一人目のお子さんが 2 才になる頃、再就職を果たす。
仕事は忙しく、育児もそれなりに大変である。
幸い理解のある職場だったので、 Y さんは遅刻しながらも出勤し、仕事をこなしていた。
ようやく仕事が軌道に乗ってきたところだったが、二人目を出産。
しかし、一年ほどで再び仕事を始める。
小さいお子さんを預けての仕事は切なくないのか、余計なお世話と思いつつそれとなく聞いてみたことがある。
すると
「育児はどんなに頑張ってもお金がもらえない。でも仕事はやった分お金がもらえて評価してもらえるから、どっちが良いって聞かれたら、お金をもらう方が良い」
思ってもみなかった勇ましい回答に面食らった。
育児より外に出る方が良いと言うのだ。

しかし、二人目のお子さんの育児には少々手こずったようで、数ヶ月働きに出たものの、家に戻ってしまった。
かけがえのない大事な時期であるから、じっくり子育ても悪くないのではと思っていた。
そんなある時、数人の友人で休日ランチでもしようと言う話になった。
育児中で、移動の厳しい仲間の家に集まることになった。
Y さんにも声をかけたところ、お子さんを連れて参加したいとのこと。
電車で一時間と少し、小さなお子さんにとっては耐え難い?旅路だったろうが、よく頑張ったと思う。
仲間の家に到着すると、Y さんは廊下に自分の子供を連れだし、ほっぺたを叩いて怒り出した。
友人たちは何が起きたかと驚いた。
Y さんは、訪問した家に迷惑にならないよう、自分の言うことを絶対に聞くよう、叩きこんでいる様子。
まだ 2 歳そこそこのお子さんは、恨めしそうな顔をして、お母さんをにらみつけていた。
そして言いつけを守らず、他の子の持っていたおもちゃを横取りし、取られた子供が泣き出し、横取りした子は、Y さんに殴られ泣き出した。
一瞬その場が騒然とした。
Y さんは、再び子供を廊下に連れだし、怒鳴りながら何度も叩いた。
そうこうしているうちに、家で留守番をしていた上の子から、具合が悪いと電話がかかってきた。
周りはあっけにとられ、、逃げるように家に帰る Y さんを無言で見送った。
一体何がしたかったのだろう?
どうして自分の子供を怒鳴りつけて、叩いてしまったのだろう?
なぜ逃げるように帰ってしまったのだろう?
何より、小さな我が子を鬼のような形相でバシバシ叩いている姿にドン引きしたようだ。
少し時間を見て、恐らく凹んでいるであろう Y さんにメールを送ってみた。
Y さんは私が心の勉強をしているのを知っている。
Y さんから勇ましい回答をもらった頃から、彼女が抱えている爆弾のようなものが気になっていた。
なので小児科の先生が書いた、比較的わかりやすい、子供の心の本を後日送ってみた。
数日空白があった。
なぜかその空白がとても重苦しく感じた。
そして Y さんから長いメールが来た。
とても悩んで書いてくれた様子が伝わってきた。
Y さんは、お母さんを人として尊敬できなくて、苦しんできたとのこと。
何度もぐれてしまいたいと思ったこと。
でも、まっとうに生きてこられて自分は偉いと思ったこと。
友人宅で子供を叩いている自分を見ている私の目が怖かったこと。
子供を叩いたことで、私からこんな投げかけがあることを予想していたこと。
衝撃を受けたのは、私よりも友人達だったのに、見えていなかったようだ。
確かに残念ではあったが、その後のことの方が気になっていた。
落ち着いたらまた食事の機会を作ろう、そして、いかなる事情があろうとも、どうか子供を叩いたり罵倒しないで欲しいと付け加えて返信した。
それ以来、音信不通となった。
以前紹介した網谷由香利先生の本にこう書いてあった。
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子供を育てているお母さんの 「心の中の子供」 が SOS を出している。
人は心の中に、子供の側面を持っている。
養育過程において、理不尽な環境を強いられた場合、心の中の子供は苦しみを抱える。
そして大人になっても、苦しみを抱えた子供の心は苦しいままなのだ。
お母さんになった時には、子供を育てる以前に子供のままの自分の心が解決できていないため、育児に無理が生じるのだ。
お母さんの 「心の中の苦しい子供の心」 を解決してあげなくては、次の世代の育児に大きな禍根を残すことになる。
苦しかったら子供を叩かずに、自分が苦しいと言って良いのだ。
苦しいから、子供が可愛いと思えないと言って良いのだ。
ドアを閉じないで良いのだ。
自分の傷に蓋をしてはいけない。
それは恥ずかしいことではないし、隠すことでもない。
無理をしてはいけないのだ。
負の連鎖に気付く手がかりを、もっともっと世の中に記してゆきたい。
きっと Y さんのように、一人で苦しんで心のドアを閉じているお母さんがたくさんいると思うのだ。
そんなお母さんたちの苦しみを解決することが、次世代の子供の不幸を解決する唯一の方法だと思うのだ。
子どもの「こころの叫び」を聴いて!/第三文明社

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