日も沈み、もう周りは暗くなっていた。帰りは、丁度学校の前を通る。


 この時間だというのに、体育教官室だけは、あかりが付いていたので、


 おそる、おそる覘いてみる事にした。久下先生に、次回の練習試合の確認を


 したかったからだ。

 
 まさか、”あいつ”がいるとも知らないで…



 こんばんわと目の前には、弱りきった表情でこっちを見る”あいつ”だった。



 「おまえ、何しているんだ…。」



 「えぇっ、久下先生に用事がありまして。」

 




 一気に前の様に凍りついた。動けなくなる感じだ。





 「この間、お前内にこなかっただろう。何かあったのか?」


 「えぇ~ちょっと用事がありまして…。」


 
 嘘をついた。


 行くことも知らずに、私は家を出たので、丁度良かったのだ。


 それにしても、前みたいに動物的な目をしていない、今はかなり疲れきっている


 様子で、その様は逆に警戒心をあおった。


 
 体とかの気遣いをしてしまうと、また弱さをだす。ここは強気で行きたいが、


 ”あいつ”の前では、猫ににらまれねずみ状態になることが非常に悔しかった。


 
 「そっかぁ~うちの奴が退院してなっ、それでお前のお母さんに退院祝いしてもらったんだ。


  うれしそうだったなぁ~、あいつ…。」



 すこしさびしげに言う”あいつ”がなんか、憎らしい。



 同情でも浴びさせてもらいたいのか、そんな様子だというより、自分の気持ちがそう思えた。

 
 何もかもの言動に、警戒をし、張り詰めた空気のこの空間から逃げ出したい気分に一層


 駆り立てられた。

 


 いつから、この気持ち、心から取り放たされるんだろう。



 そんなことばかり考えていた。

 
 そのとき、こっちに向かって歩いてきた。


 「なぁ~たまにこう会ったんだから、今日もいいだろう?」



 「…………。」


 言葉が出ない、言うとおりしか出来ない自分の意思がそのときは酷くにくかった。


 だから、自分を責めることしか出来なかったのかも知れない。



 何も抵抗できない私を見て、嘲笑う”あいつ”はどんな気持ちで私を誘うのか、




 誰かに教えてもらいたかった。その答えは未だ見つからない。





 闇の中に消える太陽だけは、静かに影を潜めた、そんな感じを受けた夜だった…







 

 

相談を受けて、自分より逆境に立たされる人に、あの事故以来初めてあった。  


今までは、自分が一番悲劇だと思っていたのが、なんかおごかましくかんじられ、  情けなくもなった。  


比較はそれそれ出来ないが、心の病・悩み・苦しみにも変わりはない。

自分が救いたかったら、誰が救える。自分がだめになれば、誰かに助けを求める。  


そんな綺麗な世の中を夢見ていた。  現実は苦しい…   鈴木と別れて、一人考えた。  


本当に出来ているのであれば、まず病院にいかないと、この事を親御さんたちに話して、  


事件を解決してもらわないと…それから警察。  まず第一に考えるのは、鈴木の体の事だ。  


この先、おろすにしても本当にこの年で大丈夫なのだろうか、この不安をはっきり


 医者からクリアーにしてもらわないと…いけない。  


それぞれの、不安が彼女を押しつぶす要因となるだろう??    


彼女に一言…  



「今は、何も考えるな、考えただけ自分が苦しむ。前向きな気持ちも今は芽生えようと したって、無理だ。


だから、考えるな!」  



そう、もっともらしいことを伝えたが、それでも、彼女はどう思うだろうか?  


やっぱり考えてしまうだろうなぁ~…  それが、この先の不安なことに繫がるかもしれない…  


でも、今彼女にとって何がいいことなのか、真剣に捉えてあげないとというきもちだけが  


揺れ動いた。  事件から1週間経ってから、




ようやく私だけに相談をしてくれた、あの子のためにも…





以前から気にかけていた、鈴木からの思わぬ相談事。  


時期キャプテンは間違いない、打ちの次期エース、  私とは違い、背も高い、


キャプテンシーの強い、責任感の強い子だ。  だからこそ、相談とは以外だった。


自分の場合は、先輩は正直だらしなく、  


相談をするさえないまま、飛び越えて、うちらの代になったので、


この子たちはまだ恵まれているのかもしれない。  


夕暮れ間近ようやく、アフター練習のスパイク乱れ打ちの練習が終わり、  


帰り支度をしていたときに、私は鈴木に近寄った。  


「じゃあ、どこか行こうか?家遠いんだっけ」  


「いえ、家は金沢区なので、遅くならなければ大丈夫です。」   


と、私達はやっぱり女性なので、久々にジャンボパフェを食べに、”バニー”に  急いだ。  


店内は数席しかない、こじんまりとした店だったが、私はちっちゃい喫茶店で好きだった。  


「ジャンポパフェ2つ。」   


注文をとり終えて、鈴木は神妙なおもむきで、私に口を開いた。  


「話しなんですけど、誰かに言おうかどうしようか迷ったんですけど、苦しくて…」

 

んっ?どうしたの、自分のペースでいいから話してみなよ。」  


そう、私はできる限り優しく問いかけた。  


「実は………………………   コドモ…出来ちゃったんです、多分、


まだはっきりはわからないんですけど、あれがこなくて…」  


正直私は唖然とした。  自分より1個しか違わなくても、おかっぱ頭が似合い


、ひたすら練習に打ち込んでいた  彼女が、そういうこともしていることに驚いた。  


「で……、相手は彼氏なの?」  

慎重に聞いた、私も恋愛はさほどではないが、中学時代はわりかしおませだったので、  


一通りの経験はしていたものだった。  


「いえ、違うんです。実は、乱暴されて、その時に出来たんじゃないかって思っているんですけど…」


 「えっ本当にぃぃ~??えっ、それってまさか、レイプされたってこと…なの?」


 「はいっ。」  


小さくうなづく鈴木が、可愛そうに見えたのだが、それでも誰かが守ってあげなければと瞬間的に思った。  


「この事は誰か他の人、知っているの?」  


「いいえ、キャプテンだけです…。こんなこと誰にも言えなかったし…。」  


確かにそうだ。気軽にこんなこといえない、ましてや、親にだって。私もそうだから。  


「そう言ってくれるというのは、確かだってことよね?」  


「はい、検査薬も2回やって、陽性でしたので…間違いないかと。」  


ん~これは困った、まずはそのやった当人達を見つけ出して、しないと。  


でも、この子の気持ちはどうなんだろう?果たして、それに立ち向かう気持ちは今はあるだろうか?  


ないければ周りがフォローをしてあげないといけないし…


果たしてその大役を自分はまっとうできるのだろうか?  


不安だが、誰も助けを求められなかった、唯一私に助けを求めてきた。  


その期待に応えてあげないと…という強い気持ちに変わった、自分の心境にも少し驚いた。  




夕暮れも、落ち始めた午後の終わり、この子の将来と私の未来を少しだけ、太陽と重ねてみた。