人間、生まれてきて、死ぬまでに、
何度自分の名前を呼ばれるだろう。
何度、大切な人の名前を呼べるだろう。
どんなにありふれている名前でも、
ヘンテコな名前でも、
その名前は、自分という存在を、
一番わかりやすく相手に伝える名称だと思う。
だからこそ、子どもが出来た時、
こんな子どもになって欲しい、
こんな大人になって欲しい、
こんな風に、誰かに愛されて欲しい、
色んな想いを込めて、
子どもに名前をつける。
名前で呼ばれることが、
当然だと思っていた。
でも、
大好きな人から、
名前で呼んでもらえるって、
こんなにも特別で、
こんなにもステキなことだった。
もしかすると、もう二度と、
父はうっくんの名前を口にすることはないかもしれない。
そう思うと、
今まで何度呼ばれたかわからない、
父の声のそれが、
急に懐かしく、
愛おしく思えた。
もう一度だけでいい。
うっくんのこと、
名前で呼んで欲しい。
父の声の、うっくんの名前を聞きたい。
この際、あだ名のまる子でもいい。
もう一度、呼びかけて欲しい。
でもきっと・・・
うっくんのショックの比ではないほど、
それにショックを受けているのは父に他ならない。
うっくんは、
なんとか明るくふるまって、
面会の後、ICUを出た。
うっくんと、母に会話はなかった。
夜には姉二人も来るということで、
うっくんは、バイトに向かうことになった。
病院の駐車場に行き、
車の中に乗り込む。
一人になると、急に、
色んな現実が見えてきた。
仕事をしている父の姿、
母がベタベタに甘えて、
それを「ばぁーか」と笑ってあしらう父の姿、
うっくんが母に「クソババァ!」とケンカして言った時、
初めてお尻を何十回も叩いた、父の激怒した顔、
お刺身を食べる時に、
「お母さん、この醤油腐ってるよ。」
とイソジンと醤油を間違えて、
家族に大笑いされ、
こっぱずかしそうにしている父の顔、
大けがして、血まみれでヘラヘラ笑って
「ただいまー」
と玄関に立っていた時の、父のホラーな映像、
うっくんが大けがした時に、
夜な夜な看病してくれていた父
この間の検診で、別れ際に
照れながら手を挙げていた父
そんな姿は、
きっともう、見られない。
うっくんは、ハンドルに突っ伏して、
声を上げて泣いた。
たまたま流れていた曲が、
マッキーの濡れひよ子で、
バス停から家まで雨に降られて
傘を忘れた僕は濡れひよこ
「ただいま」「おかえり」
今日も一人で言ってしまった
僕は濡れひよこ
今日はあこがれのあのこに
映画の誘いを断られ
土砂降りにみまわれて
ほんとついてない
やっぱついてない
※だけどがんばれ!濡れひよこ
ゴボウを笹掻きにして
きんぴらを作るんだ
あしたも元気で行こう
そうさ がんばれ!濡れひよこ
お風呂で暖まったら
ちゃんと乾かしてから寝れば
もとのひよこ※
タオルを首に掛け 鏡をのぞく
ほっぺがすこし桜色 濡れひよこ
「おやすみなさい」と
ふるさとにおじぎして
目覚まし時計あわせて目を閉じる
大好きな人を一人ずつ
思い浮かべていたら
ちょっぴり涙が出てきた
出てきちゃったよ
今日はおやすみ 濡れひよこ
明日は天気になれ
楽しい夢を見れるよう
神様にお願いして
そうさがんばれ!濡れひよこ
明日は新しい
ゲームの発売じゃないか
ちょっとわくわくしてきたぞ
大変なのはボクだけじゃない
わかっているけど
人の気持ちをのぞきたい
そんな事を考えて
比べても仕方ないと
一回起きあがると
窓の外を眺めて
手のひらを ちょっとグーにした
父を想って泣いた。
「明日から、みんなでがんばらなきゃ」
と思って泣いた。
父からの、自宅の留守電のメッセージを、
つい2~3日前に消去してしまったことを後悔して、また泣いた。
その日、
バイトから帰って、
うっくんはインターネットで脳梗塞について色々調べた。
父の年齢で、5年生存率は50%を切っていた。
その画面を呆然と見ながら、
また涙があふれてきた。
その一方では、
「まさかあの強い父に限って、そんなことはない。
今までの入院だってそうだった。
”なーんだ、元気になったじゃん!”
