2020年1月25日(土)14:00~
神奈川フィルハーモニー管弦楽団 定期演奏会 みなとみらいシリーズ第355回
横浜みなとみらいホール 大ホール
指揮:オッコ・カム
ピアノ:牛田智大
2020年初めての牛田くんのコンチェルトです。
みなとみらい駅の改札を抜けてから、ホールまでの道のりが好き。
近未来的な赤くて長いエスカレーターに乗って上昇していると、気分も高揚してきます。
巨大な壁に書かれた、ありがたそうな言葉も、なんだか いい。
ホールもとっても素敵です。
プログラム
♪シベリウス:「レンミンカイネン」組曲 Op.22より第2曲「トゥオネラの白鳥」
♪ショパン:ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 Op.11
♪チャイコフスキー:交響曲第6番 ロ短調 Op.74 「悲愴」
ヘルシンキ出身のオッコ・カムさん。
スタンドカラーの黒の上下の衣装は、ちょっとプレトニョフさんを連想させました。
もとヴァイオリニストのオッコカムさんの指揮は繊細でエネルギッシュ。
フィヨルド、オーロラ、一面の雪景色。
1曲目の「トゥオネラの白鳥」は北欧の大自然の世界にいざないます。
曲が終わり、男性スタッフが3人がかりで運んできたのは艶やかなYAMAHAのピアノ。
ん?これはCFXではないかしら…?(当たりでした)
登場した牛田くん。
今日もハイネックに黒の上下の黒牛田スタイルです。
その登場の仕方が、なんというか、今までと違うんですよ。
登場の仕方、というか、彼の纏っている空気が。
うまく言えません。
大人なんです。
確立されてるんです。
そして、強いて言うのなら、チャクムルさんが舞台に登場した時からいつも柔らかな音楽を纏っているように
この日の牛田くん、既にショパンの音楽を身に纏っていました。
オケの演奏が始まりました。
それぞれの楽器が奏でる音色が溶け合って一本の糸を撚っているような、見事な音の融合でした。
ピアノの前に座り、音楽に身を委ねているソリストは
まだ鍵盤に指も置いていないのに、既に一緒に音楽を奏でているかのようでした。
そして、とうとう彼が紡ぎ出した第一音。
その瞬間から、私にとって、オーケストラの音さえも、どこか遠くに感じてしまうほど
その音は歴然としていて
力強く、透明で、気品に溢れていて
まるでキラキラと金色の光を放っているようでした。
この日のショパンを、私の拙い表現力でお伝えすることなどきっと出来ません。
書けば書くほど薄っぺらくなってしまいそうで…。
牛田くんの演奏でショパンピアノ協奏曲第1番を聴いたのは、1ケ月も経っていない大晦日の夜のジルヴェスターコンサートです。
あの時のショパン協奏曲、今までと全然違う!一皮剥けた!(偉そうですみません)と感じたにも関わらず
今日の演奏と来たら、さらに、さらに磨き上げられていました。
温かな大地のような低音。
透明な水の雫が戯れるような高音。
落雷を受ける大木のようなフォルティッシモ。
ダイヤモンドのような輝きを放つピアニッシモ。
二十歳のショパンが作ったこの曲を演奏する二十歳の牛田くん。
その横顔には、もう見慣れた十代の頃の幼さはなく
立派な一人の男性ピアニストでした。
寂しいのに心強い牛田くんのショパンは
しっかりした核を持ち 芯を持ち 責任を持っているように感じました。
きっと牛田くんが向き合って 向き合って 向き合って 辿り着いたこの音楽は
なんと人の心を強く揺さぶるのでしょう。
胸の奥からどうしようもなく熱いものがこみ上げてきました。
第2楽章の繊細で優しくて美しいことときたら!
幸福なため息のようなその音色。
なんて人の心の琴線に触れるのでしょう!
自分の頬が濡れているのに気づいてハッとしました。
ショパンピアノ協奏曲第1番って、泣ける曲だったっけ?
きっと涙って 本当に美しいものに触れると自然に出て来るものなんですね。
2楽章の後半の方で、牛田くん演奏しながら、一瞬左手の人差し指を立てて口元に持って行きました。
なんとも美しく優しいこの仕草。
彼のこの在り方に、彼の音楽に、きっと会場中が牛田くんと牛田くんのピアノに恋をしたでしょう。
ああ、このまま時間が止まればどんなにいいだろう…。
私、想像出来ました。世界中が牛田くんのピアノに恋をするその時が。
第3楽章は今までの悩みや葛藤をすべて吹っ切ったように
明るく、まっすぐで、雄々しくて
そう。牛田くんの演奏は、全体的に若い男性の強さとまっすぐさに溢れていました。
時々口元が「パパパ…」と歌っています。
指揮者のように片手を振り、踊るように体を揺らし
登場した時と同じ。彼そのものが音楽でした。
朝を告げる鳥のさえずりのような
白い帆を膨らませて大海原に漕ぎ出す舟のような
大自然の中を駆け抜ける渓流のような
命の息吹を感じる第3楽章。
身体の奥底から、生命のエネルギーが沸き上がってくるのを感じました。
なんだろう?この熱い高揚感。
牛田くんの奏でる唯一無二のショパンピアノ協奏曲第1番!
約40分の間、彼は別の時代の別の次元への旅に、私達を連れて行ってくれました。
ああ、早く世界に牛田くんのピアノを聴かせたい!
みなとみらいホールの舞台が、ワルシャワフィルハーモニーのように感じられました。
演奏が終わって、オッコ・カムさんとガッチリ握手。
長い時間、深々と頭を下げて、拍手の中、袖に消えて行きました。
聴衆の熱い拍手に応えて再三姿を現しましたが、アンコールはありませんでした。
うん、いいんです。この素晴らしい余韻にいつまでも浸っていたいから。
あれこれ脱線したかったけど、今日はこのくらいにしておきます。
本当に素晴らしかったこの余韻をこのままにしておきたいので。
お読みいただき、ありがとうございました。






