ヒデさんは、夜明けごろになると死にたくなるという。
時折、口に出して、死にたい、という。
やだよ、そういう暗いのは、と私は思う。
ほんとに死にたいの?とあるとき訊いてみた。
死にたい、と言う人に限って長生きするらしいよ、とも言った。
「こわいんだよ」とヒデさんは言う。
「おふくろが100歳だろ、ボクもそれくらい生きるんじゃないかと思って」
ヒデさんの母親は、昨年夏に100歳の誕生日を迎えた。
ところがそのころ、面倒を見てくれている長男の嫁の母親が亡くなった。
それで、母親の100歳祝いは、延ばし延ばしでいまにいたっている。
ヒデさんは、本当に100歳まで生きるかもしれない。
いまのところは、私の方が元気に見える。
私は年甲斐もなく毎日2キロのジョギングをしている。
体操も欠かさない。
ヒデさんは、歩くのものろくなり、私は一緒に歩くのが苦痛だ。
けれどヒデさんは、よく眠る。よく食べる。
眠れないということを、ついぞ知らないという。
私より長生きする可能性は高い。
で、こんな提案をした。
「1週間に1回、夕飯をつくってよ。買い物まで含めて全部責任持ってやってよ」
ほんとにそれくらい息抜きがしたい。それにこれは、ヒデさんの頭にもいいはずだ。
「いやだ」とヒデさんは言う。
じっさいヒデさんの能力では、かなりの負担だ。
「でも、私が死んだらどうするの?」と私はたたみかけた。
そしたら、なんて言ったと思う?
「そうなったら必然的にやるわさ」だって!!
頭にきた。じゃあいなくなってやる、と本気で思った。
ヒデさんが言ったことを忘れてしまわないように、ノートに書きつけた。
「2017年3月24日午前11時40分、ヒデの発言」の一行も書き加え、電話の横のよく見る場所に置いた。
翌日、その下に何やらくちゃくちゃとした文字を発見。
「誠に申し訳ない。ヒデ」とあった。
だがね、ヒデさんは、ほんとうに100歳まで生きると思う。
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