お昼をはさんで、午後の練習をスタートさせた。勿論私が当面、チームをまとめる。


 久下先生には顧問に座っていただき、何か合った時の責任者として、お願いをした。


 うちは県内では有名校ではあったものの、なかなか全国大会に日の出を見る事はなく


 いつも惜しいところでの敗退で、毎年悔しい思いをしていたが、今年こそはと活き込んだ。


 スパイク練習を始めようとした時、


 ”あいつ”は現れた。


 「お~い、練習中に申し訳ないが、一度集まってくれぇ~。」


 図太い声が体育館に広がった。


 
 「みんなも知っての通り。俺はやらかした。先生の前に人としてやってはいけないことをした。


  だから、責任を取るつもりなので、これからは久下先生の言う事をしっかり聞いて、


  湯本のリーダーシップに期待して、これから見守るつもりでいる」


 「先生……。」


 みんなのどよめきがひしひし感じた。


 まだ、ここでの余韻は残っているが、瞬時に思い出に変わろうとしていたので、かなり自分も


 非常な人間だという事が良く分かる。

 
 複雑な表情をしていた、みんなはそのままひきづる事もある。ましてや、


 私みたいにそんな被害を受けない人もいたし


 尊敬したいたメンバーも多い事は確かで、無論親からの絶対的な信用があったので、


 波紋が広がりそうな


 予感はしていた。

 
 さて、これからどうするか…新チームになり後があまりない…。ピークは来年の1月から始まる


 春の全国予選。もうそんな事を考え出していた。

 
 「湯本、少しいいか…体育教官室に来てもらえるか…あとの皆は練習に戻ってなっ」

 「はい…。」

 さて、なんだろう、一瞬で凍りついた。二人っきり…かなりかなり抵抗がある。ん~もう逃げられない。

 
 練習を途中にして、体育教官室に向かった。


 体育館の脇にあるのだが、その道のりはなんか重々しかった。


 ドアを少しあけて、覗いて中を見てみた。真ん中に項垂れている”あいつ”の姿があった。


 そんなにショックだったのか、そう慈悲の気持ちにもなったがそれでも本気では


 そういう気持ちになれなかった。

 
 「先生…。」


 「おぉぉぉ~湯本…。」


 なみだ目の”あいつ”を見て、なんか少し怖くなった。


 涙とは本当は美しい物では…でも涙をみて、心を打たれない自分がいる事がなんか


 正直哀しくなった。

 
 涙はかれる事のない、心の水分。哀しければなくし、嬉しいときも泣くし、心が際立った時に


 泣く物と位置づけられる。


 そう、むかしおばあちゃんに教えられていた。



 この涙の意味は何だろう…聞かなきゃ分からない。聞くのも怖いと思った。

  朝のひと時は正味1時間ほどで、ダボスを後にした。


 駅へ向かう人の流れの雑踏はすでにおさまり、静けさを取り戻しつつある。


 学校へ向かう道は、大きな道路沿いにあるので、いつも足早にここの道路を過ぎ去るのだが、今日は


 心重たいまま、足も引きづる事が多かった。


 時間的には余裕があったのだが、それでもなかなかたどり着けない。

 登校拒否の子はこういう気持ちなんだと


 感じた。私はそこまでは今まで考えすらしなかったが、もしそうだとしたら、


 今ごろ学校になんか行ってないんだなと思った。


  思い足取りで、やっとの事体育館に着いた。なんとかという言葉が似合うが、体育館の中は静かで、


 今ごと休憩中なんだと思い、部室まで移動した。


 顔をだすと…


 「キャプテン!もう大丈夫なんですか~~」


 「キャプテン…、良かったぁ~」


 「いやぁ~さすが、キャプテン!」


 皆の声高い事が心地よかった。いつもはあんなにうるさいのにぃぃぃ~と少しは思ったが、嬉しかった。


 「先生は?」


 すこし、緊張した声が、皆に伝わったのか、少し声を黙らせてしまった。


