PERFECT DAYS | LOVE&PEACE(町医者のつぶやき)

LOVE&PEACE(町医者のつぶやき)

横浜で呼吸器科の開業医をしている打越暁です。2008年に開業し、現在楽しく診療中です。今までにない癒しのクリニックを作る、という夢に向かって邁進中です。世界が安心平和調和で満たされますように。

今年も早いもので

2月に入っちゃいましたね。

年々時の過ぎるのが早くなっている感じです。

 

先日、品川の映画館で

ヴィムベンダース監督の「PERFECT DAYS」という映画を見てきました。

ヴィムベンダース監督は、ベルリン天使の詩、

などの名画をたくさん出している巨匠でドイツ人の監督、

そして主役は役所広司さんです。

 

いやぁ~感動しました。

とてもいい映画でした。

この映画は、ある意味、悟りの映画といっていいように思います。

地球に降り立った天使の映画といってもいいように思います。

いずれにしろ、僕が今一番大事にしたいことが、

ぎっしり詰まった映画でした。

 

この映画は、ネタバレになるので詳しくは言えませんが、

東京の公衆トイレを清掃する清掃員さんの話です。

役所広司さん演じる平山という男の、

ほぼ変わらないルーチンの生活を淡々と描いた作品で、

基本的には劇的なことは何も起こりませんし、

この平山もほとんどしゃべりません。

 

平山は、古いアパートに、一人で暮らしています。

朝、近所の人がほうきではく音で目を覚まし、

布団をきれいにたたんで、小さな植木に水をやって、

歯を磨いて、ひげを整えて、仕事用のつなぎに着替えて、

玄関前できれいに並べられたカギと小銭をポケットに入れて、

家を出ます。

家を出たら必ず空を見上げて、気持ちよく微笑むんですね。

そして缶コーヒーを買って、車にのって、

古いカセットテープで音楽をながします。

そして都内の公衆トイレを回るわけです。

 

公衆トイレの清掃はとにかく徹底的に、

小さな鏡を使って便器の奥の方まできっちり磨いて、

それはもう修行僧のように黙々とトイレ掃除をします。

 

公衆トイレの掃除は、人によっては見下すような態度をとったり、

ほとんど無視してトイレを利用しようとする人もいる中で、

それでも、そういった人が用を足すのを外でじっと待ちながら

空を見上げたり、木漏れ日を見上げたり、

公園で遊ぶ子供たちを眺めて、優しく微笑みます。

 

お昼ご飯はいつもの神社のベンチで、

木漏れ日の写真を撮ったり、鳥のさえずりの声を聞きながら、

また幸せそうにニコっと微笑むわけです。

 

仕事が終わったら、

近所の銭湯に決まった時間に行ってお風呂に幸せそうにつかり、

近所の居酒屋でいつものメニューで食事をとって、

家に帰って布団の中で読みかけの本を読みながら、

眠りにつく。

 

そんなルーチンの生活シーンが

淡々と繰り返されていきます。

映画の大半はもうほとんど無言のまま、

このルーチンの映像が繰り返されます。

 

これだけ聞くと、さぞかし退屈な映画に思われるかもしれませんが、

これがめちゃくちゃ面白い。

この平山が、嬉しそうに空を見上げたり、木漏れ日を写真で撮ったり

行きかう人々を優しそうに見ている姿、表情が、とってもいいんです。

平山が何気ない日常の中で時々見せるニコっと微笑む姿が、

本当に人生を静かに楽しんでいる感じが伝わってきて、

無茶苦茶いいんです。

 

時々平山のルーチンを崩すような人が出てきて、

平山とのやり取りが何だかユーモアがあって面白いんですね。

平山は終始寡黙ですが、誰に対しても本当にやさしいんです。

 

で、

これだけで終わらないのがこの映画のすごいところで、

平山の過去が、なんとなく におわされていきます。

はっきりと語られることはないんですが、

何か若いころに心に深い傷を負っているということが、

徐々にわかってきます。

 

