書斎にいたら、ヒデさんが入ってきた。
「こんどの日曜日、ダンクさんが来るんだ。行きがかり上、夕飯をうちでご馳走したいんだけど」とヒデさんがいきなり言い出した。
「ダンクさんって、誰?」と尋ねると、
「滝沢くんの高校時代の同級生なんだ」と言う。
「は? あの同僚だった滝沢くん?」と訊くと、そうだという。
しかしヒデさんの同僚の滝沢くんなんて、私はたった1回ちらりと会ったことがあるだけだ。その高校の同級生のダンクさん??一体何の話だ?
「あなたは、そのダンクさんに会ったことがあるの?」とヒデさんに訊いてみた。
会ったことはないが、ネット上で滝沢さんに紹介されて2,3年にわたってメールのやり取りはあるという。
そんななかでダンクさんが、趣味のバイクのツーリングでこの近くまで来ると言ってきて、そのときちょっと会いたいというような話になったようだ。
「でもねえ、ヒデさん」と私は、心してゆっくりと分かりやすく話した。
私にしてみれば、一面識もないばかりか、名前、それも偽名(ハンドルネームというらしいが)を、たった今聞かされた人に、家に来られるのも抵抗があるのに、そのうえ夕飯をつくれなんて、とんでもない話なんだけど。
あなたとダンクさんをつなげた滝沢くんでさえ、私は名前を聞いてはいるけど、ろくに知らないのだから。
ヒデさんは、私の話を聞いてはじめて、しまった、うかつだった、と反省したらしい。
するとこんどは、にわかに心配をし始めた。
「ダンクさんは、滝沢くんの友達だから、悪い人じゃないと思うよ」
私は悪い人とは、別に思っていないのよ、とまたヒデさんに噛んで砕くように説明する。
面白い人だったら、私も話に加わるよ。だけど、会ったことがない人だから、もしかしたら一緒に食卓をかこむなんて気が進まないかもしれないでしょ。だから日曜日に会ったら、うちでコーヒーをご馳走して、そのあとは外で一緒に夕飯を食べるぐらいの予定にしておいたらどうなの?
そんなふうにして夜を迎え、9時ごろだっただろうか、電話が鳴った。
私がとると、ダンクさんの本名が名乗られた。今日ダンクさんが日曜日にこのあたりにくるとのメールが来て、その返信でヒデさんは電話番号を知らせたと言っていた。すぐにヒデさんに取り次ぎ、電話が終わったらしいのを見計らって、どんな電話だったか聞きに行った。いまのうちに聞いておかないと、ヒデさんが忘れてしまうからだ。
すると、ダンクさんは「今日お電話をいただきましたか?」と電話してきたという。
へんじゃない? やだなあ、電話番号を知らされたのでお喋りしようとでも思ったんじゃない?と私は思う。
ヒデさんは、電話が来たこと自体に不機嫌だ。
ね、今の世の中、電話番号や住所さえもうかつに教えちゃダメなのよ。あなたは電話が来るのが嫌いなのに、なぜ教えたの? 連絡はメールで充分なのに。と私はヒデさんに追い打ちをかけてしまった。
ああ、ダンクさんが、感じのいい人であることを祈るばかりだ。