67_クスクスと逆子 | クルミアルク研究室

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沖縄を題材にした自作ラブコメ+メモ書き+映画エッセイをちょろちょろと

「わたまわ」エピソードは基本的にすべて「沖縄糸満の軽石被害に寄付しようキャンペーン 第3弾」参加作品です。

この記事の英文は翻訳会社チェック済みです。

「わたまわ」エピソード、設定は夏場。サーコはもうすぐ臨月。彼女のモノローグです。

お試しバージョンとして小説ながら目次を作成しました。クリックすると各意味段落へジャンプします。

 

目次
1.クスクス
2.逆子

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1.クスクス

 

7月3日はジングの誕生日だった。
アフリカへはなかなかプレゼントの届けようがない。ジングたち宣教師団はあちこちのキャンプを移動するので、本部事務局へ立ち寄るのが1ヶ月以上先になるのもザラだという。
結局、いつもの如くSkypeを繋ぎリャオと2人で簡単なやりとりをした。宣教師コースのディプロマ取得祝いと合わせて、今回の誕生日は現地スタッフにも大きく祝ってもらったらしい。
「沖縄へ帰ってきたらちゃんとケーキ買ってお祝いしようね」
そういうとジングは、トモはニッコリして言った。
「そうそう、一昨日リャオへ誕生日プレゼント送りました。2週間くらいかかるそうです」
リャオが驚いて目を丸くする。
「私に、プレゼント? 何送ったの?」
ジングは意味ありげに笑った。
「届いたら分かりますよ」

そしてきっかり2週間後。
あたしが買い物から事務所へ戻ると郵便局から不在連絡票が入っていた。差出人がAfricaとあるが、きっとジングのことだろう。
妊婦の大敵は肥満だ。体調が良かったので、買い物袋の中身をしまって再び階下へ。モノレール安里駅から壺川駅へ向かい、那覇中央郵便局で小包を受け取った。懐かしいジングの字で、宛名は漢字で金城明生様になっている。

リャオの帰りは夜7時を回っていた。あたしはスーツ姿の“あきお君”に小包を見せた。
「なにこれ?」
リャオは手早くシャワーを済ませる。金城社長から教わった漢方薬が効いてきたのか背中の吹き出物は目立たなくなったらしく、最近あたしはシャワールームから呼び出されなくなった。彼はムームーを着て“あけみさん”姿で小包を開く。
出てきたのはパスタの詰め合わせ。couscous(クスクス)って書いてある。ジングのメッセージも添えてある。

“Happy Birthday my dear AKEMI!”
(親愛なるあけみ、お誕生日おめでとう!)

“When I go back to Okinawa, please make me some taboulé aux crevettes.”
(私が沖縄へ戻ったら「エビのタブレ」を作ってね)


(image: Photo by Jo Sonn on Unsplash)
ちなみに写真はビーガン(ベジタブル)タブレ、要するにクスクス入り野菜サラダのようです。

“Your cooking is the best in the world! Love, your Tomo.”
(君の料理は世界一!  君のトモより)

「……誕生日プレゼントに食材送りつけてメシ作れって? しかもLoveだって? あいつ、何考えてんだ?」
困惑する“あけみさん”の横顔を見てあたしはひたすら爆笑していた。

 

2.あけみさん、寝込む

 

2025年8月11日 
現在9ヶ月、34週です。ライカが逆子になって、自然に治るだろうと思ってたら、ずっとずっと逆子だった。
そして担当医が帝王切開を提案した。36週あたりからは帝王切開の適応になるらしい。ただ、旧盆前に赤ちゃんが出てくると何かと大変なのよ。

周囲から逆子体操がどうとか、鍼灸に行くといいとか言われたけど、ママがあたしを産むときそうやって頭位に戻して結局吸引分娩だったと言い、強く帝王切開を勧めた。
「無理に自然分娩する必要ないわ。自然分娩したからといって優れているわけでも偉いわけでもないんだから」
そうかなあ。自然が一番な気もするんだけど。と思ってたらリャオが手を挙げた。
「私も帝王切開がいいと思います」
ええ? どうして?
「さつきさんが言う通り。リスクを押して無理に自然分娩する必要はないよ。9月はじめ、旧盆終わったら手術したらいい。そしたら38週でちょうどいい」
「私も賛成です。この病院は設備も申し分ない。安心して産むといいですよ」
社長さんまで! えー、信じられない!

と思ってたら、話が見えてきた。
要するに帝王切開の方が何かと計画しやすいんですよ。リャオは年休取りやすい、社長さんも動きやすい。それから、ママが女性特有疾患の保障が手厚い保険にあたしを入れてて、帝王切開は入院1日目から手厚くカバーされるんだって。そういえばリャオと韓国へ行く前に何やら書類にサインしたっけな。これだったのか。
「お金はちゃんと返ってくるから、麻子は何も心配しなくていいのよ。まさかあんた達、この先何人も子供つくるわけじゃないでしょ?」
確かに、「何人も」はできないと思う。リャオはアセクシュアルで一人目だって授かるのか疑問だったし、次回自然妊娠で出来るかどうかなんて怪しいもんだ。
……でも、なんだか、体よく騙されている気がするのは気のせい?

夜、アフリカのジングへラインして聞いてみる。珍しくあたし、英語で打ちます。

“My baby was in breech position at my last doctor's visit. The doctor says I have to have C section.”
(前回の診察時では、赤ちゃんが逆子になっていました。お医者さんは帝王切開かもと言ってます)

忙しいだろうと思ってたらすぐ返事きた。

“I was born by C section because of a breech birth.””
(私は逆子のため帝王切開で産まれました)

ジングって逆子だったの? 帝王切開で産まれたんだ! 後で聞いたら韓国って帝王切開率は日本より高いみたい。ふーん。

“Wishing you a healthy delivery.”
(安産をお祈りいたします)

あたしは、ありがとうのスタンプを返した。
(67_クスクスと逆子 FIN) NEXT:68_旧盆でーびる (1)

 

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青春小説「サザン・ホスピタル」などリンク先はこちらから。サザン・ホスピタル 本編 / サザン・ホスピタル 短編集 / ももたろう~the Peach Boy / 誕生日のプレゼント / マルディグラの朝 / 東京の人 ほか、ノベルアップ+にもいろいろあります。

 

小説「わたまわ」を書いています。

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