どうも平山という人物は、相当のインテリだし

相当裕福な家庭で育っているようなんですが、

何か理由があって、清掃員の仕事を選んでいる、

ということがだんだんわかってきます。

 

誰にも言えないようなつらい経験を

過去に経験しているからこそ、

日々の小さな幸せをとても大事にし、

人や自然に対して、

あんなにやさしいまなざしを送ることができているんだ

ということがだんだんわかってくるわけです。

 

深い傷を負い、それを抱えながらも、

静かに日々の幸せを愛している平山の姿に、

じんわり感動するんですね。

 

木漏れ日、窓からさす光、好きな本...

そういった日々の小さな幸せで

平山は救われたんだと思います。

人はそういう一瞬の小さな何かに、

救われるってことがあるように思います。

 

この映画ではとても重要なテーマがある気がして、

それは光と影だと思います。光と闇といってもいいです。

朝日や木漏れ日のまぶしい光のシーンと対比するように、

モノクロの映像や影のシーンがたくさん出てきます。

それと同じように、平山の静かで穏やかな生活シーンの中に

モノクロの不安を感じさせるような

闇の映像が暗示的に映し出されます。

 

この世界、この人生というのは、陰陽太極図のように

光と闇が両方織り交ざったもので、それによって、

この世界や人生がものすごく意義深いものになると感じています。

 

光りだけでは光に気づけないし、

闇だけでも闇に気づけません。

光と闇はセットなんですね。

両方あって完璧なんじゃないかなと思います。

 

この世界やこの人生にたしかに闇があるからこそ、

この世界、この人生の小さな光にも

気づけるんじゃないかと思えるんです。

 

平山は、まさにそんな心の傷を負った人間で、

だからこそ日々の小さな光をちゃんと感じることのできる

愛深い人間なんだと思います。

 

平山の平凡だけど静かな喜びにあふれた生活を見ていると

人生って時に生きるのがなかなか大変ではあるけれど、

なんとも愛おしい素晴らしい世界なのかなって思えてきます。

 

喜びも悲しみも、光も影も、すべてあって完璧なんだ、

生きていることそのものが素晴らしいんだ、

まさに人生はPERFECT DAYSということを、

この映画は静かに教えてくれます。

 

この映画を見終わって、

しばらく僕は静かな感動に包まれました。

人生って時にとっても苦しいけれど、

なんて愛と奇跡にあふれているんだろうって。

そして、日々のルーチン化した当たり前の小さなことを、

ちゃんと味わおうと思いました。

 

ルーチンというのは、ちゃんと味わったら

全く一つとして同じ瞬間ってないんじゃないかなと思います。

全てが新しい瞬間なんですね。

僕はすぐにそのことを忘れてしまいます。

 

毎朝ちゃんと空を見上げようと思いました。

鳥の声や木々のざわめきに耳を澄まそうと思いました。

木漏れ日の中で、その瞬間しか味わえない光と風と木のハーモニーを、

もっと味わおうと思いました。

日々のルーチン化している生活を、

毎日新鮮な気持ちで味わおうと思いました。

今しかないこの瞬間をちゃんと味わおうと思いました。

 

この映画、本当におすすめです。

単にほっこりする映画ではないと思いますし、

劇的な物語を期待している人には退屈かもしれませんが、

愛とか、人の優しさとか、瞬間瞬間のこぼれそうな幸せとか、

大事なことがたくさん詰まった映画です。

 

できれば、おひとりでじっくり味わいながら

見られるといいと思います。

み終わった後に、

平山のように隣の人と目を合わせて微笑んでほしいと思います。

不思議とそんな気分になれる映画です。

 

ちなみに映画館で、僕の隣には、

内緒ですがピースの又吉さんがいました。

目は合いませんでしたが、

静かに感動している様子が伝わってきました。

いい映画を見ると、なんだか言葉のないところで、

人は繋がっていると思えるんですよね。

 

ではまた~