”心配して損した!!”
と笑って言えるようになる日が、必ず来るんだ。」
と信じて疑わないうっくんがいた。
留守番電話を再生してみる。
「録音件数0件です」
電話の声が、虚しく部屋に響いた。
留守電に録音されていたのは、
前回父が入院していた時に、
うっくんが、箸を膳に乗せたまま返却してしまって、
箸がないことに気づいた父から、メッセージが入っていた。
「おーーい。まるこぉ~。
お父さんですぅー。
お前、箸、どこにやったぁ~?
ないぞぉ~~。
・・・ふっ・・・(笑)
箸ごと戻したかな?」
照れながら入れている声。
ガチャガチャン と、公衆電話の受話器を置く音。
全部憶えている。
ツカモとの今後を、なんとなく考える時、
今の自分でいいのか? と自分を反省する時、
就職活動がすごくしんどかった時、
なんとなく、いつも再生して、
数えきれないくらい、何度も聞いていた。
照れ笑いをしながらしゃべる父の声が、妙にかわいくて好きだった。
母からのメッセージと、父からのメッセージ、
お気に入りのものだけ、
なんとなく消去できずに残していたけれど、
それがいっぱいになってしまって、
新しい録音が入る度に、
全部再生されるのがウザくなって・・・
で、
ふと、
”うわっ!自分ファザコンやん!”
と我に返って、
一瞬ためらったけれど、全消去してしまった。
また激しく後悔が襲ってきた。
あの照れ笑いをするお父さんの声、
また聞きたい。
ファザコンでもいいじゃん。
なんで消しちゃったんだろう。
ずっと残しておけばよかった。
やっぱ今度にしようって後回しにすればよかった。
電話の前にへたりこんで、
また大声で泣いた。
何度自分の名前を呼ばれるだろう。
何度、大切な人の名前を呼べるだろう。
どんなにありふれている名前でも、
ヘンテコな名前でも、
その名前は、自分という存在を、
一番わかりやすく相手に伝える名称だと思う。
だからこそ、子どもが出来た時、
こんな子どもになって欲しい、
こんな大人になって欲しい、
こんな風に、誰かに愛されて欲しい、
色んな想いを込めて、
子どもに名前をつける。
名前で呼ばれることが、
当然だと思っていた。
でも、
大好きな人から、
名前で呼んでもらえるって、
こんなにも特別で、
こんなにもステキなことだった。
もしかすると、もう二度と、
父はうっくんの名前を口にすることはないかもしれない。
そう思うと、
今まで何度呼ばれたかわからない、
父の声のそれが、
急に懐かしく、
愛おしく思えた。
もう一度だけでいい。
うっくんのこと、
名前で呼んで欲しい。
父の声の、うっくんの名前を聞きたい。
この際、あだ名のまる子でもいい。
もう一度、呼びかけて欲しい。
でもきっと・・・
うっくんのショックの比ではないほど、
それにショックを受けているのは父に他ならない。
うっくんは、
なんとか明るくふるまって、
面会の後、ICUを出た。
うっくんと、母に会話はなかった。
夜には姉二人も来るということで、
うっくんは、バイトに向かうことになった。
病院の駐車場に行き、
車の中に乗り込む。
一人になると、急に、
色んな現実が見えてきた。
仕事をしている父の姿、
母がベタベタに甘えて、
それを「ばぁーか」と笑ってあしらう父の姿、
うっくんが母に「クソババァ!」とケンカして言った時、
初めてお尻を何十回も叩いた、父の激怒した顔、
お刺身を食べる時に、
「お母さん、この醤油腐ってるよ。」
とイソジンと醤油を間違えて、
家族に大笑いされ、
こっぱずかしそうにしている父の顔、
大けがして、血まみれでヘラヘラ笑って
「ただいまー」
と玄関に立っていた時の、父のホラーな映像、
うっくんが大けがした時に、
