何やかんやで 一月も終わっちまい
相も変わらず 本読んで ドラマ観て
世間のお役にゃ ちっとも立ってまへんが
妄想力ばかり達人級になってまいりました
気がつきゃ 空想のダーリンと会話をしてたり
危ない 危ない
そこのアナタも 気をつけなはれや
さて 今回は ついに…
へへへ
どうなったでしょう?
ほな 読んでおくれやす
ヨンウォンの使者たち
第 四 章 閻魔国の守門将
第 三 節
甲1が出入国場の両替所で、この世の現金に両替していた。この世の物価が分からないので、取り敢えず、限度額いっぱいまで替えてみた。所持しやすいように、全て5万ウォン札で貰った。スマホから着信音が鳴った。
┈ なぜ、両替をしているんだ? ┈
「今からこの世へ行ってこようと思って。」
甲1が、電話をしながら歩き始めた。
┈ 近頃、頻繁に出かけているようだが? ┈
「確かにそうだな。何でかな?」
甲1の足は出入国場では無く、長い廊下の方に向かっていた。
┈ 君が聞いてどうするんだ、全く。仕方が無い状況だとは分かっているが、ダメ元で一度聞いてみたんだが。 ┈
「今日はそれとは関係なく、この世に食料を買い出しに行くんだ。」
┈ 何だと?君が?今までしなかったのに? ┈
「うちのチームの奴らは関心が無いと思っていたんだが、俺がこの世に出入りする時、負担を掛けないように我慢していたと聞いて。」
┈ 皆んなも心配してくれてるんなら、この世には、余程のことが無い限り出かけるべきじゃないだろう ┈
甲1の足が止まった所は、シモのあの世の診察室の前だった。
「だから、診察室を通して行ってくるんだ。甲25使者と話もあるし。」
┈ そこなら何かと大丈夫だな。気をつけて行ってこい。その代わり、早く戻ってこいよ。君があの世にいないと落ち着かないから。 ┈
甲1がノックをした。
「落ち着かない状態に適応する訓練だと思ってみろ。それより、俺の服の非常サイレンを消してくれないか?」
┈ ダメだ!全死神の必須だ。例外は無い。 ┈
非常用サイレンは監視のためではなく、安全のためのものだ。甲1は仕方なく、電話を切った。診察室からシモの声が聞こえた。
「どうぞ。」
ドアを開けて入るなり、シモが言った。
「甲1使者が先に、診療の予約をするとは思わなかった。」
「ダメだったか?」
「いや、嬉しくて。そうじゃなくても、僕が先に会いたいと思っていたから。」
甲1は、シモが指したソファーに座った。この世のドアを眺められる位置だった。シモは向かいのソファーに座った。
「最近、甲1使者、何だか楽しそうだな。まるでいいことがある人間の様に。」
「そうか?近頃、気分爽快なんだ。」
「何を相談したいの?」
「ナトリウム過敏症。」
シモが戸惑いの表情を浮かべた。これは、思いもよらぬ症状だった。
「ナ・ヨンウォンの話では、肉体の反応ではなく、精神の反応だろうと。」
「ナトリウムを摂取すると涙が過剰に流れるとか?」
「そうだ。酷いんだ。なのでこの世の食べ物は食べなかったんだが、最近、よく食べる機会が度々出来て、治してみようかと。」
「何故?甲1使者が涙を流す事って、何があるんだ?」
「この世の食べ物を食べたから。」
「そうじゃない!胸の中に悲しい事があってこそ、涙は流れるんだ。ナトリウムだけ摂取しても流れるわけじゃないんだって。甲3使者は、どれだけ食べまくっても、ヒヨコの目糞ほど流すのが精一杯だ。僕もだけど。現在の月職たちの中でナトリウムで涙を流すのは、この世忌避症の三人だけ…」
「俺もそれが変で、こうしてやって来たんだ。」
これはまた、何なんだ?一番問題があるのはこの世忌避症の三人組のはずなのに、なぜ何度も甲1が割り込んでくるんだ?最も大きな問題はこの世忌避症だから、その症状が目につかなかっただけなのか?違う。彼の能力が余りにも優れているので、誰も彼の問題に気づかなかったんだ。
「首に傷跡があるんだって?ちょっと見せてくれる?」
甲1が傷跡がある部分を、シモの前に突き出した。シモはサッと立って、首に巻いてあるスカーフを引っ張って確認してみた。約4cmの長さの傷跡だった。触れてみた。甲2と庁長の傷跡と同じものだった。
「これ、いつからあったんだ?」
「千年前に見つけた。」
また千年前か?もしかしたら三人とも、似たような時期にこの傷跡が出来たってことか?
