逮夜参りで毎週火曜日に実家へ帰る道中・・・
眠気覚ましに知ってる限りの歌を大きな声で
歌うのが私の習慣となってしまった・・・

ところが何故か・・・
歌えない歌が出てきて・・

声が出なくなって・・・
涙が溢れてくる・・・
 
みかんの花咲く丘・・・
 
元気なときの父と母と一緒に
丘から眺めた遠くの海に浮かぶ客船・・・

子どもの頃父と母は毎年夏休みの一日を
私たち姉妹を連れて
 
バスに乗って小浜へ出掛けそこから汽車に乗って
海水浴場のある高浜へ連れて行ってくれた・・・
 
城山公園でくつろいで
私たちは夏休みの宿題の貝殻や

海で採れるもずくやわかめや昆布などを採取し
乾かして標本にして提出したり・・

草花の標本採取に私たちの住んでる山奥以外の
植物が海辺で採取できるのが楽しみだった・・
 
水筒にお茶を入れて持参し果物やお菓子やゆで卵や
おにぎりなど母の手作りのお弁当は美味しかった・・

帰りは小浜で汽車を降り遊覧船に乗って
蘇洞門巡りをしたっけ・・・

その後大衆食堂で食べた氷水や
カレーライスやきつねうどんの美味しかったこと・・・

そのときの・・・
親が生きていてくれて姉妹の揃った楽しく
幸せだった頃の懐かしい光景を思い出すから・・・

みかんの花咲く丘は・・・ダメ・・歌えなくなった・・
 
顔面涙と鼻水で溢れ出し・・・・
 
味噌もクソも一緒だという表現は
私のためにあるのかもしれない・・・!

車のフロントガラス拭き用のタオルが
目の前にあった・・・

とりあえず片手で取って・・顔をそのタオルで
拭きました・・・
 
なんか油臭い・・・

衣類や首筋には好きな香水の香りを吹き付けて
ぷんぷん香らせ・・・
ルンルン気分で車を運転してきたのに・・

なんか顔から異様な臭い・・・・

でももうちょっとの辛抱や・・・

後15分ぐらいで小浜インターや・・・

だけど・・これって絶対に変???
 

仕方なく途中のサービスエリアへ入り・・
真っ先にトイレへ駆け込み
自分の顔を眺めました・・・

相棒め~!
フロントガラスを拭くタオルで
自分の革靴を拭いたらしいわ・・・

私の顔はおでこやほっぺが靴墨で黒ずんでいた・・・・・
手に取ったときに吟味しなかったのがまずかったけど・・・

高速走行中でしかも片側走行のトンネルの中
ゆっくり見てる暇はなかった・・・

トイレで応急処置・・
とりあえず化粧を全部拭き取りました・・
 
ノーメイク状態になったまま実家へ・・!

悲しいという気分は全く消えて・・・
疲れ切って・・・

この顔では表玄関から入る勇気も無く・・
亡くなった母の部屋に通じる
裏の勝手口からそ~ッと・・・

「こんにちは~今日はこんな所から失礼します!」
・・・と入って行きました・・・

「羽ちゃんはいつも急に
番狂わせで出現するんだからびっくりするわ!」

と・・いきなり年子の妹に言われ・・・
 
・・・あんたよりその倍ほどびっくりしたのは私の方や・・・
と心の中でつぶやきながら・・

その日は何事もなかったように振る舞い
逮夜参りの供養は済みました。