イカロスⅤとさすらひのちゃりんこ野郎
~1985年-1986年 輝之21歳~
時が止まる。
長勝寺の三門に粉雪が舞う。
たかだか三百年じゃないか。
法隆寺なんかと比べられない。
しかし
雪の白の中にどっしりとかまえる姿は
不思議と心を落ち着かせる。
なんにも心配することなんてないんだよ。
人生たかだか百年じゃないか。
そんなものあっという間さ。
俺だって大きな顔して立っているけど
たかだか三百年しか生きちゃいないんだ。
大自然に比べりゃ粉雪のようなものさ。
俺みたいに
どっしりと地に足つけろよ。
生まれて初めてだ。
時が止まったのは。
それは、俺が真剣に生きていなかったからかもしれない。
とにかく時が止まった。
いつまでもこうして、ここに座っていられるよ。
それは三門の威容と粉雪のせいだ。
静かに降り続く粉雪があってこそ
時が止まるんだ。
そう、あの芦野公園みたいに。
そういや、あの時も止まったんだ。
静かだ。
すべてを雪が吸収してしまうように。
静かだ。
かやぶき屋根のつららから落ちるしずくの音だけが
粉雪の舞を伴奏している。
静かだ。
長勝寺