ようやく午後夕方になり退院の時間になった。


 あと、2,3日くらいでも良いと思える充実した時間を過ごせたと変な、感想も持てた。


 母親と義理でもありながら、よく可愛がってくれる父親に向かいいれられて、恥ずかしかった。


 4つ下の妹も院内をはしゃいで看護士さんに怒られる場面もあり、楽しいひと時を家族で

 過ごせた事が嬉しかった。

 
 ”あいつ”は顔を出さずに、そのまま横浜の家に向かいもう一日家でゆっくりする事にして

  車で向かった。


 この頃は携帯はなかったので、途中のコンビニエンスストアーの公衆電話で心配してくれた


 友人達・後輩達にベルを打とうとして立ち寄った。


 色々考えた文章だが、


 『明日から、完全復活ですぇ~す!又明日ねぇー』


 と打ち、皆を安心させたかった。この頃でも大丈夫じゃないのに、大丈夫という事が


 多くなり、殻に閉じこもる事が多くなり、どうしても周りの心配や、気配りが嫌になっていた。


 なんか、心配される事・目にかかる事が時折苦痛になる事もあり、変な気分で、責められる。


 
 
 帰りの車の中は、父親がかなりハイテンションで盛り上げてくれた。


 昨日の試合の結果を教えてくれた、あの後はかなり苦戦でも1年生が頑張ってくれたみたいで


 3戦3勝だった事を教えてくれた。


 怪我の事は後から聞いたことだが、みんなに”あいつ”が口封じした模様で、だれもしゃべらず


 家族にはボールを追って、ネットの端に立っている鉄柱にぶつかった事になっている事に


 愕然とした。またか、裏切られたという事はこういうことか…はぁ~大きくため息をついた



 帰りは、ファミリーレストランにより、大好きな…というか、こうやって皆で外で食べる事が


 なかった事に対して、ものすごい抵抗があり、なにか皆が食べているところで食べる事が


 気恥ずかしくなり、なかなか満足に食べれなかった。


 この時から周りの目が非常に気になりだし、大勢の人が居る中で食事をする事がなかった。

 
 後から見た本のなかで、よく弁当を隠して食べる、小さい子の心理でお弁当が恥ずかしい


 のではなく、食べている所を見られるのが恥ずかしいのであり、それを隠す行為は


 自閉症か、引きこもりになる可能性があると見た記憶がある。


 ん~何ともいえなかったが、明らかに自覚症状あるだけいいかと思えたことが救いだった。

 
 皆との会話は楽しく面白かったけど、のどに上手く食事が通らなかったなぁ~と


 なんか悲しくなった。


 


 夕闇にくれかかろうとする、自宅の団地は淡い夕日に包まれて、影が遠くまで伸びている。


 影はどこまで伸びるのか、先までずっと見つめていた。やがて影はなくなり、全てが闇に


 包まれる。心が覆う、影はいつ晴れるのか、分からない。

 いつしか寝てしまい、夕飯も食べずそのまま次の朝まで深い眠りに久々についた。


 とても居心地が良くて、なんか幸せ一杯な眠りだったが、目が醒めたら現実は目の前にあった


 ”あいつ”だった。


 「どうだ、良く寝れたか?昨日は悪かったな…」


 そういい終わると、豪快に笑い出す。まるで、自分の演技が満足だったといわんばかりに。


 それを見るのも嫌だし、それを感じるのも嫌だった。


 「ええっまぁ~。」


 十分過ぎるほど、そっけない態度をとろうかと思ったが、また逆上されるのも嫌だったので、


 「おかげさまで、もう大丈夫です。」


 と努めて明るく振舞った。

 
 「そっか、良かった、良かった。じゃあこれで、俺はこれから教育委員会に行ってくる。」


 と少し寂しげな影のある、声で小さく呟いて出て行った。


 呆気にとられた私はすぐには事情が飲み込まれなかったが、それでも冷静になれば、


 昨日の今日か…と判断できた。


 さすがに、昨日はあそこまでの事をしでかしたので、勿論責任はあるが、果たしてお咎めが


 あるのだろうか。私はないと思った。


 私以外、親、先生達に評判が良くて、いい先生で熱血ぶりが買われていたので、無罪放免に


 なることは間違いないと感じていたからだ。

 


 窓の外が、朝焼けに染まる頃、朝食が始まった。


 ふと横を見ると、着替えの上に手紙が置いてあり、おもむろに読み出した。


 『声をかけようか、どうしようか迷ったんだけど、あなたがあまりにも気持ちよさそうに眠っていたから

 今日は声をかけずにそのままにしました。明日は退院できるみたいなので、夕方にもう一度迎えに

 くるね。これを機会にいい休養をとってね。母より』


 胸がじ~んときたのは何年ぶりだろうか、懐かしい便箋の縦線が、今にも踊りだそうな勢いで


 私を見つめてくれていた。



 ”あいつ”はどうするんだろう?また、母の手紙を読み終えて、妙な疑問がまた浮かんできた。


 ”あいつ”を思い出すと、どうも最初の忘れられない夜の事を思い出し、過呼吸気味になる。


 今もそうだ、やっぱりなおらなそう。簡単には。


 昔の自分を何とか取り戻したい。そういう気も起こらない。

 


 明るい日差しは、優しく包み込んでくれる。午前の診察が終わり、先生の許可を経て外出をした。



 院内の散歩程度だったが…、それでも太陽一杯浴びている私の心はまだ、日を浴びない。

居なくなって、少し気持ちを落ち着かせようと深呼吸をしてみた。ゆっくり、そして大きく…


 自分の息がかすかに音を立てているみたいで、妙に苦しかった


 「多分、先生の思ったとおりです。試合中に灰皿が飛んできて、目の上に当たっただけです…」


 と、つい言ってしまったしかも小声で。でも、周りの皆もその場に居合わした人も全員見ていたわけで


 自分の発言は覆しようのない事だった。


 「やっぱり、じゃあやったのはあちらの先生だね…。そうだね。」


 「えっ、なんでわかったんですか。」


 「少し、指先がこぎざみに震えていたから…」


 
 そうなんだ、そんなところまで見ているんだぁ~となぜか関心してしまった。


 ん~どうしてなんだろう、妙な落ち着きは自分ではない気がして、少し面白かった。


 
 これから”あいつ”はどうなるんだろう?処分されるのかなぁ~、どうするんだろうと少し心配する


 自分がいた。変な気はない、ただし”あいつ”が居なくなっても、自分がどうこうなるわけではない。


 むしろ、今は自分の心配しかしたくないし、この先がとても不安だ。この心の病は本当に治るのだろうか


 それと、これが私なんだろうか?そんな2面性を考える事しかできない。



 本当は3面性を考えないといけないんだろうけど…


 話は短時間で終わり、様子を見てというか、”あいつ”の事からお医者さんが避難させてくれたみたいで


 今日だけ1日入院となり、なんかわくわくした。


 なんでだろう、本当に1人になったのなんて、無いからじゃないか?そんな気もしたが、自分だけの時間


 自分しか居ない事、それがはじめて嬉しいと思った瞬間だったのかもと今は思う。


 過去を振り返ると様々な嫌な事がよみがえる。でも、俗に言うと思い出では美化されるというか、


 そんな思い出なんかに、良いも悪いあるのだろうか。そう思っていたら、試合のせいで体は疲れていたのか



 夕飯を食べずして、眠くなりそのまま寝てしまった。