弟が脳梗塞で倒れてから早6ヶ月が
過ぎていきました。
 

担当医の説明では6ヶ月間
ありとあらゆる治療を施しても
改善の効果の伴わない患者は・・・
 

終末医療だけが残される
看取り病棟へ移される決まりに
なっているそうで・・・
 

弟は先月末にそこへ移されました・・・
 

免疫力がなくなり
自力で熱は下げられず・・
 
 
お薬が切れるとあっという間に
高熱状態が続き・・・
 

尿も自力では出ず
カテーテルを尿道の中に
挿入して人工的に排出される
導尿措置が施され・・・
 

喉の下には痰を排出する管が差し込まれ
それが胸元からあふれて苦しんでいても・・
 

看取り病棟の看護師さんの数は少なく
誰か家族がいないことには
気づいてもらえず一人苦しむので
 

義妹と二人の妹たちが昼間は3人で
交代しながら介護をしています・・・
 
 
脳梗塞が脳幹の近くで起こってるために
絶えず襲ってくる・・けいれん・・に
 

弟は必死に両手の指先を握って耐えるために
手のひらが破れて血まみれになるとかで
タオルのハンカチが握らせてありました・・
 
 
胃瘻してあっても通りが悪いので
何回も胃瘻の穴を差し替えるため
 

お腹に当てられたガーゼは
血に染まって真っ赤になってるのを
看るのが痛々しいと・・
 

看取り病棟に移る前に
年子の妹が言っていました・・・
 
 
一番苦しむのは吸痰をするときに
あまりのつらさに体が海老反り状態になり
 

最後には血液まで痰と一緒に
吸引されているとか・・・
 
 
海老反りになり苦悶の表情を浮かべ
死ぬほどのつらさを日に何回も・・
 

時には何十回も吸痰の苦しみに遭いながら
もうやめてくれと声にすることも出来ない弟・・
 

ひっきりなしに出てるしゃっくりを
止めて貰うことも出来ず・・・
高熱の中で生かされてる命・・
 

それでも目は見えて
耳はよく聞こえていました・・
 
 
わたしたち3人が(わたし、年子の妹、4女クン)
同時に顔を出し・・・
 
 
「Y!(弟の名前)わたしたちが誰か解るか?
 
 
みんな揃って(・・・身長は低くなったけど
お腹の周りだけは・・・)
LLサイズでやってきたよ!
 
 
わたしは福井から見舞いにやってきた
一番綺麗な(とは誰も思ってないけど)羽やで!」
 
 
と弟の目の前で言うと・・・
いつものように思わず吹き出しそうな笑顔が
一瞬見られました・・・・
 
 
そして次に年子の妹が「Y右を見て!わたしHやで!」
と言うとそちらへ目線を送り

4女クンが 
「兄ちゃんの可愛いたった一人の妹Mやで!
わかるか?」と声かけすると
 

穏やかな表情を浮かべ
4女クンを見つめると・・・
みるみる泣き出しそうな表情に変わりました・・
 
 
弟とは昔から親族の葬式がある度に・・
長いお経に退屈して・・・
 

お経の文句に・・
「モモコヤソモコヤトモコヤモコモコヤ」?
 

の下りになるとはわたしと弟とは
「又、昔つきあった女のことをお経の中で
忘れずに逝けちゅうてんのやろなぁ・・」と
 

二人で指で体をつつき合って
下を向いてククッと
笑いをこらえた 記憶があります・・・
 

そんなときにはいつも亡き母には
顰蹙を買うと言って叱られ・・
まじめな姉からは睨まれ・・
 

わたしと弟だけは葬式の最中に
型破りなことをやって楽しんでいました・・
 

弟がこうなってしまったのは
その罰当たりな行為をし続けてきた
先祖のたたりか・・・?
 

ならば次のたたりはわたしや・・・?
 

弟のやり場のない苦痛や悲しみを
半減して上げることも・・
 
 
受け取めて上げることも出来ない
未熟なわたしたち・・・
 
 
あのままの状態で自然に逝くのを
待たされていると思うと・・
辛いものがあります・・・
 
 
4女クンが突然・・・
「お父ちゃんとお母ちゃんのお墓参りを
しに行こうか?」
 

と言いだし・・
4女クンの車でそのまま地元の菩提寺の境内にある
お墓まで直行しました・・
 
 
 
「お父ちゃん、お母ちゃん!
どうかYの苦痛を取り除いてやって!
 

お母ちゃんの一番可愛がっていた跡取り息子が
もう絶対助からないと言われながらも・・ 
 

毎日死ぬような苦痛の中で日夜頑張って
もがいてるんやで・・・
 
 
もうそろそろ・・・十分頑張ってきたYを
苦しみから解放して楽にしてやって・・!」 
 
 
とお墓の前で個人的にお祈りしましたが・・
後で聞きましたら・・
二人の妹も同じ事をお願いしたそうです・・・
 
 
弟の苦しみを見かねて
つい残酷で憐れな願いをしてしまった
薄情なわたしたちです・・・
 

鳥の脚のようになってやせ細った脚に
サランラップを巻き付けたような
薄い皮が覆っている脚・・・
 
 
あのがっしりとした頑丈な体が
こんなにやせ細ってしまって・・・
枯れ木のようになってしまった弟・・・
 
 
帰ってきてからもなんとか 楽にしてくれと
哀願してるような・・・
 

弟の泣きそうな表情だけが
妙に心に残っています・・・