明日は明日の風が吹く(3)(4) | クルミアルク研究室

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沖縄を題材にした自作ラブコメ+メモ書き+映画エッセイをちょろちょろと

当記事は「第2回沖縄・糸満の軽石被害に寄付しようキャンペーン」該当記事です。「いいね」1つにつき10円を糸満市へ寄付します。詳しくはリンク先をご参照ください。

 

沖縄を舞台に展開する青春小説「サザン・ホスピタル」本編Part4Ch.08より「明日は明日の風が吹く」後編を転載してみます。時間設定は2001年3月後半。前半から順番良く読んだ方が本筋を捉えやすいと思いますのでどうぞノベルアップ+へ飛んで下さい。リンクは(1)です。

 

 

正直申し上げますと「サザンホスピタル」本編・短編集ともに沖縄方言記述に伴うルビタグが大量発生するため(今回は手術用具の英語ルビタグが多めですが)、ブログへの転載は不向きです。Google Search Console からも警告を受けています。キャンペーンのための転載で今回で終了予定です。ご了承下さい

今回は上間勉(うえま・つとむ)のモノローグになります。お試しバージョンとして小説ながら目次を作成することでノベルアップ+版とほぼ似た仕様でのご提供を考えました。今回は(3)からスタートです。クリックすると各意味段落へジャンプします。

 

目次
3.耳かきタイム(決して真似しないで下さい)
4.復職

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3.耳かきタイム(決して真似しないで下さい)

 

At the Southern Hospital, Nakagusuku Village, Okinawa; March 14, 2001.
At the Southern Hospital, Nakagusuku Village, Okinawa; March 22, 2001.
Now, the narrator returns to Tsutomu Uema.

 

三月二十二日。
その日の朝、僕はヒゲを剃った後、耳かきをしていた。どうも耳かきという動作は命に全然かかわらないせいか、入院しているとずっと忘れやすい。ちなみに僕は「飴耳」だ。一週間に一度は掃除をするようにしているのだけど、耳垢が粘っこくって綿棒を一度に三本くらい使うため、すぐにストックがなくなってしまう。

え? どうせなら多恵子に膝枕でやってもらったら、だって?
読者の皆さん、現実はそう甘くはありません。
あいつの耳掃除は、でーじ、怖いんです!

それは、多恵子のバースデー休暇の前日のことでした。僕が耳掃除をお願いすると、
「はい、そっちに横になってねー」
指示に従ってベッドに横になったら、なんと、どこからともなくロープを持ち出して、僕の体をぐるぐる巻きにし始めた。しかも顎とかしっかり固定されるし?! 抵抗しようにも、僕は障害者で、多恵子は馬鹿力の持ち主です。かないっこありません。
かろうじて目玉だけベッドサイドに向けたら、たかが耳掃除だってのに、手術室から借りたんでしょうか。アリス鉗子(Allis' clamp)メイヨー(Mayo scissors)クーパー(Cooper scissors)とかをサイドテーブルに並べだしたんですよ。
 

手術器械

その上
「じゃ、まず、右の耳毛切りますねー」
と言って、右耳の中に冷たーい鼻毛切りのハサミを入れるんですよ!
「や、やめろ! お前、何をする?」
「お客さん、動いたら、耳、切るよ?」
……怖いので、大人しく身をゆだねます。
「うわー、お客さんの耳毛は長いねー。いっぱいあるねー?」
耳の中で響き渡るジョキジョキという音……。生きた心地がしません。
「あー、どうせならメッツェンバウム使いたいなー」
お嬢さん、僕の狭い耳の中で手術のマネゴトはやめてください。君は確かに手術室ナースだけど、執刀できるわけじゃないんだし。第一、メッツェンバウム(Metzenbaum scissors)は刃先こそ丸いが、全体的には細長くてしっかり尖っているんですから!

「はい、耳毛を切りましたよー。一度、綿棒で取りますねー」
ようやく、まともな耳掃除だ。綿棒が耳の中を往復し、やれやれと胸を撫で下ろす。が、今度は……、君、それは、ピンセット(tweezers)
「あー、動かないで! 耳の奥にでかいのがくっついてるから」
って、ペンライトまで差し込んで、耳の壁をゴシゴシこするなー! 怖いし、冷たいし、痛い!
「見てごらん、こんなでっかい耳垢が、壁にへばりついていたんだよ!」
わかった、わかったから、あとは綿棒だけにしてくれ。頼む。
「じゃ、今度は反対側ですねー」
そういってベッドのストッパー外して、ガラガラと動かした。僕が目玉だけ反対側を向けると、多恵子が椅子ごと移動して左の耳元に座った。
「いやー、こっちも耳もすごいですねー。しかも、耳の穴がカーブ状に曲がってますよー」
また、ジョキジョキという音……。お願い。そこまで徹底してキレイにしなくてもいいから。しかも、鼻歌で「耳切(みみち)坊主(ぼーじ)」歌いながら耳毛切らないでよ! 怖いから!

 

※音量注意※ 20:30すぎから字幕と日本語訳付きで「みみちりぼーじ」の歌が流れます。この動画結構怖い、かも)

 

「じゃ、今度はコッヘル使ってみようかなー」
お嬢さん、結局(いゃー)や、ただ自分(どぅー)ぬ好みさーに器械(ぐゎー)選どーさ、や? ()れー、(あし)ぶし、あらんどー?
「はい、おしまいですよー。お疲れ様でしたー」

ようやく解放された僕は速攻でトイレへ駆け込み、すぐに両耳を触って異常がないことを確かめたのだった。

 

4.復職

 

At the Southern Hospital, Nakagusuku Village, Okinawa; March 22, 2001.
The narrator of this story is Tsutomu Uema.
 

