なぜ? | 生きるために不必要で大切なもの[Rental Heart Cafe self-cover]

なぜ?

040906

「なぜ?」って、おもむろにあなたが聞いた。
僕は答えられなかった。
あなたは答えられない僕を分析しはじめた。
なぜ?‥‥なぜなんだろう。

「なぜ?」って、そしてまたあなたが聞いた。
僕は答えられなかった。
あなたは僕を追いつめるように問いただした。
なぜ?‥‥なぜなんだろう。

本当にわからなかった。
だいたい理由なんかあったのかな。

人間の行動には必ず理由があるっていうのを、
何かの本で読んだような、読まなかったような‥‥。
そんなことを考えた。


結構な時間がたった。

僕は罠にはまった獲物だった。
もうずいぶん前に立ち向かう気力をなくしていた。
でも、考えることはやめなかった。
爪は隠したけど、誇りは捨てなかった。


また時間がたった。
どうやら、あなたの興味の対象は僕でなくなっていった。

未だ、僕は答えられなかった。
なぜ?‥‥なぜなんだろう。

あなたが笑っている。

少し、窮屈じゃなくなった。
僕は明らかに圧力から解放されつつあった。
突然、確信が生まれた。狭い隙間に生まれたへんな確信。
あなたの饒舌さにくらべれば、とても幼稚な確信。

理由があった。いっぱいあった。
おいしいから。珍しいから。お腹がすいたから。生きるため。

理由があった。いっぱいあった。
ご飯を食べる理由がいくつもあるように。

僕は探していたんではなくて、選ぼうとしていた。
自分の形にこだわっていた。
あなたに認められるくらいの“理由”、
自分を美しく見せるために必要な“理由”を。

でも選びきれなかったんだ。
あなたが手強かったから。
だから答えられなかったんだ。

あなたが僕を追いつめたんではなく、
僕があなたから逃げた。
だから答えられなかったんだ。

「なぜ?」って、もうあなたは聞かなかった。
答えが出たのに。答えが出たのに。
ただ、その答えは答えられなかった理由でしかなかったけど、
それでもう許される気がしていた。


帰り道にもう一度、自分に聞いてみた。
今度は声に出してみた。
ひとり、ふらふらと歩きながら。

「なぜ?」
声が団地の壁にはじかれる。
「なぜ?」
僕はそれっきりしゃべれなかった。

やっぱり、理由は見つからない。
少し泣きそうだった。



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040906