「その時から大きさは変わってないの?」
「見つけた時から今まで、何の変化もない。」
シモは再び傷跡を隠してやり、元の場所に戻った。
「甲1使者はこの世に行く時、拒否反応、つまり…、行きたくない気持ちを我慢しながら行くのか?」
「いや、全く。この世に行くのは、そりゃ楽しい。今もそうだし、前も。いつも。」
いつも決定的な点で、枠から外れる。とりあえず彼らと関係なく、甲1単独で見ていこう。
「普段見てると甲1使者は、ボーッとしてるって言うのかな?一人だけ離れている感じがするんだ。会話中でも。もちろん毎回そうだったわけではなく、ヨンウォンさんと一緒にいる時は、そんな感じは全く消えているんだけど。自分でも分かってる?」
「分かっている。だが、特に不便ではない。仕事をする時にそういう症状は出たことも無いし。」
「どんな感じか説明できる?」
「さぁ……、上手く説明する自信はない…」
「正確じゃなくていいから。大まかにでも。」
じっくり考えた甲1が言った。
「ヨンウォンが俺に聞いた。俺自身が現実なのかって。俺は違うと答えた。」
「どういう事だ?その部分をもうちょっと詳しく話してみてくれる?」
「たまに俺は、俺の周りが現実のようではない感じがして。時には俺だけが現実ではなくて。俺ではなく、他の者が俺の口を借りて話しているような。俺の体を借りて動いている気分のような。形も意識もない感じの時もあるし。」
「いつからそんな感じがあったんだ?」
「分からない。俺がそう感じている事も、最近気づいた。ヨンウォンに出会ってから、ハッキリした感じがしたよ。彼女といると、俺は俺のようだ。周りも確かに感じられる。俺から離れた現実が、俺の中に戻ってきた感じだ。初めて、俺の体が俺の意思で動いて、俺の口を通して俺の考えを話す感じ。なので、以前の俺の方がもっと不確かなような。分かるか?」
「よく分からない……」
「だろうな。俺も、自分で何を言っているのか分からないから。」
「い、いや、僕の話はそういう事じゃなくて…、なぜ甲1使者にそういう症状が…」
シモはショックで言葉に詰まった。これまで観察してきた事と、甲1の今し方の話を総合してみると、これは人間たちの『異認証障害』とかなり酷似していた。
「そんな事より、ナトリウム過敏症を治してくれればいいんだ。もちろん涙を拭いて貰うといい気分なんだが、不便なのは事実だから。」
「甲1使者は悲しい事が何かなかったのか?よく考えてみて。千年前のことでも。」
「全く。」
「ナトリウムは普通、涙を流せば治まるんだが…」
普通はそうだった。ストレスや悲しみが流れ出ると、心が癒されるように。彼らの涙は乾かなかった。この世の食べ物は彼らにとって、底無しの瓶に水を注ぐようなものだった。それでも甲1が、時職や日職に細かく気遣ってやるということは、喜ばしい変化だという気もした。空間が変わり始めた。直ぐにソファーが消えるはずだから、二人とも立ち上がった。
「何を買うの?この世に慣れてないだろうから、僕がついて行ってあげようか?あっ!帽子とマスクは?食べ物を買いに行く時、それは必須アイテムじゃないか。」
「大丈夫だ。ヨンウォンと行くから。」
「ナ・ヨンウォン?あっ!ヨンウォンさんから伝言があったんだ。避けて通るなって言ってた。煩わしくしないからって。」
「突拍子もないな。俺は避けて通ったことなど無い。煩わしくも思ってないし。むしろ俺がヨンウォンを煩わしているんだ。何故そんな事を言うんだろう?」
「さあ?僕の言葉のせいだとは思うんだけど。ヨンウォンさんの所に行くなら、僕も一緒に…」
甲1が目の前から跡形もなく消えた。一緒に行くのが嫌で逃げたような気もするが、シモは気づかなかった。
「えっ!何をそんなに急いでるんだか…」
シモは椅子に座った。敢えて明かりはつけなかった。そして、この世忌避症の三人組と甲1の症状を、一つ一つ分けて考えてみた。この世忌避症は結局、ある対象に対する恐怖症だとも言えた。
「この世忌避症に、余りにも執着し過ぎていたのか?これも様々な症状の一つに過ぎないし、これより前に何らかの障害があって、もっと大きなカテゴリーに甲1も括られるなら…。余りにも無茶な考えなのか?彼ら四人にある『問題』が、千年前に発生した可能性は本当に無いのか?」
気質性精神病でない限り、きっかけが無い精神障害は無い。死神に身体的な病理は無いという甲3の研究結果を前提にするならば、精神障害を引き起こした何らかのきっかけは、きっと存在するはずだ。暴露治療や社会リズム療法といったものは、二次的なものだ。先ずは治療より、障害の原因となる『きっかけ』に集中する必要があると判断した。これまでの診断で、最も重要な原因をないがしろにしたのは、彼らの言葉と記憶を信頼したからだ。
「ところで……、何で食べ物を買いに、ヨンウォンさんの所に行くんだ?」
其ノ二に続く