「何と!武家の発祥たる坂東を治めるのは」
不服かと?」
秀吉は信雄の国替えを辞意する言葉に
驚いて見せた。
「不肖な手前にはこれ以上、
織田家を名乗る資格はありません」
怒りを通り越した信雄は
無表情に応えるだけであった。
「天下一統おめでとうございます」
秀吉は信雄の冷めた心根を読んだ。
家康もこの場にいる。
秀吉は静寂となる場の空気を
見渡す。
呆気に取られた顔をして、
ゆっくりと家康を見る。
家康も信雄の悲嘆に暮れて
お繰り返した話を秀吉に
話した。
小さく相槌をうち、
秀吉に決断を促す。
さり気なく見て見ぬふりをする
秀吉は、神妙な顔つきになる。
「なんぞ不満でもあるがかえ信雄殿?」
「悪い話でないだがね」
「武家の棟梁の鶴岡八幡宮も治めれるだがぇ?」
秀吉は困った顔をする。
信雄はうつむいた。
「この先、手前には人を差配する気力はありません」
周りがざわつく。
「どうか、この期に隠居と領土返上を
申し上げる!」
信雄には精一杯の抵抗であった。
「命令に背くカタチは処分となるがぇ?」
秀吉は信雄が演技でないと知る。
最大の敵となる織田徳川が手中に治まる。
悪い話では無いが頭が混乱する。
もっと抵抗してくれねば、
存分に処断出来ぬであろうが。
官兵衛に相談したいが、
大陸遠征の準備に博多へ駐屯させてる。
利休はこの場に居ない。
(半兵衛殿が生きてたらよき提案を
教えてくれるのに)
秀吉は刹那に悩む。
「⋯わかった」
「受け入れよう」
「織田家を退くがよい」
「吉法師は立派に成長させる」
岐阜城には信長の孫がいる。
それに織田家を統括させれば良い。
(織田家はこれで取り込みは終わったな)
秀吉は嬉しくは無い。
むしろいずれあの世で信長に
叱られると思うのであった。
「関東の仕置は本来、堀久太郎に任せるつもりであった」
「しかるに、突然の不幸により再考せねば
ならなかった」
「残念である」
「関東の仕置に奥州を含む、残敵掃討をせねばならぬ」
「今一度諸将らは忠勤に努めて」
「天子様を支える我らは」
「日ノ本を豊かにせぬばならぬ」
「あくる年にはさらなる重大な
発表をする故に」
「改めて気を引き締めて、
各々方は参集する様に」
秀吉は一気に奥州をも平らげる為の
総掛かりに入る。
続く🌷