今日は、いい男と、銀座でデートだった。
デートの定義は、男女が日時を合わせてある場所で会うことで、あたしは恋愛感情の有無に関わらず、「友達」とカテゴリー分けされる男とでも、男女ふたりで出かけることを、デート、と呼んでいる。
とにかく今日は、銀座でデートだった。
いい男、というのはあたしの好みの男、という意味でもあるが、客観的に見ても、たぶん、6割方いい男、と呼ばれる男であろう、男性である。
187cmもある身長、特別にオシャレでもないけれど、決してはずさないファッション、原子力の研究者というレアな職業、車は黒のハリヤー、30歳独身、穏やかな話方、高校時代の部活は野球部、そして何より、女性に優しい。
彼は、2年前より渾身の片思いをしている男の、高校の同級生である。
そんな彼と、今日は銀座でデートだった。
ちなみに、銀座でデート、という響きがいいので、何度も繰り返して書いている。
目的は「彼女へのプレゼントを選びたい」とのこと。
いい男の彼女の話は、実につまらないものであるが、彼の場合、あたしにもそれなりに優しく、そして冷たくしてくれるので感じがいい。
『なに、買うの?』
東京駅で待ち合わせをしていたので、向かう電車の中でメールをした。
『まだ、決めてないです。』
そっけないメールが返ってきたわりに、会って聞いてみると「サイフか、クラッチバックか、ブーティーか、指輪か、そんな感じにしようと思ってるんだけど…」と、控えめな感じで言う彼。
「えっ サイフかクラッチバックか!?けっこう果敢に攻めるなぁ!10万くらいするよ?」 と言うあたし。
「うん。今回の出張で、宅急便のこととか色々やってもらったし、お世話になったから、借りは返したいと思いまして。」と実にサラリと言うのだ。
彼は研究者なので、発表や研究や学会などの長期出張で家を空けることが多く、今回は3ヶ月ほど留守にしていたので、そのお返しをしたいと思っているらしい。
「す すごいね。わかった。ブランドとか、決めてるの?」とあたしは調査をすすめる。
「う~ん… とりあえず、クロエか、プッチか… そんな感じ。」
「えっ プッチって… エミリオ・プッチ!? す すごいね。わかった。じゃあとりあえず、クロエでも見に、ミッドタウンへ行く?」と提案し、ミッドタウンへ向かう。
あたしはハッキリ言って、クロエのバッグは超好きだけど、サイフはあまり好きではない。ごつごつしていて厚いし、あのかわいいチャームが、なんとも重い。
ディスプレイされているサイフを一つ一つ手に取り、白い皮の「ミルク」とネーミングされた白の長サイフを手に取る。それは比較的、かわいい。
「いいんじゃない?かわいいよ、それ。使いやすそうだし。」
「う~ん…」
「ひっかかるところは何?」
「うん、彼女に、合うかなと思って。」
「合わないかも、と思う理由は何?」
「いや、いつも持ってるカバンがね、ヴィトンの黒のエピラインの少し大きめのやつなのね。それに、これって合うかな?」
と彼がうじうじしているので、とりあえず一旦引いて、少し歩きながら考えることにした。
ミッドタウン内のカフェでお茶しながら彼は言う。
「俺ね、実は、彼女のファッションってあんまり好みじゃなくて。けど本当は好きなものを身に着けていればいいと、思ってるんだけど、俺がかわいいと思ってるものを、彼女にも身につけて欲しいのね。」
「ふんふん。」
「だから、クロエのサイフはかわいいと思うんだけど、少し、彼女よりではないというか…。ヴィトンの、黒のエピだよ?」
…確かに、なんとなく的を得ている意見である。
綺麗目コンサバファッションをしている彼女には、クロエのオフホワイトの長サイフは、なんとなく、あまりマッチするという感じはしない。
「もっと、彼女が喜んで、けど俺がかわいいと思っているものをあげたい。けど、彼女が選ばないような、そんな感じのもの。」
「じゃぁ とりあえず、プッチに行こうよ。プッチ見てから、いいものなかったらクロエ買ったほうがいいよ。」と促し、ターゲットのゲット場所を、銀座に移す。
銀座に向かう途中に「ねぇ ちなみに、どうしてエミリオ・プッチなんてブランド知ってるの?確かにメジャーだけど、男の人には認知度が低いと思うし、やっぱり普通の男性は、あんまり知らないと思うけど。ゲイ以外。」と聞いてみる。
「インターネットで調べて、かわいいと思ったから。」と彼は実にサラリと答えるのだ。
「えっ じゃあ自分でかわいいと思って知ったの?」
「うん。かわいいじゃん。」
なんと。あたしは感動してしまう。
プッチは確かに、とてつもなくかわいい。
ピンクや白や、さまざまの模様が折り合って、実にかわいい雰囲気とデザインをかもし出している。
けれど、そんな女性の心をくすぐるブランドを、彼女のプレゼントのためという理由で、自分で調べる日本人男性が、この世に存在していたとは…。
そんなことを話しているうちに、エミリオ・プッチ銀座店に到着し、並んでいる長サイフたちを見て、まったく関係のないあたしがビビビ! ときてしまう。
だって、エピの中から、こんなにカラフルでキュートでオシャレなお財布が出てきたら、誰だってかわいい~~となるではないか!
そしてそれが、男からのプレゼントだなんて、ますます羨ましい。
そしてそして、自分が希望せずに、男が自ら選んだプレゼントだなんて、涙がでるほど羨ましい!
6つくらいのチョイスの中から、結局彼は今年の新作の少し大きめ(高め)の長サイフをクリスマスプレゼントとして選んだ。
プッチの店員さんと、「彼が自分が何も言わないのに、プッチのこれを選んだなんて、感動しますよね!ホント彼女がうらやましいっ!」とキャイキャイ話ながら、お店をあとにしました。
「今度はぜひ、自分の男を連れてきま~す」なんて笑顔で言って。
ルイ・ヴィトン、グッチ、ディオール、コーチ、エルメス、ミュウミュウ、なんてスーパーブランドは、確かにすっごくかわいいけれど、10人いたら8人は何かしらのバッグやサイフを持っている。
その中で、エミリオ・プッチは女の子み~んながかわいい!と思っているけど、なんとなく、手を出さないブランドだ。
自分で買うには、少しチャレンジ精神が必要なのだ。
それを、スマートに選んでくれる彼氏。
少し他の世界も見て欲しい、といいながら。
こんな彼氏、素敵だなぁと思う。
高額なプレゼントを、そうやってホイッと買ってしまう彼の経済力も素敵だけれど、そういうところが本当に素敵でいい男なのだ。
クリスマスイルミネーションでキラキラした東京を、そんな男と、7㎝のヒールを履いて、一緒に歩く。
まぁ いいか。
オシャレで優しく、長身のいい男に、オシャレなプレゼントを一緒に選んで欲しいと言ってもらえるなんて、名誉なことだ。