ヒデさんと一緒にいるのが苦痛になっている。話が通じないからだ。
で、この地域に住む人の大学の同窓会があり、いつもはヒデさんと一緒に参加していたが、今年は私は行かないことにした。どうせもう同じ顔触れ、新しい話題などないのだ。大学時代には嫌っていた校歌大合唱なども、一回ぐらいなら我慢するが何回もやるのは恥ずかしい。それに私は酒を飲まないから、会費が高すぎる感じがする。酒を全然飲まない人は、宴会の会費を安くしたほうがいいのではないかなあ。
同窓会当日の土曜日、ヒデさんは宴会の会場へ、私は小さいライブハウスへ出かけた。ピアノ、バイオリン、フルートのトリオが、隔月でゲストを招いて演奏会をやるのだが、今回は津軽三味線との共演。三味線奏者はこの町で酒場を開いていてなかなかの腕前だそうで、前から聞きたかった。それを、この意外な組み合わせで聞けるのだから、行かなくてどうする、と楽しみにしていたのだ。結果は大満足。ひと気のない道を余韻に浸りながら帰ってくる、なんていうのもこの町ならではだ。
さてその翌週のこと。火曜日にヒデさんは近藤さんに電話したそうだ。近藤さんは同い年の理工学部出身。ヒデさんは時々一緒にハイキングに出かけたり、喫茶店に呼び出してお喋りしたりしているらしい。なんか暇なので、また呼び出そうと電話したら、近藤さんが、
「今日はいいでしょう。明日会うのだから」と言ったのだそうだ。まったく覚えのないヒデさんが、どういうことかと問い返すと、
「土曜日に約束したでしょう。メモを書いて渡しましたよ」と言われたという。
ヒデさんは同窓会に着ていったジャケットのポケットを探ってみた。する本当に近藤さんの字でメモが出てきた。
「4/20(水) 11時半迎え ハーベスト農場」と書いてある。
同窓会参加者の一人、小田さんと3人で水曜日にハーベスト農場へ昼食を食べに行こうと決めたじゃないか、と近藤さんに言われても、ヒデさんにはまったく記憶がなかった。
翌日水曜日、本当に小田さんが迎えに来た。そしてヒデさんハーベスト農場なるところへ出かけて行った。浅間山麓のちょっと高みから、佐久平を見下ろし、八ヶ岳連峰が眼前に広がる美しい場所だったという。
「それで、どんな話をしたの?」と私は尋ねる。だって土曜日に会ったばかりなのに、また水曜日に会おうというなら、何か話したいことがあったのだろうと思えるではないか。
「それが、何の話がしたかったのか分からないんだ。小田さんが何やら一人でしゃべり続けていたけれど」とヒデさん。
「大体、どうしてまた3人で会おうということになったのよ?」と私はたたみかける。
「いや、それが分からないものだから、待っていても何がメインテーマかは分からずじまいだった」とヒデさん。
「今日は、なぜ会うことになったんでしたっけ?と率直に聞けばよかったのに」と私。
「うん。そうだけど」とヒデさん。
こうやって、だんだん取り残されていくのだろうか。