自然だった。

『愛してる』

   ヨンウォンは、急にこの言葉が飛び出そうになるのをぐっと飲み込んだ。彼が優しくしてくれても、まるで恋人を見つめる眼差しで見てくれても、彼女はただの人類に過ぎなかった。浮かれてしくじるところだった。彼を困らせて、この雰囲気を壊したくなかった。

   ヨンウォンは、指を絡ませた手をギュッと握って、彼の眼差しに酔いしれた。恋人のような気がした。ドキドキして、始まったばかりの恋人のようでもあり、気楽で長い付き合いの恋人のようでもある、妙な感じだった。


*******


   皆、帰って、病院には誰もいなかった。いつもなら、さっさとあの世に戻ったはずのシモだった。彼はあの世で休む方が、ずっと好きだったからだ。なのに今日は、ここで休みたかった。今戻ったところで、チキンを注文して欲しいと並んでる月職たちがいるはずだ。直接出向いて買うことも出来ると言ったが、配達の便利さを知ってしまった今、もう止めるすべはなかった。直接この世に来て店で買うより、診察室を通じて配達してもらった方が、体力の消耗が少なかった。そういう訳で、中央管制センターでもこの方法をそれとなく勧めているようだった。この世のスマホが鳴った。甲21だった。シモが電話に出た。

「すまない。君の方にも月職たちが殺到してるんだろ?」

 ┈ ええ。今注文を受けて、私一人で来たところよ。あえて皆んなで来る必要も無いし。オッパは何日も大変だったんですって?一体この騒ぎは誰が火をつけたの?スーパーのお菓子で十分じゃなかったの? ┈ 

「犯人は、甲1使者だ。」

 ┈ 普段しないことを、いっぺんに豪勢にやったのね。 ┈ 

「アイツだってこうなるとは思っていなかったんだろう。こんな風に一度切っ掛けを作ると、簡単には収まらないと思うんだけど…」

 ┈ なので私がセンター長オッパと議論してることがあるのよ。私たちの空間をもう一箇所作って、配達の食べ物だけ注文して移動させるの。正直、時職と日職も高額年俸者でしょ。敢えて月職たちが買ってきてくれる食べ物を待つ必要はないのよ。 ┈ 

「この世のお金はどうやって用意するんだ?皆んな両替し出すと足りないんじゃ?」

 ┈ そこで今、行き詰まってるのよ。それに関しては、人間の魂達は、ノーアイデアなのよ。これが上手く行けば、月職達も楽になるわ。正直、不要にこの世を行き来するのも減らせるし。だから甲2オンニやセンター長オッパも積極的に賛成してくれるのよ。 ┈ 

「そうなれば、月職たちがこの世に出て行くのを、業務以外は完全に遮断できるんだな。いいね。」

 ┈ だからオッパももう少しだけ我慢して。解決してあげるから。人間の魂たちが積極的に参加…して…、即…即決…… ┈ 

「もしもし?何?ど、どうした?」

突然、通信が途絶えた。それと同時に、シモの服が変わっていった。シモが自ら変えたのではなかった。

「きゅ、急に何で非常安全センサーが?」

   シモの体からこの世の服が消え去って、あの世の安全服が現れた。ロングコートが全身を覆い、フードが頭全体を覆った。そして顔には、鉄仮面の現代式バージョンである黒いマスクが被せられていた。完全な戦闘服のようだった。この世で危険な状況が到来した時、自動的に武装するように設定されたプログラムが作動したのだ。

   シモは、この世のドアがある所を見た。既にそのドアは消えて無くなっていた。あの世に敵が侵入出来ないように、予め遮断したのだ。シモは後ろから光を感じた。それで机を飛び越えて窓に向かって立った。窓も消えていた。窓があった壁面は、もう診察室の空間では無くなっていた。全く別の場所と繋がっていた。

   白い光の中に、華やかに装飾されたソファーがあった。そこに足を組んで、横柄に座る者がいた。後ろの壁や備え付けの家具はこの世の物だが、ソファーに座る男は違っていた。長い黒髪。現存するとはいえ、普通の人間の目には、その光によって白とだけ認識される髪。シルクで作られたような白のスーツ。直接対面したのは初めてだが、シモはそいつの容貌を見て気づいた。玉皇国は概ね外見が若いのは珍しかった。しかも、ハンサムな顔立ちは尚更だった。なのに目の前の人物は、若くてハンサムだった。これに該当する神は、たった一人だけだ。