コツコツコツ。
「おはようございます。上間先生、これからリハビリですよね」
照喜名(てるきな)先生がやってきて、ニコニコしている。
「どうです、今日は白衣着てみませんか?」
僕は耳を疑った。白衣だって? まだ四月じゃないのに?
彼は僕の前に真新しい白衣を持ってきた。
「まあ、いいじゃないですか。着てみるだけですよ。さあ!」

照喜名に言われるまま僕は久々に白衣に袖を通し、松葉杖をついて一階のリハビリルームに到着した。一歩足を踏み入れた、そのときだ。
パパーンとクラッカーの音とともに、拍手と指笛が鳴り響いた。
「上間先生!」
「復職おめでとうございまーす!」
「う待ちそーいびーたんどー!」
僕はあっと声を上げた。田本ユミさん、ER看護士のナカダさん、そして、セラピストの皆さんと入院患者さんたちが、ぐるっと僕を取り囲んで温かい拍手をしている。
「上間先生! 帰ってきたんだね?」
そう叫びながら、真っ先に僕の前に飛び出して抱きついたのは、なんとカカズコウヘイ君だ。
「良かったよー。先生が医者辞めるかもって聞いてさ、ずっと、ずっと気が気じゃなかったぜ?」
カカズ君はそう言って泣きながら、僕の手を強く握った。
「俺、今度の春から、高校通うから! 高校行きながら、週末はここでリハビリのボランティアするから! そして、卒業したら、看護学校行って、看護師になるから! だから、俺が一人前の看護師になるまで、絶対、辞めんでよ? ね、絶対だよ?」

縋りつき号泣する彼を抱え、頭を撫でながら、僕は心の中で舌打ちした。
まいったなー。これでまた、サザンに問題児が増えるやっさー? でも、暴れん坊の患者さんには、これくらいやんちゃなスタッフのほうが、ちょうど釣りあっていいかもしれないな。

僕は研修医時代のように、リハビリルームの窓際に腰掛けると、病室から粟国さんが運んでくれたサンシンを手にとって「祝い節」と「ヒヤミカチ節」を弾いた。周りから温かい拍手が流れた。すると、今度は照喜名がクラリネットを手に僕の側へやって来て「クラリネットこわしちゃった」を吹いたものだから、患者さんたちが大笑いし始めた。
僕らは二人で、ABBAの“Thank you for the music”とBOOMの「島唄」を合奏し、最後に「唐船(とうしん)どーい」を奏でた。ユミおばぁを先頭に、患者さんとスタッフが一斉にカチャーシーを踊りだした。まさに研修医時代の再来、いや、それ以上の盛況ぶりだ。調子に乗った僕は思わず十分以上も延々と弾き続け、照喜名が息を切らしてふらふらしているのを尻目に、歌声を張り上げた。
やがて僕がサンシンを弦弾(ちるび)ち(二つ以上の弦を一緒に弾く奏法)してフィナーレを告げると、大きな拍手が沸き起こった。ナカダさんの甲高い指笛を合図にどこからともなく三三七拍子が始まり、カカズ君が応援団みたいに仰々しく両手を振ってポーズを決めた。

こうして、僕の人生は再出発の途についた。
その後、リハビリアドバイザーを経て整形外科医として本格的に復帰した後も、毎週火曜日にはリハビリの正担当者として、僕はここでサンシンを弾くようになる。セラピストをはじめ、大勢のスタッフの手助けとやってくる患者さんたちの笑顔が僕を支え続けてくれる。だから僕はこの仕事を誇りに思いながら、彼らへの感謝の念を胸に、サザン・ホスピタルで多忙な日々を送っている。
復職してからの僕は、今までより患者さんと向き合う時間が増えた。七月には手術現場にも完全復帰し、電子カルテの管理や研修医の指導も任されるようになった。その結果、宜野湾の新居に帰るのはたいてい午前様で、あの手紙に書いていることを守ってない、と、多恵子には毎日怒られている。

でも、僕は知っている。彼女も心の底では絶えず僕を応援し、支え続けているってことを。オぺの助手として、人生の伴侶として、彼女は僕のプライマリ・ナースで居続けてくれる。
彼女は僕を、無条件で受け入れてくれた。 だから僕も、できるだけ、彼女に対してはそうあり続けたい。
一人前の男としての僕、整形外科医としての僕は、まだ、はじまったばかりだ。

(明日は明日の風が吹く:FIN)

なお、これでPart4 Starting OverもFINになります。あとはエピローグが続きます。下記の本編リンクはアルファポリスのものでPart3まで転載しました。ノベルアップ+もアルファポリスも縦書きブラウンジングが選択可能で読みやすいですよ。

 

つけたり:「わたまわ」のこちらのエピソードも「耳切坊主」がらみでございます。怪談動画をリンクしてお待ちしています。

 

 

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青春小説「サザン・ホスピタル」などリンク先はこちらから。サザン・ホスピタル 本編 / サザン・ホスピタル 短編集 / ももたろう~the Peach Boy / 誕生日のプレゼント / マルディグラの朝 / 東京の人 ほか、ノベルアップ+にもいろいろあります。

小説「わたまわ」を書いています。2月中に非表示になります。今ならまだ間に合います!:exblogへ飛びます。
当小説ナナメ読みのススメ(1) ×LGBT(あらすじなど) /当小説ナナメ読みのススメ(2) ×the Rolling Stones, and more/当小説ナナメ読みのススメ(3)×キジムナー(?)