夜な夜な看病してくれていた父
この間の検診で、別れ際に
照れながら手を挙げていた父
そんな姿は、
きっともう、見られない。
うっくんは、ハンドルに突っ伏して、
声を上げて泣いた。
たまたま流れていた曲が、
マッキーの濡れひよ子で、
バス停から家まで雨に降られて
傘を忘れた僕は濡れひよこ
「ただいま」「おかえり」
今日も一人で言ってしまった
僕は濡れひよこ
今日はあこがれのあのこに
映画の誘いを断られ
土砂降りにみまわれて
ほんとついてない
やっぱついてない
※だけどがんばれ!濡れひよこ
ゴボウを笹掻きにして
きんぴらを作るんだ
あしたも元気で行こう
そうさ がんばれ!濡れひよこ
お風呂で暖まったら
ちゃんと乾かしてから寝れば
もとのひよこ※
タオルを首に掛け 鏡をのぞく
ほっぺがすこし桜色 濡れひよこ
「おやすみなさい」と
ふるさとにおじぎして
目覚まし時計あわせて目を閉じる
大好きな人を一人ずつ
思い浮かべていたら
ちょっぴり涙が出てきた
出てきちゃったよ
今日はおやすみ 濡れひよこ
明日は天気になれ
楽しい夢を見れるよう
神様にお願いして
そうさがんばれ!濡れひよこ
明日は新しい
ゲームの発売じゃないか
ちょっとわくわくしてきたぞ
大変なのはボクだけじゃない
わかっているけど
人の気持ちをのぞきたい
そんな事を考えて
比べても仕方ないと
一回起きあがると
窓の外を眺めて
手のひらを ちょっとグーにした
父を想って泣いた。
「明日から、みんなでがんばらなきゃ」
と思って泣いた。
父からの、自宅の留守電のメッセージを、
つい2~3日前に消去してしまったことを後悔して、また泣いた。
その日、
バイトから帰って、
うっくんはインターネットで脳梗塞について色々調べた。
父の年齢で、5年生存率は50%を切っていた。
その画面を呆然と見ながら、
また涙があふれてきた。
その一方では、
「まさかあの強い父に限って、そんなことはない。
今までの入院だってそうだった。
”なーんだ、元気になったじゃん!”
”心配して損した!!”
と笑って言えるようになる日が、必ず来るんだ。」
と信じて疑わないうっくんがいた。
留守番電話を再生してみる。
「録音件数0件です」
電話の声が、虚しく部屋に響いた。
留守電に録音されていたのは、
前回父が入院していた時に、
うっくんが、箸を膳に乗せたまま返却してしまって、
箸がないことに気づいた父から、メッセージが入っていた。
「おーーい。まるこぉ~。
お父さんですぅー。
お前、箸、どこにやったぁ~?
ないぞぉ~~。
・・・ふっ・・・(笑)
箸ごと戻したかな?」
照れながら入れている声。
ガチャガチャン と、公衆電話の受話器を置く音。
全部憶えている。
ツカモとの今後を、なんとなく考える時、
今の自分でいいのか? と自分を反省する時、
就職活動がすごくしんどかった時、
なんとなく、いつも再生して、
数えきれないくらい、何度も聞いていた。
照れ笑いをしながらしゃべる父の声が、妙にかわいくて好きだった。
母からのメッセージと、父からのメッセージ、
お気に入りのものだけ、
なんとなく消去できずに残していたけれど、
それがいっぱいになってしまって、
新しい録音が入る度に、
全部再生されるのがウザくなって・・・
で、
ふと、
”うわっ!自分ファザコンやん!”
と我に返って、
一瞬ためらったけれど、全消去してしまった。
また激しく後悔が襲ってきた。
あの照れ笑いをするお父さんの声、
また聞きたい。
ファザコンでもいいじゃん。
なんで消しちゃったんだろう。
ずっと残しておけばよかった。
やっぱ今度にしようって後回しにすればよかった。
電話の前にへたりこんで、
また大声で泣いた。