「ここは正式に認可された閻魔国の領域です。雷帝が侵犯なさるのは協定に反します。」

「侵犯はしていない。私はそこに行くつもりは無いから。ただ少し、話をしたいだけだ。やれやれ、そんなに警戒しなくも。」

   玉皇国でも最上級の神だ。それにこいつの特技は、閻魔国の地獄荒らしじゃないか。だからどんなに警戒しても、やり過ぎではなかった。ところがシモの体がどんどん後ろに退っていった。彼は何もしていないのに、彼の持つ力だけでシモの体は持ち堪えられなかった。甲2から受けた内傷や溜まった疲労が無かったとしても、耐えるには限界があっただろう。せめてもの救いは、シモは苦痛をあまり感じないという点だ。息が詰まってきた。

「見たところ、地獄の使者だな。ならば、もっと良く分かっているな。私が探している魂…」

   急にシモの息が楽になった。目の前に、黒い使者が現れたおかげだった。それはシモと同じようなロングコートとフードを被った後ろ姿だったが、誰なのか気づいた。彼が手にしている長い剣のせいだった。長い剣を自由に操る月職使者は、甲3だった。彼はシモと同じ黒いマスクも付けていた。いつもこの世の服を着ていた彼が、せっかくあの世の戦闘服の格好をしたのだ。

「おおっ!これは二千年前に私の軍隊にいっぱい食わせて酷い目に合わせた五人の死神(ししん)のうちの一人ではないか。久しぶりだな。」

「おいっ、雷帝。俺たちがいっぱい食わせたのはお前の軍隊じゃない。お前だ。」

   シモの診察室に入り込んだ雷帝の白い光が、甲3の黒い光に押し出された。シモの身体も正常に動くようになった。シモはハッと気づいた。玉皇国において使者庁の月職を指すもう一つの言葉は、死神(ししん)であることを。彼らは自らを特別な存在として称していなかったため、そして力で君臨しなかったため、ただの月職と呼ばれてきただけだ。彼らは何と呼ばれるかよりは、何をするかに重きを置く存在だった。力のレベルによって数多くの序列がある玉皇国では、理解し難い存在でもあった。

「あの時の五人は今も現在なのか?」

「もちろん。」

「私はずっとアイツが気になっていた。我が玉皇国では彼を、閻魔国の守門将と呼んだりしていたが。千年前から全く気配を掴め無い。」

「雷帝、お前の言葉をわかり易く解釈するなら、閻魔国の守門将が怖くて、お前の探す魂を救いたくても、我が閻魔国に近づくことも出来ないということだな?」

「昔も今も、小生意気なのは変わらないな。」

   シモはもう一度、考え直さざるを得なかった。今ここで、玉皇国のバカと閻魔国のバカが対峙しているわけだ。

「死神たちがこの世に住んでいる真意は何なのだ?予測したところでは、休息でもないし。」

「人間研究。これ以上、知る必要は無い。」

「一つ分かったよ。君たちの警戒を見るに、私が探している魂は、未だに地獄にあるんだな。」

「我々は教えられない。」

「用はこれで済んだ。閻魔国の守門将にもよろしく伝えてくれ。あの漆黒の長い髪を見ただけで1番前の番号だと信じて疑わないが、確かでは無いから挨拶し損ねたよ。」

「伝えておくよ。」

   雷帝が甲3とシモを注意深く交互に見ながら、首を傾げた。彼の目が驚きで大きくなった。

「君たちも、知ら…ないのか?あぁ、しまった!誰かの悪ふざけだったんだな。」

   雷帝が空間を閉じた。診察室は消えて、彼がこの世に一時滞在中のホテルの居間だけが残った。雷帝がソファーに体勢を変えて座った。

「守門将が消えた?それなのに、彼らもその事実を知らない?どういう事だ?彼はどこに消えたんだ?いや、それより、どうやって消えたんだ?月職達は死なないはずだが……」

   仙人たちが近づいてきて、雷帝の前で頭を下げた。心配そうな目付きをしていた。

 「これを閻魔大王がご存知になったら、騒ぎになると思うのですが…」

「知ったことか。少しぐらい騒がせておけ。」

   雷帝が恐れるのは閻魔大王では無かった。本当に怖い存在は、月職たちだった。彼らが自分の土地に元々、玉皇国の神だった閻魔を受け入れ、審判の業務を任せ、人間の魂も受け入れたのだ。彼らが善良な心を持っていなかったなら、彼らの能力は大きな脅威になったはずだ。

「その月職たちに、閻魔は畏れ多くも悪ふざけなどできない。彼ら自らか、あるいは使者庁外の年職でなければ……」

   甲3とシモは窓をずっと見ていた。雷帝の光に囲まれた白い空間が消えた後、窓がある壁に戻っていた。外は真っ暗だった。いつの間にか、ドアも新たに戻っていた。シモの装いも元に戻っていた。甲3も白衣と手術着姿に戻った。雷帝の気配が完全に消えて、安全になったという意味だ。甲3がふらつきながら机に手をついた。

