第一話はこちらから↓↓

新しい恋でもしようかと思ったけど、
別れて直ぐ彼女を作れるほど、器用でも無いし、イケメンでも無い。

そもそも、女友達の連絡先は消したままだし、、、
またフラれてこんな思いをするのはゴメンである。

そう言えば、
高校生活でやり残した事がひとつだけある。
それは部活をする事だ。

思い立ったが吉日!

床屋に行き、バリカンで丸刈りにしてもらった。

職員室に入部届を持って行った。
2年の秋から入部するヤツなんて珍しいと笑われた。
『たまにいるんだよな、推薦の為に内申点稼ぎで入部するヤツ、、、ワシは騙されないけどな』
と奥の席に座る定年間際の名誉顧問に言われた。

腹が立ったが、ちょっとその辺も頭の片隅にあったので、反論は出来なかった。

でも、言われっぱなしでは終われないので、その日から毎日部活に行った。

一年生よりも新入りなので、お茶汲みなどの雑用もやらされたが、一年の方が気を遣うとのことで、1ヶ月後には2年と同じメニューになった。

高校の部活は走る時の腕の振り方や視線の方向やダッシュのコツ、バトンパスの効率的なやり方などテクニカルな事を教えてもらいました。

フォームを直すだけで飛躍的に記録はアップしました。

バーベルを使った筋トレも練習メニューに入れたことにより、筋力も上がり、100mと200mで自己ベストを更新しました。

今までサボっていたのもありますが、
やったらやった分だけ記録として現れてくるのが楽しくて楽しくて、練習が終わっても自主練をしていました。

イケメン君派閥に居た為に、
以前は俺を避けていた野球部の俊足自慢と
部活が終わった後に、
100m競争をした。
結果はほぼ同時にゴールした。

お互いを讃えあった事に、
スポーツの楽しさを見出したのを覚えています。

3年生が卒業した。
卒業パーティーはもちろんグラウンド20周年!!ゆるーく語りながら走った。

4月になり3年生になった。
そんなある日の練習後に、
顧問と名誉顧問に部員全員が招集された。

5月に行われる地区大会での
リレーメンバーの発表会である。

この地区大会に負ければ3年生は引退である。
3位以内に入れば、県大会に進める。

第1走者に俺の名前が呼ばれた。
2〜4走者も同じ3年生だった。

メンバーが発表された後、
俺よりも足が速かった2年生の新谷が
名誉顧問に抗議した。

『僕は先輩達の最後の大会を一緒に走りたい!
2年の途中から入ってきたこの人よりも過ごした時間は長いし、脚も速いのに何で俺じゃないんですか?!』

名誉顧問は静かに言った。
「ワシがコイツを選んだのは、在籍期間では無く、努力の量だ。すぐに諦めるかとを思っていたが予想に反してコイツは入部してからズル休みせずにちゃんと練習した。記録も上がった。他のみんなもコイツに負けないように鍛錬した。部の雰囲気も良くなった。評価をしているし、コイツも3年生だ、引退試合に向けて3年全員明日から特別メニューだ」と。

それから約1ヶ月、
今まで以上に練習に打ち込んだ。
嫌いだった朝練にも行った。
雨の日もタイヤを引いて走り込みをした。
吐くほど走った、吐いてまた走った。

大会の前日。
練習が終わって、靴の手入れをしていると、名誉顧問に抗議した、2年生の新谷が話かけてきた。

『先輩、200m一本!勝負しましょう!!』

練習で疲れていたが、これで断ったらカッコ悪い。
それに新谷の気持ちにも応えてやらないといけない。

この新谷、ちゃっかりしていて、
スターターと記録係はマネージャーに事前に頼んでいた。

ピストルの音と同時に走り出した。
若干だと思うが、俺がリードをしていた。
直ぐ後ろに気配は感じるけど、俺のほうが前に出ている。
最終コーナーを曲がって、ラスト100m。

このまま勝てると思ったが、残り30mぐらいで抜かされた。
陸上やってる人なら分かると思うが、
直線で抜かれる事ほど屈辱な事は無い。

やっぱり新谷の方が速い、、、
悔しかった。。。

新谷は息を切らしながら
『ギリギリ勝てました、、、』
と笑いながら言ってきた。

「速いな、新谷、、、」

俺は震え声で絞り出すように言った。

その後は誰とも喋らずにストレッチをして、
着替えた。

帰ろうかと部室の外に出た時に、
気まずそうな顔をして、新谷が俺の前に立った。
なんだか腹が立ってきて

「どけよ!」
と言ったら、

陸上用のスパイクが入った袋を手渡してきた。

「先輩のスパイク、ボロボロだから遅いんですよね。。。これ、、、貸すんで、明日使ってください。」
と手渡された。

確かに、俺が使っているスパイクは中学2年の時に、買ってもらったヤツだ。

しかも、ビジュアル重視で選んだから、全体はレザーで出来ていて重たい。

スパイクの部分も何本か折れているし、
汗やら泥やら染み込んで、なんだか重たい。
裏面のゴムはすり減って、所々剥がれていた。
いろんな大会を共に走った思い入れもある。
愛着も湧いている。
コイツで大会を走ろうと思っていた。

新谷が貸してくれたスパイクは
先月買ったらしい。
最新式で、足の甲や横の部分はメッシュになっていて、足の裏にも所々に穴が開いていて、持っているのに持ってないみたいに軽い。
もちろん、スパイク部分にも欠損は無い。

『これで、僕も先輩たちと一緒に走れます!」
と言う。

なんだよ、この展開。
「新谷よ、少年ジャ⚫️プ読みすぎだろ、、、」と思ったけど、ありがたく使わせてもらうことにした。