 「ん~あれ以来来てなくて、いつもマネージャーが電話で、練習内容を聞く毎日なんですけど…」


 「そっかぁ~……」


 ん~仕方ないかっ。そう思ったが、それでも、この事態をどうにかしなければならない。


 さて、どうしたものか…考えていると久下先生が部室の、入り口から顔をだした。


 「先生!…どうしたんですか?」


 「ん~チョット気になってな、部のみんなは大丈夫か?」


 「ええ、元気にしていますよ!。私もこんなに元気になったし。」


 少し、頑張り気味に言う自分が居るのは分かったが、努めて明るく振舞う事にした。


 でも、多分久下先生にはばれているなと感じていた。

 
 
 「ん~先生だが、かなりの期間謹慎になった…。多分無期限だとは思うが…」


 唖然とした、空気がみんなに流れた。私もそうだ。


 行く先のない船がそのまま航海した雰囲気に流れた。


 私も正直複雑な気分になったが、これはこれで厳粛に受け止めるべきだと直感に思った。



 でも、このまま一筋縄でいかないのが、”あいつ”だ。果たしてどうなるか…

 翌朝はすでに快晴で、気持ちのいい朝の目覚めだった。


 早朝練習はさすがに、欠席して、午後からの体育館練習から参加を予定した


 いつもどおりの時間に家を出たため、かなり早くつくことが予想されたので、


 久々にあの『ダボス』 に行く事にした。


 モーニングも朝の6時からやっているので、足早に朝食を終わらせて、出て行く人が多い。


 その中で、少し落ち着いた朝の8時過ぎに店に顔をだした。


 店内はひと段落ついたのか、片付いていないテーブルもまばらだったが、少ないお客さんの

 入りで少しほっとした。


 今日も好きなJAZZが流れていて、POPな感じが居心地の良さの記憶もより戻せられた。


 
 前と同じカウンターにすわった私は、モーニングセットAという380円のセットを頼んだ。


 それには、大好きなココアが入っており、ピザトーストのゆで卵があり、凄いボリュームだった。


 大きな口をあけると、マスターがカップを洗いながら、微笑んでくれた。


 いつもの笑顔というか、2回目だがなんか、家とは違う又別の空間がして、好きな場所になっていった。


 「あれっ今日は学校?まだ夏休みでしょ?」


 「ええぇ~これから部活なんですけど、なんか時間が早すぎて、それでまた立ち寄っちゃいました。」


 はにかむ自分が少しおかしくなりそうだったが、これがもしかしたら私の本当の部分ではないかと錯覚をした。


 いつまで経っても大人になれない、子供より、いつまでも子供心を持つ大人の方がよっぽど素敵に思えた。



 「部活ってなにしているの?」


 「バレー部です。これでも一応キャプテンなんです。」


 「へぇ~そいつは凄い、それじゃあ将来は世界の中田とか大林になるかもなぁ~あははははは…」


 
 豪快に笑い、楽しむマスターを見て、和んだ。


 「で、将来は何になりたいの?」


 「ン~まだ考えてないですけど、できれば自分らしい職業につきたいです。それがイマイ分からなくて…」


 自分らしい仕事、自分っていったい何?言ってはみたものの、何かしら違和感を感じた。


 自分の言葉に責任があまりにもない。そう感じてしまったので、あわてて


 「でも、マスターはなんか情あふれる人柄で誰からでも好かれますよね!」


 「ん~どうだろう、自分では分からないけど、好かれているのかそうでないのかは分からないよ、


  自分はまだまだと思っているから。若い子の方がよっぽど出来た子の方が多いよきっと…あははははは」


 はたしてそうなのだろうか?なんか疑問を感じたが、それでも、そう思えるマスターに心を打たれる。


 自分…自ら分かれるのか、分かるのかどっちなのか。それでも、自ら分かろうとする事が自分を創るのか。



 どうなんだろう…国語辞典で帰ったら調べてみようっと…