「大丈夫か?」

   甲3が机に座りながら答えた。

「大丈夫だ。雷帝を一人で相手にするのはやはり手に余るな。お前は?」

「僕も気力が萎えたぐらいだ。雷帝はやはり強いな。我々の防御壁をこうも軽く突破するなんて。」

「雷帝は今、この世に滞在中のようだ。暫くは気を引き締めていかないとな。」

「君はどうやって知って、ここに来たんだ?」

「ここに急いで行けという電話がかかってきて。」

   電話を受けるやいなや、こちらに移動してきた。ところが移動中に、予告もなく武装姿に変わったため甲3も驚いた。誰がこれをデザインしたのか、あの世に行って問いただしたかった。シモが聞いた。

「ところで、さっきの雷帝の話は何なんだ?彼が言う長い髪の守門将って誰だ?」

   あの時は、月職のほとんどが長い髪だった。その内、雷帝と戦闘を繰り広げた五人も全て、長い髪だった。甲3も結んではいたが長かった。雷帝の話のニュアンスだと、束ねた髪ではないようだった。甲3が曖昧なまま言った。

「漆黒のような?甲2使者のことか?」

「甲2使者も、千年前からこの世には行ってないが。」

「しかし、玉皇国で守門将と呼ぼれる程の殊勲を立てたのは、我々の知る限り、少なくとも俺の知る限りでは、甲1使者のはずだが…」

   甲1も、あの時は長い髪だった。けれど、漆黒のような黒ではなかった。

「雷帝の思い違いか?あるいは我々を探っていたのか?」

   使者庁の月職達の中には、戦闘組と呼ばれる五人組がいる。甲1、甲2、甲3、庁長、センター長、つまり番号の前から五人だ。雷帝と彼の軍隊が地獄荒らしに乗り込んできた時、戦闘五人組が防御に立った。皆、鎧を着て、目だけ見える兜を身につけた。そして、各自の武器を使用した。中でも甲1は、兜の後ろに色の抜けた髪をなびかせながら前を行った。急にその部分が歪んだ感じがした。

「待った、何か頭の中が…」

   シモのあの世のスマホが鳴った。てっきり中央管制センターからだと思ったが、違っていた。『議政府』直通電話だった。議政府は、閻魔国を総管轄する三政丞がいる所だった。今は三政丞と呼んでいるが、昔は三大神と呼んだりもした。そして、この三人が年職だった。

 ┈ 大丈夫なようだな。 ┈ 

「折りよく、甲3使者が来てくれまして。」

 ┈ そういう時は役に立つヤツだよ。留学して、仕事は上手くいっているのか? ┈ 

「それがちょっと行き詰まったようです。どうやら病気を発症するきっかけがありそうなのですが、そこから分析を…」

 ┈ おい、甲25!君に命じたのは、分析では無く治療だ。そこから逸れるな! ┈ 

「治療には診療が先行されるべきです。診療、即ち分析です。それが無ければ、CTも撮らずに開腹手術からしろと言うことと変わりません。」

 ┈ 分析すべき事があるなら、我々もやれと言っただろう。行き詰まることなど無い。時間の無駄だ。それより、どうして近頃甲1使者がこの世に度々、行き来しているんだ?特にそこを通じて 。┈ 

   シモのスマホが甲3の手に飛んで行った。甲3が、自分の唇に人差し指を立てて見せた。静かにしろということだった。甲3がスマホに向かって言った。

「おいっ、皆んな元気か?」

 ┈ やれやれ、バカ野郎だな。 ┈ 

「俺がちょっと気になる事があってね。甲1の場合、昔からこの世を行き来する恐怖症が全く無いのに、何故そこにいらっしゃる方々がヒステリックな症状を見せるのか分からないんだが?」

 ┈ くだらない事を言うのは相変わらずだな。 ┈ 

「問題の核心はこの世忌避症の三人であって、甲1使者じゃないってことだ。アイツはこの世の食料配達で忙しいだけだから。雷帝をブロックしてくれる能力が無いなら、ここは構うな。そんなに退屈なら、部屋の床でも磨いておくんだな。」

 ┈ お前はどうして元も子も無い言い方をするのだ? ┈ 

「使者庁は、独立自治地区と同じこと。これ以上の干渉は、越権行為と見なすという意味だ。」

 ┈ 分かった、切るよ。無事なのを確認出来ればいいんだ。 ┈ 

其ノ二に続く