深々と静かに雪が降り続いている。耳が痛くなる程に雪が音も熱も全て奪って静寂を保つ。凍えそうな外とは違い、じんじんと温い気温に包まれ、文次郎は囲われていた。火鉢の炭が時折弾け、それだけが音を生み出していた。凍えている訳ではないが、火鉢の隣に座り微動だにしない。嘗ての目の輝きが失われてただ其処に居た。
此処に囲われてもうどの位になるか、数える事すら放棄した。文次郎を攫い囲っているのは学園にいた頃追い掛け回していた一つ目。にたりと厭らしい笑みに彩られていた目元は忘れられない。一つ目は何時からか文次郎に執着しだした。最初こそは揶揄いだと憤慨していた文次郎に焦れたのか、突然この離れへと攫い鎖で繋いだ。当然反発するも、現役の忍頭に勝てるも無く。最初は身体を奪われた。腐った蜜のような甘さを伴い優しく、無体を働いた。吐き気がする程優しく壊れ物を触るように文次郎を暴いていく一つ目に身体を、自由を奪われた。性行為が初めてというわけではないし、生娘のようにガタガタと恐れ泣いた訳ではない。感情が死に表情が抜け落ちた。
この離れには一つ目しかやって来ない。食事を持ってくるのも一つ目だけだ。何処かで誰かが監視している訳でもなく、此処に文次郎が居る事を知っているのが一つ目だけなのだ。不必要な動きをしなくなった文次郎を鎖で繋ぐのを止め、此処から出ないようにと一つ目は言い含めるだけになっていった。朝、温い蜜の言葉で起き、焼けそうな程の熱い視線に見守られ、噎せ返る程の愛撫で床に就く。その繰り返しだ。どろりとした睦言を流し込まれる度に思考力が薄れていく。薬に漬けられたみたいに。
パキン、と炭が爆ぜた。その音を切っ掛けに文次郎が外に繋がる戸へと手を伸ばし立ち上がった。何の抵抗も無く開く戸を開け、着物一枚裸足のまま外へと踏み出した。さくりと踏む雪は切り付けられているように痛い。ふらふらと雪が降る中彷徨う。行く宛など無い。何故外に出たのかすら分からない。景色全てが白で埋め尽くされている。一つ目の黒と正反対の色。ふと立ち止まった瞬間に温くて熱い黒いものに包まれた。そして微かに聞こえる置いていかないで、という懇願。震えているのは文次郎か一つ目か。そこで一つ目の名前は何と言うのだったか、と空を仰ぎ口を開く。
「曲者」
あぁ、心まで奪われる。
