ネグレクトが作る心の傷は病んでいることを自覚させない | ただいま、おかえり

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山田花畑の番外編

一時、休日の早朝に毎週コーヒーを飲みに来ていた友人がいた。
Sさんとしよう。

よく近所で見かけたので、声をかけあうようになり、立ち話をするようになる。
Sさんはウツだと言った。

表情が乏しく、目線は遠くを見ており、時折り息を吐くように少しだけ笑う人だった。
母子家庭で、成人した上の子を筆頭に、数人のお子さんと暮らしている。

ウツと診断されて10年になるそうだ。
一人でいるのがとても不安で、衝動的に孤独が耐えられなくなり、成人して家を出た娘さんに電話をかける。
初めのうちは、飛んできてくれたが、しばらくするとなかなか来てくれなくなったそうだ。
仕事をしていれば当然のことと思うが、Sさんは「とても辛いのに何で来てくれないんだろう?」という。



以前は離婚した旦那さんが、遊んで暮らせるほどの生活費を入金してくれていたそうだが、ここ数年の不景気で振込額は 20 万円を切るという。
生活費の補填に、アルバイトをしているが、長続きしないのだそうだ。


立ち話が度々長くなるので、一度お茶に誘った。

改めて話してみると、自己評価が非常に低く、自分が大嫌いだそうだ。
お子さんに対しての母性は感じられず、具合が悪い自分を面倒見てくれるのが当然と思っている。

お茶やお菓子を勧めると、とても喜んですぐになくなってしまう。
私の部屋をとても気に入ってくれたようで、一人は怖いからまた来たいと。

平日は仕事があるため、休日の早朝しかゆっくりできる時間がないと言うと、しばらくの間 6 時台にお茶を飲みに来ていた。

自己評価が非常に低いので、お母さんとの人間関係は良くないであろうことは推測できた。
そして、お母さんは自分中心で子供にあまり関心がなかったのではないかと思われた。

聞いてみると、そのとおりだったらしく、意外なことに私が言い当てたことに大きな喜びを示した。

それくらい、彼女は人に関心を持ってもらう機会がなかったのである。
結婚して次々子供を産んだのは、欲しくて産んだのではなく、旦那さんの要求に従っただけだという。

だから旦那さんの浮気が発覚し、離婚が決定的になった時、自殺未遂を起こしている。
それ以来、町医者にかかって大量の薬を服薬している。

精神疾患は薬では治らない。
症状を抑えたり、一時的に軽くすることはあっても、心の傷まで治すことはできないため、カウンセリングを行ってくれる病院へ行くことを勧めてみた。

良くなるのか?と聞かれたので、医者に寄りかかるのではなく、完治させるかは自分次第だと伝えた。
すると
「ええーーー、寄りかかりたーい」
と。

S さんには、治りたいという気持ちはなかった。
誰かが自分のそばにいて、気持ちをかけてくれていればそれで満足なのである。
それはなぜか?

S さんは、かなり小さいうちから極度のネグレクト状態であったことが推察される。
お母さんは機能不全の状態にあったため、S さんはスキンシップや言葉がけが圧倒的に不足している。

だから、人生の最初に必要とされる基礎的な欲求が未だに解消されていないのだ。
そして、健全な状態で生きたことがないので、治すことで訪れる明るい人生を思い描けない。

従って、治したいと切実に思うことができない。

S さんは一人が怖いため、私をはじめとした近所に住む数人の友人のところに足を運ぶようになった。
そして長時間帰らないため、迷惑がられるようになった。

S さんには、治療を続けてもらうよう説得し、友人には距離を置いてもらうよう説明した。

親からのネグレクトが深刻であると、その子供には不安を解消するための依存心が増幅する。
S さんには悪質な行動は見られなかったが、人によっては、一人にならないためにあらゆる手段を使って他人を巻き込むケースがある。

暴力や執着などの親の異常より、ネグレクトが及ぼすダメージの方が、子供の心に救い難いほど大きい傷を作る。
人格障害の陰には、ネグレクトが存在している場合が非常に多い。

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