< 小説 遡上 12(まいまいつぶろ2“まいまいつぶろ”の街で)> | カラオケ大好き!

< 小説 遡上 12(まいまいつぶろ2“まいまいつぶろ”の街で)>

メルマガ『自分探しの心の旅』第564号(平成23年09月08日)より
 
 
「でも、それだけ損な役回りをしてきて、よく20年もつづいたもんだね。どこかに楽しみとかを感じないと無理かと思うんだけど…」

私は、自分が好きでやってきた趣味に対しネガティブなことしか言わない守屋に、少しイライラしていた。

「創造する手ごたえとでもいうのでしょうか…それとそのはかなさかな」
「だって、その創造することを許されていなかったんでしょ」
「総合芸術とかいいますからね。最低でも2,3ヶ月、長くて1年かけるわけですよ準備に。で、本番が2日か3日」
「要するに裏方の仕事にも創造性を感じていたということ?」
「最初の劇団に元プロの裏方の巨匠がいましてね…その人は昔、映画会社の美術部にいた人で日本映画の創世記というか黄金期というか、そのころの裏話なんかを酒を飲みながらよく話してくれたんですね」
「ごめん、裏方にも花型はあったね。言い換える。こま使いにも創造性を感じていたの?と聞けばよかった。で、そういう人間関係に魅力を感じて続けることができたと?」

私は皮肉のつもりで言ったのだが、どうも本人には通じていないらしい。

「最初に入った劇団についていえば、そのご隠居さんの魅力というか人間性というか、裏方、とりわけ舞台セット作りの技というか腕というかいろいろ教わりましたから…」
「なるほど。でも、辞めるとき御隠居から止められなかった?」
「他の創立メンバーから愛想つかされてましたからね…同情というか…逆に励まされましたね」
「私が疑問なのは、守屋さんが、その後も便利屋屋のように都合よく使われてきたのになぜ、演劇という趣味を続けられたか?ということなんだな。いくら何時かは…って思ったって長すぎる。何か御褒美というか楽しみというか、そういうものがないと、やってらんないでしょう」

私は何とか守屋のホンネの部分を引き出そうと試みた。

「創造する手ごたえと、違う人生を“演じる”ってことで感じる手ごたえとでもいうんでしょうかね」
「チョイ役にも魅力を感じていたと受け取っていい?」
「チョい役といってもですね、ひとつの舞台で5~7役もやったこともありました」

そうだろ、そういうことだろ!よっぽど言ってやりたかったが私は我慢した。

「すごいじゃない」
「主役じゃないのに楽屋に持ち込む衣装や道具が一番多いんですよ」
「もう少し、自分のやってきたことに誇りを持ってもいいと思うよ。内心はそうおもっていると思うけど…。趣味の世界だからって、あまりにも否定的なことしか言わないから、ちょっと気になってたんだよ。もちろん悔しい気持ちは分かる…とまでは言わないまでも、理解できるつもり。でももう少し自己肯定が必要な気もする。自分は役に立ってきたし、周囲から頼りにもされていた…みたいな。ただの便利屋じゃあ可哀そう過ぎるでしょう」
「まあ、自己満足のレベルですからね…こんな形で終わってしまったのは無念ではありますが、仕方ないと受け入れるしかないと…ただ、せりふの無い舞台を横切るだけの一瞬の出番でも生きてるという充実感を感じていたのは事実です。あと、打ち上げの酒の味。これがあったからいろんなもん犠牲にして20年も続けられたのかな」

私たちは御茶ノ水の安居酒屋で話をしていた。
できれば“まいまいつぶろ”にしたかったが、既にその店は無くなっていた。
 
                           つづく

さて、ここまで続いた連載ですが、実はここから先行き詰まりメルマガの連載も中断しています。したがって、ここからは書き下ろさなければなりません。
果たして続きが書けるでしょうか。
読者の皆様の期待が力になるかもしれません(^^;