20時50分
寂しさを埋めるように、シェリーが私にくっついてくる時間は倍増。
8時頃に母が帰ってくるまで、シェリーはそのままじっと待っていた。(シェリーが任命した)朝晩の薬とブラッシング担当の母にたっぷり撫でられて間もなく、呼吸が変わった。
シェリーは約束を守ってくれている。
末っ子シェリーは、長女クロと次女ふにゃのところにお出かけして行った。
1993年秋。
札幌で1人暮らしをしていた弟と出会って家族になったシェリーは、まだ手のひらにちょこんと乗るほど小さい、おてんばで臆病なお姫様だった。
弟が、父の跡取りとしてシェリーと一緒に小樽に帰って来たとき、我が家にはクロとふにゃが先住していた。
とても優しい性格のクロ、懐っこい性格のふにゃはシェリーをすぐに妹として受け入れた。
クロにはすりすりと甘え、ふにゃにはちょっかいを出すシェリーは、本当に本当に可愛かった。
でも、臆病な性格は時として凶暴さに変わり、猫からライオンへと豹変することも多々あったっけ

知らない人が来たとき、クロが病院にかかって他の動物の匂いを着けてきたとき、大きな音にびっくりして飛び上がったときなどは、怯えて唸り、手を出すとかじったり引っ掻いたり

弟には従順だったけど、臆病なあまり人に懐くタイプの子ではなかった。
それでも共に暮らして行くうちに少しずつ人を好きになって行き、歳と共に穏やかになって行き、ライオンへと豹変することはなくなった。
シェリーが大きく変わったのは、ふにゃがクロの元へと旅立った日。
弟が結婚して家を出て、シェリーはそのまま我が家で暮らしていたけれど、2004年にクロが旅立ち、2010年にはふにゃが旅立ち、シェリーは本当に寂しかったのだと思う。
それからは私にベッタリになった。
ふにゃは私が名古屋で1人暮らしをしているときに家族になった猫。ふにゃだけは私の部屋で寝ていたし、シェリーにとって私とふにゃはセットだったのかもしれない。実は少しふにゃに遠慮していたのかな?
寂しさを埋めるように、シェリーが私にくっついてくる時間は倍増。
それまで嫌いだったブラッシングをねだるようになり、膝の上で寝るようになり、布団に入ってくるようになり、私を起こすときは顔をペンペン叩く。
そんな愛おしい毎日だった。
甘やかされて甘やかされて、自由に我がままに暮らしていたシェリー。いつも家族の中心にいて、みんなを笑顔にしてくれていた。
そんなシェリーと私は、たった1つだけ約束をしてた。
いつかクロとふにゃのところに行くときは絶対1人で行かず、みんながいるときに私の腕の中から行くんだよ。
シェリーの旅立ちの日。
私と父は家にいたけれど、母が不在。前日から用があって泊まりがけで出かけていた。帰ってくるのは夕方以降。
シェリーは昼頃から深い深い眠りにつき、もしかしたら間に合わないかもしれないと思っていた。でも、シェリーのいいように、好きなようにしていいんだよとずっと声をかけていた。
その間、何も知らない甥っ子たちがたまたま来て、シェリーに会うことができた。近くに住んでいる姪っ子たちは学芸会が終わった後に会いに来てくれた。人見知りだったけど、甥っ子や姪っ子のことは家族だとちゃんと知っていたシェリー。遊びに来ると自分も仲間に入れてとでも言うように側に寄って行った。みんなみんな、シェリーを可愛がってくれた。ありがとうと、みんなに言えてよかったね、シェリー。
8時頃に母が帰ってくるまで、シェリーはそのままじっと待っていた。(シェリーが任命した)朝晩の薬とブラッシング担当の母にたっぷり撫でられて間もなく、呼吸が変わった。
シェリーを抱き上げて膝に乗せ、自分も呼吸を整えながら語りかける。
シェリー。
みんなここにいるよ。
よく頑張ったね。
もう頑張らなくていいんだよ。
ありがとう。
…別れのときは近い。
覚悟はしていても、涙が溢れ出る。心臓が苦しい。頭がガンガンする。
その瞬間。
突然弟がやってきた。
「心配だから今日、泊まろうと思って来たんだけど。」
シェリーは、弟が来るのも知っていたんだろうか。待っていたんだね。
頭をよぎるシェリーと私の約束。
私の腕の中から行くんだよ。
シェリーは約束を守ってくれている。
と、一瞬迷いが生じた。
でも、弟と出会ってうちの子になってくれたシェリー。離れて暮らすようになってからも、やっぱり弟が来るといつも嬉しそうだったシェリー。
…悔しいけれど

弟にシェリーを渡した。
それから数分。
いつ心臓が止まったのかもわからないくらい穏やかにシェリーは旅立った。
最高の家族孝行だったね。
旅立つ日の朝まで自分の足で立ち、粗相の1つもせず、水を飲んでほしかった私の願いを聞き入れるように1度だけ自分で水を飲んでくれた。
耳はちょっと遠かったけど、最後まで足も目も歯も丈夫でいさせてくれたこと、神様に感謝せずにはいられない。
シェリー。
21年間、一生懸命生きたね。
本当によく頑張ったね。
クロとふにゃ、迎えに来てたでしょ。
可愛い妹が迷子にならないようにって一緒に迎えに来てたよね。
うちの子になってくれてありがとう。
いつも笑顔にしてくれてありがとう。
たくさんの幸せをありがとう。
約束を守ってくれてありがとう。
いっぱいいっぱいありがとう。
今までも、これからも、いつまでも。
シェリーは私の宝物だよ。
ありったけの愛情を注いだ自信はあるけれど、シェリーには伝わったかな。
シェリーは幸せだったかな。
伝わったよね。
幸せだったよね。
シェリー。
次の約束、しよっか。
いつか私がそっちに行くときは迎えに来てね。方向音痴だからさ…。
そして、また一緒に遊んでね。


